反省会と謝罪
基本的に、銃火器クラスでは模擬戦闘の後に反省会を行う。
反省会と言ってもそんなに暗い物ではなく、『あの時のあの行動は良かったね』とか『ああしとけば流れが変わっていたかもしれない』といった、将棋における感想戦のような物だ。
その反省会の最中、かのリディア・キャンプスが僕に話しかけてきた。
「あなたの銃の腕前、とてもよかった」
「いや、キャンプスさんには敵わないよ。結局キャンプスさんに撃たれちゃったし」
「私はただ、授けられた銃と一緒に銃士の才能が付いていただけだから。あなたは狙撃に関する才能を持っていないのにも関わらず、私について来られた。これは評価に値する」
銃火器クラストップと目される彼女からそこまで賞賛されると、ちょっと照れてしまう。
「実は、ちょっとお願いがある。機会があればで良いから、あなたの船に乗せて欲しい」
「どこか行きたいところでもあるの?」
「海の魔物を狩ってみたい。私の実家は内陸で陸地の狩りの経験はたくさんあるけど、海の狩りはやったことがない。銃士として、一度は海の狩りを経験してみたい」
「わかった。機会があれば海の魔物討伐に参加してもらいたい」
「――ありがとう」
キャンプスさんは、どうやら授かり物や才能に依存せず、努力を怠らない人らしい。
そういう人を見ると、こっちも何かしら協力したくなる。
そしてキャンプスさんとの会話を終えると――なぜか僕達二人のことを全員が珍しい物を見る目で見つめていた。
近くにいた子にその理由を聞いてみると。
「キャンプスさんって、普段無口だからさ。あんなに長くしゃべっているなんて珍しい――いや、初めて見たかも」
もしかしたら、長く話したくなるほど気に入られたのかもしれない。恋愛的な意味ではなく銃の腕前的な意味だと思うけど。
屋敷に帰ってから、なぜか僕は床に正座させられていた。
帰ってきて早々、なぜかメアリーに自室へ連れて行かれると、正座させられたのだ。
「なんで私が怒っているかわかっていますか?」
「いや、全く」
本当に、何も心当たりがないのだ。
「お兄様は私に内緒で他の女子と仲良くしていたとか。確かキャンプス男爵家のご令嬢でしたっけ……?」
キャンプスさんのことか!
確かに仲良くはなったと思うが、いわゆる浮気的な物ではない。
「キャンプスさんとはメアリーが思っているような関係じゃないぞ。お互いに銃の腕前を競い高め合う――そう、ライバルみたいな関係だ」
メアリーはしばらく無言で僕のことを見つめていた。
そして一応の答えを見つけたのか、ため息を吐きながら口を開いた。
「わかりました。とりあえずその言葉を信じます。ですがこれだけは覚えておいてください。貴族社会において何人もの女性と結婚するのは当たり前です」
この世界と前世の違いは色々あるが、婚姻制度は魔法や才能と並んで特筆すべき違いだろう。
この世界では重婚が可能だ。もちろん結婚する相手が増えるほど生活費等の負担が増えるので経済基盤がしっかりしていなければならず、事実上王族・貴族・富豪の特権となってしまっているが。
重婚・一夫多妻というと女好きな男が気に入った女性を片っ端から娶るという好色なイメージがつきまとうが、少なくともアングリア王国ではそういうタイプは少数派だ。
重婚するのは社会的な地位が高い人が多く、それに伴って家同士の結びつきや利害関係を確たる物にするために行う場合が多い。要は政治的な理由で多数の人と結婚するというパターンが多い。
そんな中、一夫一婦状態でいる父様と母様は超レアケースというわけだ。
「ですが、他に女性とお付き合いするのであればまず私に一言おっしゃってください。それと、夜伽をするのも順番が重要です。私が最初ですのでそこはお忘れ無く」
「他の女性と付き合うなんてまず無いと思うけど、とりあえずわかった」
むしろ、メアリーの口から夜伽についての話が出たことに衝撃を感じてしまったが、すぐに納得してしまった。
僕も結構この世界になじんできたのだと思う。
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