第64話 それはサイドスキルでした
「お前のサイドスキルは極めて特殊なものだな」
「サイドスキル」
私のサイドスキル……能力鑑定でトラヴィスには見えなかったものだ。てっきりないのかと思っていたけれど……違うの?
「黒竜の目はすべてを見通す。神官には見えなかった聖女の力もな」
黒竜の声は辺り一帯に低くずしんと響く。それに反応したのはトラヴィスだった。
「黒竜。彼女のサイドスキルについて教えてほしい。あなたにはどんなものが見えているのか」
「幾重にも積み重なる輪。それの端が繋がっている。恐らく、死ぬことはなく何度でもループするサイドスキルの持ち主だな」
……え?
どういうこと。どういうこと、どういうこと。
私が15歳の啓示の儀からループし続けているのは『サイドスキル』によるもの、ってこと……?
突然のことに黒竜の話していることが理解できない。頭には入ってくるのに、受け入れられない。だって、私は。
――好きな人に殺されてループしているんじゃないの?
最初の人生でマーティン様に階段から突き落とされ、二回目のループで勇者リクに盾にされ、三回目のループで親しくなった騎士に倒れたところを見殺しにされ、四回目のループでは信頼していた神官に投げ捨てられた。
もう全部酷くて悲しくて自分の見る目のなさにいらいらもするけれど、とにかく私は好きな人に殺されたはずだった。
顔はぽかんとしているのに、手が震えて止まらない。黒竜はぐるる、と低く唸ってから続ける。
「強き者。名を、セレスティアと言ったな。お前のはじまりは、先見の聖女だ。……死なないサイドスキルを持っていたようだな。それがそのまま受け継がれている」
「あの……ちなみにそのサイドスキルに、『決まって好きな人に殺される』とかのオプションはついていませんか」
「……」
黒竜は、何言ってんだこいつ、という目でこちらを見ている。でも私も本気です。
「だって、私は好きな人に殺されて15歳からの人生をループしているのです。サイドスキルのせい、っていうのはわかったけれど、オプションがないと納得できない」
「セレスティア。今重要なのはそこじゃない。サイドスキルを無効化する方法を考えよう」
トラヴィスの言葉で我に返る。
そっか。それもそうだった。好きな人云々はどうでもいい。このループが聖女の特別なスキルによるものなら、無効化さえできれば脱却できるのだ。
我に返ったので周囲の気配を探る。なんだか、バージルたちの間に微妙な空気が漂っている気がする。やめて。同情するのはやめてほしい。
「なんかアンタ、かわいそうね? そんなに美人なのに。やっぱりダサかったから」
「セレスティアは美人だけどダサくない」
バージルもトラヴィスもほっといてほしい。
話を聞いていたリルがくるりと飛んでかわいい幼体の姿になる。
『こくりゅう、サイドスキルをむこうかするのってどうしたらいいんだっけ。なんかいろいろおもいだしてきたきがする』
「……その前に、セレスティアが持っているサイドスキルは不老不死に近いものだぞ。欲深い人間が欲しがるスキルだ。本当に無効化していいのか」
黒竜からの問いに、私は目を瞬かせる。
「そんなの……」
一度目の人生のことが脳裏によみがえる。とてつもなく凹んだときに、トラヴィスがトキア皇国の星空を見に連れて行ってくれたことがあった。あの想い出が残っているのは、私の中にだけ。
今回のループだってそうだ。
バージルの田舎・ミュコス名産のレモンティーや、私たちを救ってくれることになったアリーナの手の温もり。リルが肩にのったときの重さと、気軽にお腹を見せまくるのを皆で愛でる柔らかな空気。彗星を消す前夜、シーツ越しに私をなでてくれたトラヴィスの優しい手。
ループしてしまうなら、それも私の心の中だけのものになる。誰も知らなくて、誰ともわかりあうことのない、閉ざされた想い出に。
「そんなの、どうだっていい。不老不死なんていらない。私は、このループをおしまいにしたい」
黒竜の目をまっすぐに見つめ、きっぱり告げる。
「あいわかった。それなら我の鱗をやろう。万能薬のもとになる。サイドスキルを消すことも出来よう。聖女らしい資質を備えた友人のためになら痛くもかゆくもない」
「それで本当にループしてしまう人生は終わるのですか」
「もちろん。フェンリル、鱗をとれ」
待ってましたとばかりに、リルは黒竜の背にぴょんと乗った。
『じゃあとる』
「い、痛い。痛いぞ、フェンリル」
なんかじゃれてる。
そして、リルは黒竜の鱗をカリカリカリカリやっているけれど、全然取れない。
『ぜんぜんとれない』
「うーん。やっぱり、朝一番だな」
リルと黒竜の会話に私は首を傾げた。
「鱗をいただくのに適した時間帯があるのでしょうか?」
「ああ。朝一番じゃないと鱗は取りにくい。もっとガリガリやれば採れるが、我は痛いのは嫌だ」
ですよね。
「では、明日の朝また来ます」
「そうしてくれ。我は寝ないが、人間は眠るだろう。散歩でもして静かにしていてやろう」
「あっ」
言い終えると、黒竜はばさりと翼を広げて飛び去ってしまったのだった。
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