第60話 夏休みだぁ!!
学園祭から数週間が経過した。
あの日を境に4人の仲はさらに深まった。学園祭をギルと一緒に巡れなかったのは少し残念ではあったが、その後もギルとは親交を深められている。
しかし、楽しい学園生活もしばしのお別れを迎える。
そう、夏休みだ。
学園の本来の役割は、帝国に対抗することの出来る人材を育てる事だ。しかし、かといっても只々休みを無しに教育を施すだけでは、生徒の精神衛生上良くない。
また、学園には貴族も多く通っており、領地が学園から離れている者も多い。また他国から来た者に関しても同様のことが言える。その者たちが帰省できるよう期間を設けてほしいという要望が多数寄せられたことから、長期休暇を設けることが決められたそうだ。
俺は冒険者として活動することになりそうだと思っていたが、どうやらそれだけでは終わらなさそうなのだった。
◆
「皆でのお父様の領地の別邸に遊びに来ない?」
「え? フィーネの領地に? それは俺たちが行って大丈夫な奴なのか?」
俺はただの子爵家の嫡男であって、本来ならフィーネとはお近づきになるのさえ難しい立場だ。
「大丈夫って何が? 友達を遊びに誘うのは当然の事でしょう? それに、カイルには一度会いたいとお父様が言うから、それなら領地に来てもらおうという話になって、誘うことになったという訳。勿論、ギルもマリアもアレクさん達だって連れてきてもらって結構よ?」
「すまん。俺は国に帰らなければならないから行くことは出来ないんだ」
ギルは前々から夏休みは将国に帰ると言っていたし、仕方がない事だ。
「ギルは仕方ないわね。じゃあカイルは?」
「本当に俺が行っても大丈夫なのか? その...... なにか失礼に当たることでもしたら......」
フィーネの父、レンフォード侯爵家の現当主は、エデルバルク王国の現宰相を務めており、国を裏から動かしているとまで言われている傑物だ。抜本的な改革案を幾つも実行に移し、成功を収めている。
だが、その一方で、多くの役人を辞めさせるほどの人間でもあることが知られている。人の心を持たない鬼だという噂もよく耳にする程だ。
宰相が情に流されているようでは、国が立ち行かなくなるのは理解できるが、面と向かって話すのは少し、いや、相当に怖い。
冷徹な人間であることが知られているため、幻滅でもされてしまえばあっさりと切り捨てられる可能性まである。そうなれば、エルドルド家という名まで汚すことになりかねない。
行くのには大変勇気がいるという訳だ。
「大丈夫よ。カイルは私と、そしてライの友達なのだから。万が一カイルが何かやらかしても何とかするわよ。それぐらいは私を信じてなさい!」
「でもなぁ......」
「カイル。君なら大丈夫だ。レンフォード侯爵は怖いと噂されているのは僕も知っているよ。でも、その噂を流しているのは第一王子派閥の人間であって、本当の事ではないんだ。カイルも一度会えば分かるさ。もしもの時は僕がカイルの力になるしさ! ね?」
ライの言葉を疑う訳ではないが、やはり怖いものは怖い。だが、ライに忠誠を誓った者として、味方の筆頭であるレンフォード侯爵には会っておかなければならないものまた確かだ。
ここはフィーネとライを信じていくべきなのかもしれないな。
「分かった」
「なら......」
「一度、相談させてくれ。 俺が行くとなれば勿論マリアやアレク達も連れていくことになるだろう。行くならば、全員が納得した状態で行きたいんだ」
「確かにそうね。私も少し急ぎすぎたわ。しっかり話し合って決めて」
「あぁ、期待しないで待っててくれ!」
「そこは期待して待っててくれ! っていう所じゃないの!!!」
「はぁ.......」
「はぁ......って何よ!?」
フィーネが悪い訳じゃないんだがな。いきなり侯爵に会うのは身が持たない。しっかりと覚悟を持って臨まなければ、待っているのは地獄だ。
フィーネの一言に頭を悩ませるカイルであった。
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