第41話 フィーネ視点 回想①

 私はフィーネ。エデルバルク王国第二王子のライノルド殿下の婚約者。


 ライの婚約者として初めてライに会ったのが、まだ私が5歳の時だった。


「僕はライ…… よろしくね」


 当時のライは女の子なんじゃないかと思うほど華奢な体だった。金髪碧眼で可愛らしい顔立ちであることも相まって天使かのような印象を受けたことを覚えている。


「わたくしはフィーネと申します。よろしくお願いします……」


 私は、父上が侯爵家であったこともあって、婚約者に選ばれた。


 当時の私は婚約者として一生を終えなければならないことに対して絶望感を抱いていた。


 しかし、ライは私に対して優しく接してくれた。


 ライの優しさに触れたのはある日の会話だった。


 その日は王宮の庭で2人きりで過ごしていた時だった。お互いが10歳になり、自我がはっきりした頃だった。


「フィーネ、僕の婚約者でいるのが嫌になったら言ってね」


 突然ライから発された。これまでの期間、私とライが会う機会はとても少なかった。それは私の心が安定しなかったからだ。婚約者として生きることに納得がいかなくて、悩んで悩んで、体調を崩した。このことがライの言葉に影響したのだろう。


「い、いきなり何なのですか!?」


 不意にこのようなことを言われた私は戸惑ってしまった。


「僕はね、フィーネには幸せになって欲しいんだ…… フィーネが僕といることが嫌なら離れるよ…… 離れることがフィーネの幸せに繋がるのならね」


 そう言うライは寂しそうな顔をしていた。ライとライのお兄さんとの仲はすこぶる悪い。第一王子とライはいつも比較され、ライが無能であると結論付けられていた。それでもなお、ライは自分ではなく他人の幸せを願える人間なのだと子供ながらに感心したものだ。


「いつもフィーネは暗い顔をしてる。それは僕と一緒にいるからなんだよね...... こんな僕が婚約者だからだよね。ごめんね。こんな僕で……」


 ライは比較をされて生きてきた。そのせいか、自分を卑下する発言を平気で取るようになっていた。


「ライ様。正直私はライ様と婚約してからというもの、自分がどう生きていくべきか悩んでいました。ライ様との婚約破棄を考えたこともあります……でも、だからといってライ様が悪いことなど一つもありません。悪いの私です」


 そう。悪いのは私。ライは何も悪くない。その時の私はそう伝えたかった。なのに……


「いいんだ…… 僕がひ弱なのがいけないのだから……」


 すぐ自分を卑下するライにその時の私はついイライラしていたのだろう……


「ライ様っ! なんでそう貴方はいつもいつもっ! 自分の事を卑下するのですかっ! 貴方はこんなにも優しいのに……こんな私にも優しさを見せてくれるのに……なんで……なんでっ!」


 ついカっとなって失礼なことを言ってしまった。このことで叱責されて婚約を破棄されることも頭によぎった。


 嗚咽が出るほど泣きじゃくりながらも私の気持ちを全力で伝えた。


「フィーネ。ごめんね。苦しかったよね…… ぼく、ぼく! 頑張るから…… だからっ! 僕の前からいなくならないで欲しい…… ずっと、ずっとずっとそばで、僕の側で笑っていて欲しいんだ…… 」


 こんなことを言ってもライは受け入れてくれた。ライから本音を聞けたのはこの日が初めてだったと思う。


 ライも言いたいことが言えて緊張の糸が切れたのか、わんわんと声をあげて泣き始めた。


 そこからの記憶は朧気だった。でも、この日をきっかけに私とライとの仲が本当の意味で深まったことは確かだと思う。ただの形式上の婚約者から、やっと一歩、本当の婚約者として進み始めた気がした。


 その日は抱き合いながら心ゆくまで泣き合った。その後、私の体調が崩れることがなくなった。


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