第二節:俺の常識、ゴミである
第7話 受付嬢・ミランは何故かポカン顔
キィと扉を押し開けると、中は戻って来た冒険者たちで賑わっていた。
日が落ちてくるこの時間帯はいつもこんな感じなので、俺ももうすっかり慣れっこだ。
クイナと一緒に幾つかある依頼達成確認窓口の列の内の一つに並び、大人しく自分たちの順番を待つ。
すると前の人が去り見えた顔は、良く見知ったものだった。
「あ、アルドさん、クイナちゃん。お帰りなさい」
「ミランさん、ただいまなのーっ!」
「ただいま戻りました。コレお願いします」
そう言って今日の収穫物たちを取り出すと、すぐに確認を始めてくれた。
彼女は、いつもお世話になっているやり手のギルド受付嬢・ミラン。
やり手というのは『仕事ができる』という意味だ。
相手が欲しがっている情報を先回りして教えてくれたりするのが得意な、痒い所に手が届く、重宝すべき職員である。
クイナも彼女にはよく懐いていて、俺はクイナがこの女性をどこか姉のように思っている様な気がしていた。
「……はい、リトルボアの討伐部位が15体分とエキノキ草が50本ですね。確認しました。今日も依頼達成です!」
「やったーなの!」
受付嬢のミランが依頼書にポンッと受領印を押してくれた。
クイナが隣で両手を上げてピョンッと喜ぶ。
それを「よしよし」と撫でて――いや、宥めながら、出てきた報酬を受け取った。
するとここで、ミランお得意の『先回り』が発動する。
「あ、アルドさん。今日もリトルボアの買取しましょうか?」
「お願いします。それとあともう一つ、買い取ってほしいモノがあるんですが……」
彼女の声に頷いて、今日はさらに追加で一つお願いしたいものがあるのだと告げてみると、「はい何でしょう?」と快く応じる姿勢を見せてくれる。
依頼外の話、しかも今は忙しい時間帯だ。
にも関わらず嫌な顔一つしなかった彼女に内心安心しながらも、後ろに並ぶ人の事を考え「実は――」と手短を心掛けて今日あった一連の事を彼女に伝えた。
草原でオークの集団に遭遇した事。
それらを倒して持ち帰った事。
流石に恥ずかしかったので、そうなるに至った経緯は伏せて掻い摘んで話をすると、彼女はまず開口一番心配をした。
「えっ、怪我は?」
「ありません」
一度はガタッと席から立ち上がった彼女だったが、この短いやり取りでホッとしたように表情が緩む。
が、それも少しの間だけだ。
気を取り直した彼女は自らの職務を忘れない。
「ご報告ありがとうございます。では残りのオーク達はこちらで討伐隊を編成して対応しますのでご心配なく――」
言いながら、有能な受付嬢はすぐに手続きの紙を机上に出した。
その紙には、この辺の周辺地域の簡単な地図も書かれている為、おそらく場所をヒアリングでもするのだろう。
が、討伐隊はちょっと待って欲しい。
「あ、いえ、全て倒して帰って来たので、討伐隊は必要無いと思いますが」
そう言ってから、「あぁでもギルドとしては調査隊くらいは出さないといけないのかもしれないな」と思い直す。
「もちろんヒアリングにはご協力しますよ。以前ミランさんが教えてくれたオークの生息域とは違う場所で遭遇したので、俺としてもちょっと気になる所ですし」
なんて言いつつ、地図の一角を指さして「この辺でした」と教えてやった。
が、どうしたのだろう。
珍しくミランからスピーディーな反応が返ってこない。
気になってそちらに目を向ければ、ポカン顔の彼女と目が合った。
「えっ、全て倒し……?」
「? はい」
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