その15.子供の日

「やねーよりーたかいーたかいーこいっこいっこいーのぼりー♪」



 室内に、超ヒーリング効果がある(と、医学的に証明されているわけではないが俺があると言えばある)優の歌声が響く。

 それから、



「大きな大きなーはごいーそうーアレはー俺、きーくー♪」



 鬱陶しい耳障りな雑音も。



「小さな小さなーひごいーアレはー優ちゃーん♪ いつまーでーもー幸せにー暮らしましたとさー♪」

「オイ、死にてえのか」

「マジすみませんでした70歳くらいまでは生きたいです」



 樹久の胸ぐらを掴み睨み付けると、ロリコンは震える声で「スミマセンデシタ真也様」と言いやがったので仕方なく一発ひっぱたいてから手を離す。



「結局殴られたんだけど何コレ」



 泣きながら酢飯をかき混ぜる樹久を無視し、鯉のぼりの絵を描く優に近づいて後ろから覗き見ると、紙の上には芸術アートが完成していた。

 将来は画家にもなれそうだな……。


 俺の存在に気づいたらしい優は、ぱっとこちらを振り返る。



「ぱぱ、みてー!」

「おう、どうしたー? ちなみにパパはいつでも優のことしか見えてないぞー」



 太陽のような笑顔に、思わず俺まで表情が緩む。

 小さな頭を優しく撫でながら、優の説明に耳を傾けた。



「あのね、これがぱぱでー!」



 一番上の大きな鯉を指差す。



「これがゆうでー!」



 次は真ん中の小さな鯉。



「これがきっちゃん!」



 最後に、やや大きめの鯉。



「優は相変わらず絵が上手だなー。でも樹久は鯉じゃなくてなんか一番下で垂れてるあのカラフルなやつでいいんだぞー」

「何それひどくね!?」

「もしくは棒の先に付いてるカラカラ回る輪っかでいいぞー」

「俺の扱い雑じゃね!?」



 いちいちツッコんでくる樹久は無視だ、無視。いないものとして扱っても大丈夫だ。



「全然大丈夫じゃないよ!? 俺のソウルを聞けーッ!!」

「魔が差したらな」

「せめて『気が向いたら』にして!?」



 喚き散らしながら出来上がったちらし寿司を皿に盛る樹久……ダジャレじゃないからな。


 ああ、説明が遅れたが察しの良い皆様はもうお気づきだろう。そう、今日は『子供の日』である。

 男の子供がいる家庭では鯉のぼりや兜を飾るだろうが、残念。優は女の子だ。

 女の子なのが残念って意味じゃない、断じて違う。


 まあとにかく……清楚でおしとやかで可愛くて天使のような女の子の優だが、彼女も子供であることに変わりはない。

 つまり、『子供の日』にお祝いしないわけがないんだよな。



「真也ー、できたぞー」

「ご苦労だったな」

「何で上から目線?」



 料理や箸をテーブルに移動させ、椅子に座るよう優に促す。

 描き上がった芸術品は予め用意してあった額縁に入れ、壁に飾り付けた。



「優ちゃん、一応こんなのを作って持ってきたんだけど、かぶる?」



 そう言って樹久が取り出したのは、画用紙で折られた兜。……コイツにしては気が利くな。


 女の子だからかぶってはいけない、なんてルールはないしとやかく言う気もない。俺は海のように心が広いからな。

 優は喜んでそれを受け取り頭にかぶって、



「にあう?」



 と、はにかんだ。



(……は?)



 なんだ今の可愛すぎだろ。天使か?

 いや、天使だったな。



「もちろん似合うに決まってるぜ優ちゃん!」



 似合わないとか言う奴がいるならつれてこい。戦争だ。


 それじゃあ、と三人で手を合わせ、



「いただきます」

「いっただっきまーす」

「きます!」



 ちらし寿司を口に運ぶ。


 開いた窓の向こう側――お隣の家では、3つの鯉のぼりが仲良さげに空を泳いでいた。



「ところで何でここにいるんだお前」

「えっ? ここにきてそれ言う? いい感じに終わりそうだったのに言っちゃう? 鬼かお前は! 鬼畜外道! 悪魔!」

「態度がーでっかいーでっかいー城田樹久ー♪ 残った命はーあとーわーずーかー♪」

「痛い痛い! 無理無理、食べられない! 目は口ほどに物を言うけど目からちらし寿司食うのは無理だから! 調子に乗ってスンマセンお父様!!」

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