610.一家に一台相川さんがほしい

 相川さんは笑いの沸点が低すぎると思う。

 メイに尾を振るのを止めさせようとしていたのだが、それが何故か受けたらしくクックッと笑っていた。


「佐野さんが、パパやってる……」

「えええええ」


 パパって。


「お昼、用意しますね」


 相川さんは笑いながら台所へいった。しょうがないので俺はメイに、尾の使い方はちゃんとニワトリたちに習うように言った。リンさんの尾の振り方はダイナミックすぎる。


「お待たせしました」

「うわーあ……」


 本日のごはんも豪華である。


「これはインスタントですけどね」


 堅焼きそばだった。上にかかっているあんかけの味付けはインスタントだろうが、大きめの具材はそうではないだろう。相変わらず相川さんの家ではしいたけ祭りらしい。おいしいから俺は嬉しいけどな。

 他にきゅうりの叩き(潰したにんにくが入っていてうまい)、野菜サラダ、トマトと卵の炒め、地三鮮、シシトウと唐辛子を使った中華風豚肉の炒めなど相変わらず豪華だ。スープは中華コーンスープである。これ以上の幸せはあるだろうか。いやない。


「今日は中華ですね」

「ええ、お口にあえばいいのですが」


 相川さんはニワトリたちにも野菜を出してくれる。


「相川さんの料理が口に合わないなんてことあるわけないじゃないですか!」


 つい力説してしまう。だってどれもおいしいし。


「そう言っていただけると嬉しいです」


 相川さんははにかんだ。俺にはにかんでもときめかないのでやめてください。くそう、これだからイケメンは。


「いただきます」


 手を合わせてまずは大量のお昼ご飯を平らげた。誰かが作ってくれるだけで幸せなのに、それが相川さんのごはんとか。堕落しないように気を引き締めなくてはいけないと思う。

 食後のお茶をいただいてから桂木さんにどう話すかを考えることになった。


「……この際桂木さんには正直に伝えてもいいとは思うのですが……従弟を応援したい気持ちがないともいえないんですよ」


 相川さんとしては複雑だろう。


「ただ、リエさんは未成年でしたっけ」

「高校は卒業しているはずですから、18か19歳ですね。去年卒業したようなことを言っていたから19歳かな?」


 そこらへんはうろ覚えである。


「従弟は確か、三十のはずですが……もしかしたらまだギリギリ二十代かもしれません」

「それでも十歳は違いますね。会話とかどうなんでしょう?」


 例えば二人の関係がうまくいったとしても十歳も違うとなるとどうなんだろうとも思ってしまう。そこは俺が考えることじゃないな。

「佐野さん、本当にすみません……」

 相川さんがうなだれた。事情を話せない分、疲れてしまっているみたいだ。明日二人が顔を合わせればはっきりするとは思う。実際に会ったら「久しぶりー」程度で済むかもしれないし。


「相川さんが慎重になる気持ちもわかるんですけど、案外何もないかもしれませんよ。知り合いがいた。偶然ですねで済むかもしれないじゃないですか」

「それならいいのですが」


 というわけで、桂木さんには正直に伝えることにした。事前にLINEを入れ、桂木妹には聞かれない場所に移動したら連絡してほしいと書いた。


「もしもし……なんなんですか、もー」

「ごめん。本宮さんの件なんだけど」

「はい」


 桂木さんは不満そうだ。そりゃそうだよな。


「相川さんの従弟さんでさ。今回のごみ拾いウォークに参加するんだって」

「はい」

「で、その本宮さんなんだけど、もしかしたらリエちゃんの知り合いかもしれないんだよ」

「えええ?」


 桂木さんも驚いたみたいだ。まぁ、少なくとも高速使って三時間ぐらい離れたところからここに移住してきてるわけだしな。


「ど、どういう知り合いなんですかね……?」

「はっきりとはわからないけど、リエちゃんがバイトしてた先の店長さんかもしれないんだ」

「…………」


 桂木さんは黙った。


「ただ、本宮さんにはリエちゃんがいるようなことは何も伝えていないし、実際には思い違いかもしれないからなんともいえない」

「……でも、本宮さんて名前は知ってそうでした」

「うん。だから知り合いの可能性もあるかもしれない」


 希望的観測だと、その町では本宮さんが多くて違う本宮さんの可能性もあるかもしれない。そういうところってあるよな。


「桂木さんが住んでた地域って、本宮さんて苗字それなりに聞いてた?」

「……聞いたことないですね。でも町っていうより何丁目とかでこの辺は誰誰さんが多いって地域はありましたけどー……。一応知り合いと思った方がいいんですよね。で、その方って男性ですか?」

「ああ、うん。三十代ぐらいの男性らしいよ」

「えー……」


 桂木さんが困ったような声を発した。


「警戒するなら明日は参加しない方がいいと思う」

「参加はしたいんですよー。あとは……特に嫌なかんじはしないんですよね」

「そっか」


 前にナギさんが来た時は嫌な予感がしてごみ拾いウォークには出てこなかったもんな。


「って言っても……元カレがDV男だって気づかなかった程度の勘ですけどねー……」

「いや、それはわかんないって。付き合ってる時は普通だったんだろ?」

「そうですけど……」


 桂木さんは自分の見る目に自信がないみたいだ。つーか、付き合ってる時が普通だったのに、同棲したらDV男になるとか誰がわかるんだよ。妊娠したら豹変したとかも聞くじゃないか。そんな男を掴んだ女が悪いみたいな言われ方をされるけど、それはもう運が悪かったとしか言いようがないと思う。

 人間どうしたって自分が基準になるから、どうして自分のように普通の相手を掴めなかったのだろうと思うかもしれない。でもそれはとても残酷な考えだと思うのだ。


「……明日はその人に会えるんですよね?」

「うん、参加すると言ってたよ」

「わかりました。リエの様子を見て、考えます。相川さんの従弟さんでしたら……相川さんも相談に乗ってくれるんですよね?」


 スピーカーにしていたので相川さんが頷いた。


「うん、それはもちろん」

「じゃあ、また明日。よろしくお願いします」

「うん、よろしく」


 そう言って電話を切った。相川さんがはーっとため息をついた。


「申し訳ありません。本当は僕が連絡しないといけないんですが……」

「いえ、別にいいですよ。乗りかかった舟です」

「……佐野さんが天使に見えます」


 相川さんに言われて鳥肌が立った。


「止めてくださいよ」


 腕をさする。ああもうキモい。さすがに男はお断りだって。恋愛自体もう勘弁だし。

 帰りにまたシイタケを持たされた。夏の間は暑さでそれほどできないらしいのだが、日陰にあるのからは出てきたりするらしい。

 山の上だから真夏でも涼しい場所があるのだろう。

 ありがたくいただき、ユマとメイを乗せて帰ったのだった。

 さあ、明日は養鶏場でごみ拾いウォークだ。



次の更新は27日(木)か28日(金)です。よろしくー

フォロワー20000人記念SSも書かないと。


相川さんごはん食べたい(ぉぃ

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