1400万PV記念SS「GPSをつけてみたら」

1400万PVありがとうございます!

翌年の春頃のお話です。佐野君は山唐さんの事情も大体聞いています。



 以前腕時計をポチにつけて、この時間までに帰って来るようにとタマに頼んだことがあった。

 もちろん針の長さと位置を説明し、ここがこうなったら何時だというのを教えている。とはいえ教えたのはその一回だけだったからもう忘れているんじゃないかと思う。

 しかもあの時はポチに首輪を付けさせてもらって、そこに腕時計を付けたのだ。戻ってきた時腕時計には傷が付いていたし、ポチもなんだか不満そうだった。首輪が気になって思ったように走ったりできなかったのかもしれない。

 いつもだいたい太陽の位置を確認して帰ってくるみたいだから、それからは腕時計を付けるのは止めたのだった。

 ニワトリたちの行動が気になって後をつけて行こうとしたこともあったし(100万PVSS参照。近況ノートにあります)、カメラを付けようかと思ったことも何度かあったが、途中でなくすか壊して帰ってきそうで怖かった。カメラもただじゃないしな。

 でもニワトリたちの行動が知りたい俺は、GPSなるものを買ってみたのである。


 ババーン!(効果音) これがGPSだ!

 

 小さい四角のようなものである。これだけではニワトリたちは持てないし、持たせたところで一瞬でなくすだろう。だがうちには肩掛け鞄がある。斜め掛けする小さめのデイバッグで、ニワトリ用の飲み水ぐらいは入るやつだ。(360mlのペットボトルぐらいなら入る)それにGPSを入れ、タマに出かける時かけてもらうことにした。

 ポチだとあっちこっちに引っかけてしまいそうだと思ったからである。え? タマでも変わらないんじゃないかって? でもタマは家の中でドリフトできるぐらいだしなぁ。

 ニワトリのドリフト、ありえないと思う。

 それはともかくGPSだ。約4cm四方で、厚さは2cmぐらいのGPSを充電し、タマにお願いした。


「タマ、今日は出かける時これをかけて行ってくれないか?」

「エー」


 案の定タマは渋った。


「試しに今日だけ! 今日だけだから!」

「……イノシシー」

「え?」


 もしやタマさん、またどっかでイノシシを見つけたとおっしゃるのか。


「いやいや、だめだって」

「エー」


 GPSを付ける条件がイノシシを狩ってくることとかありえませんからね?

 どこで狩ってくるんだか知らないけど取りに行くのたいへんだし、虫とかついたら嫌だから却下だ。遠くに住んでいるイノシシまで狩る必要はないだろう。


「タマ、この山でならイノシシを狩ってもいいけど、裏山とか、もっと奥とかはだめだ」


 裏山の更に奥の山は国有林だ。さすがに勝手にイノシシを狩っていいわけがない。でも国有林だと山唐さんに断ればいいのか? でも山唐さんとこはあそこの三座だって言ってたから、うちの裏山の更に北側は管理してる人が違うはずだよなぁ。

 タマはじっと俺を見ている。


「とにかくイノシシ狩るのはだめだ。日中は暑くなってきてるからすぐ食べられなくなるぞ」

「……ワカッター」


 返事はしてくれたけど、足がタシタシしている。ツナの水煮缶あったかな。


「帰ってきたらツナあげるからさ」

「イイヨー」


 タマさん、即答でした。タマはツナが好きらしい。俺、覚えた。(何故カタコト)

 というわけでGPSを入れた斜め掛けのデイバッグを付けさせてもらった。


「もしどっかで引っかけたりして危なかったから、捨ててきてもいいからな?」


 ニワトリが怪我をするのはいただけないのでそれはきちんと言っておいた。GPS自体にも金はかかるが、タマの方が大事である。


「ワカッター」


 そう返事をすると、タマはポチと共にツッタカターと走って出かけて行った。あのでかいサイズのニワトリたちが走っていく姿はいつ見てもすごいなと思う。

 今日も雑草との闘いだ。

 ユマがトトトッと近寄ってきてくれた。


「ユマはかわいいなぁ」

「カワイイー?」


 コキャッと首を傾げる姿があざとかわいい。


「うん、ユマはかわいいよ」

「カワイイー!」


 バッサバッサと羽を動かす姿がもっとかわいい。自分の顔が崩れているのがわかる。でもいいのだ。ここでその崩れた顔を見ているのはユマだけである。

 このかわいさのおかげで俺もいろいろがんばれるのだ。かわいいって偉大だ。

 畑の草むしりをし、野菜に虫が付いていないかどうか確認する。今日は大丈夫そうだ。

 家の周りの草むしりをしたり、少し離れたところは電動の草刈り機でバサーと刈ったりした。その際はユマに遠くにいるように伝えている。ユマは俺が大好きみたいで、気がつくと近くにいるから危ないのだ。

 あー、ユマかわいい。(ニワトリバカここに極まれり)

 そんなことをやって汗だくになった。


「ユマ、シャワー浴びてくる。その後でごはんの用意するからよろしくなー」

「ハーイ」


 ユマの返事がかわいすぎるんだが。(しつこい)

 シャワーをざっと浴びてからスマホを見る。GPSの位置を確認しようと思ったのだ。


「どこかな~?」


 しかし俺はGPSの特性というものを理解していなかった。


「うーむ……」


 うちの山は私有地なわけで。つまり、山の中には道などが記されていないわけだ。そしてGPSの軌跡は立体的ではない。


「……あんま意味なかったな」


 離れた場所にいるというのはわかるが、どこに何があるかわからないので何をしているのかはさっぱりである。全くの白紙の場所を動き回っているということしかわからない。

 これが街中とかなら、今どこにいるとか見れて面白いのかもしれないが、うちのニワトリたちが街中に行くなんてことはまずないしなぁ……。

 まぁでも行動パターンのようなものは見えた。

 あんまり一つ所に落ち着いていることがない。それがわかっただけでもいいと思った。


「タマには悪いことしたな……」


 ツナ缶の在庫を確認する。水煮缶が二缶あったので、今日は一缶分をタマに進呈することにした。もう一缶はポチとユマに分けるつもりだ。

 夜、タマが満足そうにツナを食べてくれたのはよかったけど、それを見たポチが翌日デイバッグを咥えて持ってきた。


「えっと……昨日タマに付けてもらったから大丈夫だぞ?」

「ツナー」

「おい……」


 ポチもツナ缶が好きみたいだ。


「もうツナ缶がないんだよ。買ってこないとさ」

「カッテー」

「カッテー」

「カッテー」

「うおおい……」


 毎日二缶ずつとかけっこうな出費になるから勘弁してほしい。


「だーめ。また今度なー」

「キョー」

「キョー」

「キョー」

「お前ら言うようになったなぁ」


 呆れたけどうちのニワトリたちがかわいいのは間違いない。それから俺はニワトリたちと交渉し、一週間に一度は必ずツナ缶を出すという約束を守ることになったのだった。


おしまい。



楽しんでいただけたなら幸いですー。フォロワーさんも2万近いですね。

2万人をお迎えしましたらまたSSを書かせていただきます。

これからも「山暮らし~」をどうぞよろしくお願いします。

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