608.追及を受けるのはしかたない

 翌日は雑貨屋に頼んでいたパンと牛乳を受け取りにいった。

 養鶏場回りでのごみ拾いウォークは明日開催予定である。パンと牛乳もそうだけど、豚肉のブロックも養鶏場に届けに行った。


「いよいよ明日ね~。ちょっと緊張するわー」


 松山のおばさんがそう言って笑う。


「こちらで待っていて下されば大丈夫なので、明日はよろしくお願いします」

「やあね、こっちがお願いしてるんじゃないのー!」


 おばさんにバシンと背を叩かれてしまった。けっこう力強くてむせそうになった。


「お昼ご飯は本当に食べていかなくていいの?」

「はい、保険の申し込みをしてこないといけないので」


 今回もそれなりに参加者が多そうなのだ。昨年は三日間参加でも保険料は一律300円にしたけど、今年は参加回毎にもらうことになっている。それでも参加したいと言ってくれるんだから、昨年もしっかりもらっておけばよかったななんて思った。

 いや、いくらなんでも今更請求はしないけど。

 相川さんからLINEが入った。今回は子どもが十三名、付き添いの大人も同数らしい。けっこうな規模だなと苦笑する。これに相川さんの従弟さんがプラスされるから全部で二十七名と三羽だ。(今回はタマ、ユマ、メイが参加する。ポチは養鶏場と聞いただけで逃げていった)ちなみにこの数の中に松山さんご夫婦は入っていない。だが松山さんのお子さん家族は入っている。

 ちなみに松山さんのお子さんの家族はこれからこっちに着くのだそうだ。だから余計にお昼ご飯等をいただくわけにはいかないのだ。

 ついてきてくれたユマとメイを助手席に乗せ、家に戻ろうとした。


「ん?」


 ふとスマホを確認するとLINEが入っていた。

 桂木さんだった。なんか、嫌な予感がする。

 そういえば、桂木さんにフォローをしていなかった。


「やっば……」


 おそるおそるLINEを確認した。


「明日は松山さんのところでごみ拾いウォークですよね? ポンチョ、取りに来てくださいねー」

「あー……」


 そういえば前回もポンチョは桂木さんが持って帰ってくれたんだった。何で忘れてるんだろう、俺。相川さんの従弟の件ですっかり忘れていた。


「ありがとう。これから取りに行っていいかな?」

「お待ちしてます」


 返事はすぐに返ってきたので、ユマとメイにこれから桂木さんの山にお邪魔すると伝えて軽トラを回した。

 ユマとメイはココッと返事をしてくれた。助手席の座席を外して、そこに長座布団を敷いているからユマとメイが乗れているが、やっぱ座席があったら無理だと思う。メイが半ばユマのおなか辺りに埋もれているのもかわいい。

 でっかいニワトリと普通サイズにニワトリ。ただし爬虫類系の鱗がついた尾付きってなんなんだろう。しかもこの尾、触るとすべすべしてるけど尖ってる部分もあるんだよな。けっこうな存在感である。

 桂木さんの山へ直接向かう。金網の鍵は開けてあるから入ってきてほしいとLINEが入っていた。

 麓での受け渡しじゃだめってことだよな。

 女子に迫られて白状したくはない。


「ユマ」


 声をかけたらナーニ? と言うように首をコキャッと傾げられた。かわいい。

 じゃなくてだな。


「俺が相川さんの話をしそうになったら止めてくれ。”相川さん”って言葉を発したらつついてほしい」


 ユマはタマじゃないから簡単に言わないと伝わらない。何故かメイが俺をつついた。今じゃないっての。

 ココッ!

 ユマが軽くメイをつついた。

 窘めているらしい。ユマのお母さんっぷりもかわいい。つーか俺、もううちのニワトリが何やってもかわいいんだな。


「ユマ、ありがとうな。メイ、ちゃんとユマの言うこと聞くんだぞ~」


 にこにこしてしまう。

 メイはなんだか不満そうだった。そんな姿にも笑ってしまう。

 鍵はかけた方がいいだろうと、金網の内側に入ってから下りて鍵をかける。そして更に内側の柵を越えて鍵をかけ、とやっていたので桂木さんの家に着くまでにちょっと時間がかかった。面倒と言えば面倒だが、防犯意識は高いにこしたことはない。

 駐車場に軽トラを停めると、家から麦わら帽子を被った桂木さんが出てきた

 手に籠を持っていることから、これから畑で収穫だろうか。


「あ、佐野さん」

「ユマとメイを下ろしてもいいかな」

「はい、もちろん!」

「タツキさんはどちらに?」

「あちらの木の陰です」

「先に挨拶をさせてくれ」


 桂木さんに断って、畑の横に立っている木の陰に横たわっているドラゴンさんに声をかけた。


「こんにちは、タツキさん。お邪魔します。うちのニワトリが虫や草を食べてもいいですか?」


 ドラゴンさんは今日もゆっくりと頷いてくれた。


「ありがとうございます」

「……ちゃんとタツキにも挨拶するんだからおにーさんたちって礼儀正しいよねー」


 桂木妹も出てきた。


「そうかな。当たり前のことだと思うよ」

「佐野さん、ポンチョは用意してありますけど……お昼ご飯まだでしたら食べて行ってください」


 桂木さんが当たり前のように言った。

 スマホを確認する。


「ごめん、今日これから保険の申し込みに行かないといけないんだ。だから受け取りに来ただけなんだけど……」


 今朝はけっこう早くから動いているからまだ11時前だけど、そろそろN町に向かわないとまずい。


「えー」

「そんなー」


 桂木姉妹にブーイングされた。


「じゃあ、お渡ししますけどー……」

「うん、ありがと」


 桂木さんが顔を近づけてきた。


「……本宮さんって方のこと、明日はちゃんと説明してくださいね」


 小さな低い声で言われて、俺はこくこくと頷いた。怖い、桂木さんが怖いよー。


「えーと……後でLINE入れる……」

「わかりました。忘れないでくださいね!」

「うん、じゃあまた後で……」


 明日は本宮さんに会うことになってしまうから、桂木さんに対して事前説明は必要だろう。保険の申し込みをしたら相川さんと話して、それから桂木さんに改めて連絡しようと思ったのだった。


ーーーーー

レビューいただきました! ありがとうございます!

コミカライズも見ていただけて嬉しいです。二話まで公開されています。まだの方は近況ノートからどうぞ!

https://kakuyomu.jp/users/asagi/news/16817330655850882099


次の更新は21日(金)の予定です。よろしくー


サポーター連絡:15日と17日に限定近況ノートを上げています。よろしければご確認くださいませー

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