588.動かないではいられないらしい

 翌日の朝、かなり早い時間にタマが足の上に乗った。


「……タマ、まだなんか暗くないか……?」


 うちは確かに日が入るのが早い方ではないから、日の光が届いていないだけかもしれないがそれにしたって早く起こす必要はないだろう。タマは俺が起きたことを確認するとパッとどき、そのままドドドドドと居間の方へ逃げて行った。

 いつものやりとりである。


「桂木さんたちがこんなに早く来るわけないだろう……」


 いくら出かけたいからって、俺を早く起こしてもしょうがないっての。

 ぼやきながら居間へ移動する。今日もタマとユマの卵は転がっていた。


「早いなぁ……」


 メイはまだちっちゃいお餅のままで、うつらうつらとしているみたいだった。だからこんなに早く起こすなっつーの。


「タマ、俺を早く起こしたって、桂木さんたちはこんなに早くからはこないぞ」


 文句を言いながら朝食の支度をした。タマは不満そうだったが、さすがに作業中につついてきたりはしなかった。

 今日の昼は蕎麦を茹でるつもりだから、みそ汁は小鍋で作った。彼女たちが来るまでの間に煮物などを仕込んでおけばいいだろう。

 ニワトリたちに餌を出す頃にはメイも起きていた。でもまだなんとなく眠そうである。

 少しはひよこに合わせた生活をしてほしいものだ。


「ほら、餌だぞー」


 時計を見たらまだ7時前である。さすがにこの時間に連絡したら迷惑だろう。急かすみたいになっちゃうしな。


「桂木さんたちが来るまでは俺の目の届くところにいてくれよ~」


 餌を食べ終えたポチとタマは落ち着かないみたいなので諦めて表へ出した。動いてないといられないってのがよくわからん。

 ユマとメイも家の周りにいることにしたようだ。

 少しでも涼しいうちに畑仕事をしてしまおうと、朝飯を食べてから俺も表へ出た。

 畑の周りに植えたマリーゴールドのオレンジ色が眩しかった。俺がマリーゴールド? と思われるかもしれないが(誰にだ)、これはコンパニオンプランツとして植えている。(前にも言ったと思う)そのせいか今年はきゅうりの生育がいいような気がする。もちろん気のせいかもしれないけど。


「やっぱピーマンは難しいな……」


 全然生らない。チンゲンサイはある程度虫に食われたができた。シシトウとピーマンも植えたのだが、シシトウは生るがピーマンは時々一個か二個生るぐらいだ。それでも生るだけいいだろう。シシトウは早めに収穫しないとどんどん生る。まるできゅうりみたいだ。

 採れるだけ取って調理をどうするかなと考えた。せっかくシシトウがあるんだから油で焼いてから煮浸しにするか。本当は揚げてからの方がおいしいんだが、揚げ物はしないのだ。油の処理がどうしてもできない。

 昨年油の処理方法について教えてもらったりしたが(養鶏場にて。107話参照)、石鹸とか作る気にはなれないし。そういえば桂木さんもあの時一緒にいたんだよな。彼女は石鹸とかアロマキャンドルとか作っているんだろうか。

 畑の様子を見て虫などが付いていないかどうか確認する。アブラムシとかでなければニワトリたちがつついてくれたりするからそれほど問題はないけど、葉物は中でってことがあるから困る。四六時中見てるわけじゃないしな。

 畑の手入れが終わったらうちの周りの草取りだ。なんで一日でこんなに伸びてんだよ。雑草も少しは休暇を取れっつってんだろーが。

 ぶつぶつ文句を言いながら草むしりをした。

 スマホが鳴った。

 確認するとそろそろ家を出るらしい。草むしりしてると時間が経つのが早いよな。駐車場の側でポチとタマが所在なさげにうろうろしていた。スマホを確認すると、果たして桂木さんからLINEが入っていた。


「これから出ます」

「了解」


 麓の柵の鍵を開けてこないとな。

 軽トラに乗ろうとしたら、何故かポチとタマがバサバサと跳び上がって荷台に乗った。


「? え? どうしたんだ?」

「フモトー」

「イクー」

「ああ、はい」


 どうやら柵の鍵開けに付き添ってくれるらしい。なんかやりたいことでもあんのかな。

 麓に付いて桂木姉妹が着くのを待つことにした。するとポチとタマは自力で荷台から跳び下り、今度はツッタカターと上に向かって走って行った。


「? なんなんだいったい……」


 もしかして運動が足りなくて走りたかったとか? でも桂木姉妹は待たなきゃいけないから、上りだけでもと思ったとか?

 アイツら、どんだけだ。

 遠い目をしていたら桂木さんの軽トラが着いたので柵を開け、俺も軽トラを動かした。


「こんにちは、ありがとう。今日はよろしく」

「こんにちは。こちらこそです!」

「おにーさん、こんにちはー」


 桂木姉妹は今日も元気らしい。

 家の駐車場に停めてから、ドラゴンさんも一緒に来てくれたことに気づいた。


「佐野さん、すみません。ポチさんたちに挨拶しても?」

「ああ」


 ポチとタマはとっくに着いていて、面白くなさそうにそこらへんの地面をつついていた。桂木さんはそれにかまわず、ポチに近づいた。


「ポチさん、タマちゃんすみません。タツキを連れてきました。タツキが虫や獣を狩ってもいいですか?」

「イイヨー」

「イイヨー」


 ユマとメイは家の側にいたから聞こえなかったと思うが、桂木さんはわざわざユマとメイにも許可を取ってくれた。こういうところはしっかりしてるよなと思った。(ある意味失礼)


ーーーーー

次の更新は14日(火)です。

日曜日までに1100万PV記念SS書きますねー。月曜日までにずれ込むことはないと思いたい(汗

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