579.果物を好んで食べる獣だからなのだろうか

 ……やっぱり払わせてもらえなかった。

 おばさんが作ったぬか漬けがうまい。相川さんから教わったというきゅうりの辛子漬けもちょうどいい塩梅だった。あんまり早く食べてしまうと辛すぎてどうしようもないらしい。何日か我慢して漬けておくことが大事なのだそうだ。

 ハクビシンのうち二匹分は相川さんが買い取ったようだ。四匹分の内臓と肉、そして前回のシカ肉の残りや豚肉などをニワトリたちには出してくれるらしい。ありがたいことである。


「……やっぱ俺、出してもらいすぎじゃないですか?」

「気のせいだろ」

「気のせいじゃないですか?」


 おっちゃんと相川さんがタッグを組むとかずるい。

 とりあえず庭にビニールシートを敷いた。その間に相川さんがおばさんからニワトリたちの餌をもらってきてくれた。


「ありがとうございます」

「いえいえ」


 ビニールシートに野菜と肉、内臓類を並べ、畑の方へ呼びに行く。メイもだいぶ歩くのが早くなってきて、今日は畑の側にいた。しっかり成長してるよな。ってもう生まれてから一か月ぐらい経ってるじゃないか。まだニワトリになっていないから小さいってイメージが抜けない。まだピヨピヨ鳴いてるしな。


「おーい、ポチー、タマー、ユマー、メイー、ごはんだぞー」


 そう畑に声をかけてメイの元へ走り掬い上げた。そしてニワトリたちに追いつかれないように庭へと走る。

 ドドドドド……という音が怖い。俺はいったい何と暮らしているのだろうと思う時もある。結城さんが縁側にいたらしく、俺がメイを抱えて走っているのを見て目を丸くした。


「メイはここなー」


 ビニールシートの側に下ろしてやると、メイはピイピイ鳴いて怒った。自分で走れると言いたいのだろう。でもメイの歩みに合わせてたらユマだっていつまで経ってもごはん食べられないだろ?


「メイがもっと早く走れるようになったらな」


 そう言って縁側から居間に上がった。その頃にはニワトリたちはビニールシートの側に着いていた。


「食べていいぞー!」


 と声をかける。

 クァーッ! とポチが返事をした。本当に頭のいいニワトリたちだと思う。


「……以前から見てましたけど、ニワトリたちが走ってくる姿ってやっぱ圧巻ですねー」


 結城さんが呟いた。あははと苦笑する。


「なんとかっつー映画より怖いかもしれないなー」


 すでに食べ始めている秋本さんがそんなことを言って笑う。なんとかっつー映画じゃわかんないじゃん。多分アレだと思うけど。


「佐野さん、こちらへどうぞ」


 相川さんが相変わらずイケメンオカンっぷりを発揮して取り皿にさまざまな料理を取り分けてくれていた。いや、これはオカンというより女子力? なんと言ったらいいかわからないけど、座卓に並んでいる料理を見てゴクリと唾を飲み込んだ。

 揚げ出し豆腐、シカ肉の唐揚げ、サラダチキンを使ったサラダ、茄子のはさみ揚げ、インゲンのお浸し、こんにゃくと鰹節の炒り煮、宮爆鶏丁(鶏肉とピーナッツの炒め)などこれだけでおなかいっぱいになるだろってラインナップが並んだ。


「うわー、いただきまーす!」


 これで後からハクビシンの鍋が出てくるのだ。もうなんていうか天国である。

 シカ肉ってあんまり臭みとかないけど、どうやったらこんなに唐揚げがうまくできるのだろうか。おばさんの料理は最高である。


「あんまり油っ気がないと思って揚げ出し豆腐とか用意してみたんだけどどうかしら?」

「おいしいです!」


 おばさんに聞かれて即答した。ごはんがほしいとも思ってしまうが後だ後!

 半分ぐらい料理を食べたところで鍋が出てきた。


「おおー」


 ハクビシンの肉は、なんというか甘味みたいなものがあった。夏だからか少し臭みも感じる。食べているもので匂いとか味が変わるというからしょうがない。


「ハクビシンうめえなー」

「おいしいですねー」


 秋本さんと結城さんがしみじみ言っていた。そういえば陸奥さんの家の側でうちのニワトリたちが捕まえた時は、秋本さんたちは食べられなかったんだっけ。


「口の中でとろけるわねえ。昇ちゃん、また獲ってきてね」


 おばさんまでそんなことを言っている。


「そんなにいますかね」


 苦笑して思い出した。ハクビシンの巣があった辺りの写真を撮ってきていたのだった。


「おっちゃん、木って見れば何の木かわかる?」


 こっそりハクビシンの肉を更に確保していたおっちゃんに聞いてみた。


「木か。見てみねえとなんともいえねえな」

「ちょっと見てもらっていい?」

「今か? しょうがねえな」


 スマホで撮った写真を見てもらった。


「柿の木は間違いねえな。他がよくわからねえ」


 柿の木はおっちゃんの山にも生えているから知っているのだろう。俺は言われなきゃわからなかったけどな。とりあえず何かが生らないとわからないものだ。


「ハクビシンの巣があった近くで、元々果樹を植えてたみたいなんだよ。当時はさくらんぼも栽培してたみたいでさ」

「そりゃあすげえな。ってことは何種類も木があったのか」


 おっちゃんも実が生る条件を知っているらしい。

 途中ポチが足りないぞとばかりにクァーッ! と鳴いたりしたが、それ以外は相変わらずおなかぽんぽこりんになる程食べたのだった。

 う、運動しないと……。


ーーーーー

次の更新は13日(金)です。ジェイソンはこないよ~(古


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