800万PV記念SS「よその家のニワトリ、奮闘する」

フォロー10000記念SS、600万PV記念SS、700万PV記念SSの続きです。

この村のニワトリは普通ではない?

ーーーーー


 よその家の雄鶏こと、掛川さんちのブッチャーは狂暴である。

 飼主である掛川のおじさん以外の男性が近づいてこようものなら威嚇するし、威嚇しても効果がないようならつつきまくったり、跳び蹴りを食らわせにいくぐらいである。他の家の雄鶏ともよく喧嘩したりしていたので、おじさんはそろそろ潰そうかと思っていた。

 だが先日でっかいニワトリたちが毒蛇退治に来てから、おじさんの考え方は変わった。

 ブッチャーは雄鶏としては少し大きめという程度である。けれどでっかいニワトリと共に蛇を捕まえたりしたのだ。

 さすがにマムシとアオダイショウの区別はついていないみたいだが(大ざっぱに長い生き物という認識)、ブッチャーもまた役に立つニワトリとして名前をもらったのだった。

 そして今日はおじさんの軽トラの助手席に乗り、湯本家を訪ねた。


「おお、ブッチャー。お前も助手席に乗ってきたのか」


 湯本が笑う。湯本にも以前跳び蹴りをくらわそうとしたことがあったが、簡単にかわされただけでなく両足を持って吊るされてしまったことがあった。あの時ブッチャーは湯本には逆らってはいけないと学んだ。


「気がつくとどっか行っちまうんだよ。今日は途中で見つけたから連れて来たんだ」


 おじさんが頭を掻いた。ブッチャーは駐車場で地面をつつく。


「まぁニワトリなんつーのは基本自由だからなぁ。車に引かれたりしなきゃ問題ねえだろ」

「そうだな。ところでよ、この間うちに来たでっかいニワトリなんだが、うちのもあんな風にいろいろ物事がわかったりするものかい?」

「ニワトリっつーのは別に頭は悪くねえからな。ちゃんと言って聞かせればだいたい言うことなんざ聞くもんだろ? まぁどの蛇を捕るとかは実物を見せてやった方が早いがな」

「そうかそうか。最近うちの裏の林によ、ゴミ捨ててく奴がいるんだわ。いっちょ懲らしめてやろうかと思ってな」

「だったら捨てられた物をブッチャーに見せてやるといい。こういうのを捨てにくる奴がいたら鳴いて知らせろってな」

「やってみるか」


 駐車場の砂利の間からも雑草が生えていて、そこにも虫がいたのでブッチャーはそれをつついていた。村は食べ物の宝庫である。

 掛川のおじさんはブッチャーや他の雌鶏たちにいろいろ話すことにしたらしい。

 翌日裏の林にブッチャーたちを誘導し、これこれこういう物を置きにくる人間がいたら鳴いて知らせるようにとニワトリたちに言いつけた。

 おばさんは呆れて、


「いくらなんでもニワトリに不法投棄の監視はできないでしょうよ。何バカなことやってるのよ」


 とぼやいていたが、ブッチャーはなんとなく理解した。おじさんはその日の夜から、ブッチャーたちが寝る小屋の鍵を開けたまま家に戻るようになった。

 真っ暗である。

 林の向こうから聞こえてくる微かな音でブッチャーは目覚めた。

 昨日は家の敷地から出ようとしたらおばさんに見つかって散歩に行けなかったのである。おかげで体力は余っていた。普通ならここでクァーコッコー! と景気よく鳴くところであるが、ブッチャーは先日のおじさんの話を思い出した。

 雌鶏たちはおとなしく眠っている。

 ブッチャーはあまり足音を立てないようにして小屋から出た。

 トットットッと林の方へ歩いていく。だんだん目が慣れてくると、林の中で何かが動いているのを認めた。

 ブッチャーは静かにそれに近づいた。

 獲物なら捕ってしまえばいいと思ったかどうかはわからないが、彼はいつになく慎重に動いた。

 ガササッと音がした。


「……うわっ、なんだ?」


 林から出てきたのは、知らない人間だった。少なくとも村でも見かけたことがない。


「……なんだ、ニワトリか……脅かすなよ。絶対に鳴くんじゃないぞ?」


 押し殺した声を聞き、ブッチャーは気がついた。そんな声を出すのは悪いことをしている人間だと。

 ブッチャーがそんな人間の言うことを聞くはずはなかった。


 クァーッ! クァックァックァーーーッッ!!


「うわっ、コイツっ!」


 飛びかかってこようとした人間をひらりとかわし、ブッチャーはその人間を反対につついた。クァックァックァーッッ! と鳴きながらである。さすがにその声には雌鶏たちも目を覚ましたのか、一気に辺りは騒がしくなった。


「なんだなんだっ!?」


 おじさんとおばさんが家から飛び出してきて、逃げようとする人間と、それをつつき回しているブッチャーを見つけた。


「おいっ! お手柄だなっ!」


 おじさんは嬉しそうに言うと人間を捕まえた。

 調べてみると、その者は本当に不法投棄の常習犯だったらしい。


「ニワトリでもこっちの言ってることがわかるんだねぇ。ブッチャー、ありがとうね。えらいよ」


 おばさんは感心し、ブッチャーを褒めた。

 後日ブッチャーは湯本に会った。


「すげえ活躍だったって聞いたぞ? 不法投棄を現行犯逮捕するなんてかっこいいな、ブッチャー」


 ブッチャーはそれに、当たり前だとばかりに首をクンッと持ち上げて見せたのだった。


おしまい。



800万PVありがとうございました! ってもう900万PVですね。いつも読んでいただき本当にありがとうございます。

900万PVもブッチャーの活躍がいいのかしらん? 何気に皆さまが「ニワトリとは?」と首を傾げてしまう本作品ですが、ブッチャーも気に入っていただけると幸いです~。

「山暮らし~」の次の更新は1/6(金)です。どうぞよろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る