573.どうしてそうなるのか問い詰めたい
ポチとタマのことが気になって、連絡するのを忘れていた。
夕方前に相川さんと桂木さんからLINEが入った。一応遠慮してくれていたのかもしれない。悪いことをしたなと反省した。
「無事戻ってきました。詳細はまた今度で~」
相川さんにはそう返した。
「無事戻ってきたよ。慌ただしかったから桂木さんのことは何も聞かれなかった」
桂木さんにはこれでいいだろう。彼女には実家に用事があって行くとしか話してないからこれでいい。でもさっそく電話がかかってきた。心配かけてしまったかな。
「佐野さん、実家ってお墓参りとかですか?」
「うーん……こっちもいろいろあってさ。墓参りは今度行くことになってる」
「そうなんですかー……」
なにか言いたそうだ。
「今度さ、リエちゃんも連れて山唐さんのレストランに行ってみようか」
「えっ? いいんですか?」
「うん。っていくらなんでもおごれないぞ。多めには出すけど」
「おごってもらおうなんて考えてませんよ! でもありがとうございます」
「お盆は帰省するのかな」
「うーん……リエもいるのでちょっと考えてます。その前に、夏祭りは一緒に行きましょうね!」
「うん、行こう」
そういえば夏祭りなんてものがあったな。
電話を切ったら表からクァーッ! と鳴き声が聞こえた。ポチとタマが帰ってきたのだろうか。
嬉しくなって表へ出たのだが……。
「……どゆこと?」
ポチが何やら口に咥えてるんだが。タマが俺に伝える。
「サノー、エモノー」
「待て……今度は何を狩ってきたんだ?」
ポチに見せてもらうと、ハクビシンのようだった。
「タマ、まだいるのか?」
「イルー」
「……何匹だ?」
「ンー?」
指を立てていったらパーで反応した。五匹かよ。
「……どこで倒した?」
「ココー」
「了解……ちょっと連絡する」
相川さんには今度話すっつったんだけどなぁ。でもうちのニワトリが話せるって知っててこういうのの対処ができるのは相川さんぐらいしかいない。
「相川さん、すみません」
「どうしました?」
「ポチとタマがハクビシンを五匹見つけたみたいで……」
「……泊まらせていただくことになりますが、今すぐ行きます」
「ありがとうございます」
電話を切ってから縄だのビニール袋だの急いで用意をする。まだ日が長い季節だからいいがそうでなかったらすぐに真っ暗になってしまいそうな時間だ。
「……お前らこんなギリギリの時間に狩ってくるなよな~。俺じゃ捌けないんだからさー」
いいかげん捌けるようにしといた方がいいんだろうかとたそがれてしまう。
「相川さん連れてくるから! タマ、逃げるなよ!」
特にタマに厳命して麓に向かい柵の鍵を開けた。しばらくもしないうちに相川さんの軽トラが着いた。本当に相川さんはフットワークが軽い。
「相川さん、すみません……」
「いいんですよ。ハクビシンがいるのはどちらですか?」
「この山で狩ったみたいなんですけど」
「わかりました。すぐに向かいましょう。見つけたら秋本さんに連絡しますから」
「ありがとうございます……」
もう本当に相川さんには頭が上がらない。うちの駐車場に車を停めてもらう。相川さんは必要そうなものを持って、ポチと共に急いで出かけて行った。
「タマ~……」
「エモノー」
「獲物じゃねえよ……こんな時間に狩るなっつーの」
「サノー、ゴハンー」
「あ? メシを用意しろってことか?」
「ンーン」
タマは身体を左右に揺らした。なんかあまり見たことがない動きである。
もしかして、俺の為に狩ったのか?
どうしても気遣いの方向が間違っていると思う。気持ちはとてもありがたいんだけどな。
「タマ、狩ってくれるのはいいがこんな遅い時間はだめだ。俺じゃ動物は捌けないんだよ。狩るなら、もう少し明るい時間に頼む」
「ワカッター」
「……明日は狩るなよ」
「エー」
えー、じゃねえよ。
タマと話している間に帳が落ちてきた。これはまずいのではないだろうかと思った時、ガサガサと音が近づいてきて、ポチと、でっかい袋を担いだ相川さんが戻ってきた。
「全部で六匹ですね。秋本さんに連絡はしてありますから、麓まで持っていきます!」
「あ、はい。ありがとうございます……」
何故かポチが相川さんの軽トラの助手席に乗り、麓まで下りていった。俺はタマとユマ、そしてまだ草をつついているメイを見た。
「……どゆこと?」
相川さんとポチは仲良しってことでいいのかな?
そうしてハクビシンは無事今回も秋本さんに引き渡されたらしい。
ハクビシンの状態を見て、どうするかは後で秋本さんに電話することにした。相川さんは大分暗くなっている山道を、危なげなく軽トラを走らせて戻ってきた。本当にすごいと思う。
「この暗い中を……ありがとうございます」
「いやあ、ポチさんが横にいてくれましたからとても心強かったですよ」
「……ポチ、なんで相川さんの車に乗ったんだ?」
「ンー?」
ポチがコキャッと首を傾げた。もしかして勢いか? そうなのか?
タマはそっぽを向いている。あのな、相川さんを呼んだのはお前らが獲物を獲ってきたせいだぞ?
「佐野さん、乗ってもらったのは僕ですよ」
「相川さんがそれでいいならいいんですが」
「ええ。それで、帰ってきたばかりのところすみませんが……」
「あ、はい。もちろん泊まっていってください」
「ありがとうございます」
ありがとうございますはこっちの科白だと思ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます