550.おばさんに食材を渡したらこうなった

 田舎のごはんは一皿一皿がでかい。

 漬物は当たり前にどんと出てくるし、野菜のサラダも大きなボウルにどん、だ。皿には棒棒鶏バンバンジーならぬ棒棒鹿バンバンルーが乗っていた。そして干豆腐は細切りにされてセロリときゅうりに和えられて出てきた。唐辛子も少し乗っている。


「なんだこりゃあ?」


 おっちゃんが干豆腐の細切りを見て首を傾げた。


「干豆腐(ガンドウフ)ですよ。中華料理で使う食材です」

「へー、豆腐なのか。面白ぇ食感だな」


 みな興味を引かれたようだった。


「はーい、真ん中開けて~」


 食べやすい大きさに切られたシカカツ、麻婆茄子(ひき肉はシカらしい)、きゅうりとシカ肉、干豆腐をオイスターソースで炒めた物、肉じゃが、レンコンとこんにゃくと人参が入った煮物などいろいろ運ばれてきた。


「棒棒鹿はどうかしら? 養鶏場ののり子さんに教わったのだけど」

「おいしいです!」


 おばさんに聞かれてみな即答した。

 そして京醤肉絲ジンジャンロウスー(細切り肉の甜面醤炒め)も出てきた。豆腐皮は包みやすい大きさに切られている。


「なんじゃこりゃ?」


 みな首を傾げた。


「食べ方は昇ちゃんに聞いて~」

「この肉のままじゃだめなのか?」

「えーと、ですね。やってみせますね~」


 豆腐皮に肉と白髪ねぎときゅうりの細切りを包んで巻いて食べる、というのを一番最初にやった。


「なんだ。北京ダックみてえだな」


 陸奥さんが言う。食べたことあるのか。羨ましい話だ。


「北京ダックだとタレも付けるでしょう。これは肉自体甘い味噌味を付けてありますから。それに包む皮が違いますよ」


 相川さんが説明する。前に相川さんが作ってくれたんだしな。北京ダック、相川さんも食べたことがあるのか。


「北京ダックって食べるの外側の皮だけっていいますよね。中身ってどうしてるんですか?」

「中身は炒飯の具にするか、スープにするんですよ。でも安いものだとただ脂っこいだけなのでそのまま廃棄みたいです。最近は違うかもしれませんけどね」

「ああ……」


 北京ダックもアヒルを太らせたのを焼くんだからそういうもんか。


「北京ダックっておいしいんですか?」

「おいしいですよ。僕は好きですね」

「日本で食べると高そうですよね」

「最近は通販でもありますから、お取り寄せしてみましょうか」


 お取り寄せ……それはなかなか魅力的な響きだなと思った。


「私たちの分もあるわよね~?」


 なんて言いながらおばさんたちがもう一皿持ってきた。ここでみなまずは食べるらしい。桂木姉妹も来て、おばさんと腰掛けた。サラダとか食べたいものは台所の方で食べたみたいだ。


「酒が足りねえな」

「持ってきますよ。ビールでいいですか?」


 結城さんと立ってまた倉庫へ取りに行く。おばさんたちの分のビールとかも持ってきた。桂木妹はまだ未成年なのでジュースだ。


「オレンジジュースでよかった? コーラも持ってきたけど」


 瓶を桂木妹に渡すとじっと見つめられた。そんなに見られたら照れるだろーが。(冗談です)


「ありがとー、おにーさん。これどうやって食べるの?」


 そう言えば女性陣が来る前に食べ方を見せたんだった。こうやるんだよ、とやって見せたらおばさんと桂木姉妹はそれを真似して食べた。


「おいしーい! リエもっと肉多めがいい!」

「おいしいです。これ豆腐なんですか?」

「おいしいわ。豆腐屋さんで買えるのよね?」


 桂木妹、桂木さん、おばさんの反応を見てついにんまりとしてしまった。


「はい、豆腐屋さんで試作品みたいな形で作ってるらしいので、欲しい時は事前に電話がほしいとは言われました」

「これで餃子とか作ってもおいしそうね」


 おばさんはもう次の料理を考えている。さすがだと思った。

 クァーッ! と縁側の向こうからポチが鳴く。なんかポチが鳴くっていうとまんま犬みたいだな。犬はクァーッ! とは鳴かないけど。


「おかわりかー?」


 障子を開けて聞けばクァーッ! とまた鳴かれた。


「昇ちゃん、ボウルなら台所に置いてあるわよ」

「ありがとうございます」


 みな京醤肉絲を気に入ったらしく、取り合い状態になっている。肉の細切りはまんまシカ肉を使ったらしい。どうりでさっぱりしていたわけだ。おばさんも豆腐皮を確保していた。もっと持ってくればよかったなと思った。

 台所に向かうと相川さんも付いてきてくれた。肉と野菜の大きなボウルなので一回では運べないのだ。


「みなさん、喜ばれてましたね」

「ですね。喜んで食べてもらえるものでよかったです」


 これで干豆腐と豆腐皮が広まるとは思えないが、こういう食材や料理もあるのだということをみなが知るにはいい機会だったと思う。


「お代わり持ってきたぞー」


 ココッとニワトリたちが返事をした。内臓や肉はしっかりなくなっていて、なんだかなぁと思った。野菜はまだ多少は残っている。


「肉は残さず食えよー」


 野菜は洗って明日の朝でも出せるかもしれないが肉はさすがに傷むしな。野菜も本当はだめなんだろうけど。

 そんなことを思いながら居間に戻れば、おばさんが席を外していて、また何か料理が出てくることが予感できたのだった。



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レビューいただきました! ありがとうございます!!


もう620万PV。ありがたいことですー! これからもよろしくお願いします!

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