548.そんなにヒマなのかと問い詰めたい
一応山唐さんにはうちのニワトリたちがシカを獲ったので宴会があるということは伝えてある。
山唐さんは、
「こちらはいつでも。佐野さんたちの都合のいい時でいいですよ」
と言ってくれた。今日の宴会を終えて、相川さんと日程の確認をしたら山唐さんのところへお邪魔しようと思った。
さて、ニワトリたちが戻ってきたので軽くお昼ご飯を与え、いろいろ確認をしてから出発した。ちゃんと干豆腐(ガンドウフ)と豆腐皮(ドウフピー)も持ってきた。これでどんな料理を作ってもらえるのか楽しみだ。
「こんにちはー、おばさん豆腐皮と干豆腐持ってきましたよ~」
「昇ちゃんいらっしゃい。お代は?」
「他の豆腐とかとまとめて買ったんでわかりません」
「もうっ、またそんなこと言って!」
おばさんにめっと怒られてしまった。やっぱ食材が一番いい気がする。レシピとか印刷したものを渡したら喜ばれた。
「参考にしてみるわね」
おばさんはふんふんと頷きながらどういう料理にしようか考えているみたいだ。シカ肉は午前中のうちに届けられていたらしい。あとはこの干豆腐と豆腐皮をどうメニューに組み込んでいくべきかという問題のようだ。料理にかける情熱がすごいなと感心した。
ニワトリたちは畑の方に向かわせればいいと言われたので、ニワトリたちにそう伝えた。
ポチが代表してココッと鳴いた。キリッとしているのを見ると立派に育ったなぁと思う。でかいから余計にそう見えるのかもしれない。
「絶対に、山には上るなよ?」
それだけは言いつけておいた。ちょっと油断するとすぐ山を上ってしまったりするのでうちのニワトリたちは危険なのである。山に上って狩りをするニワトリっていったいなんなんだろうな? 首を傾げてもとんとわからない。
ユマはメイと一緒に畑と庭の間で何やら啄んでいる。親子ってかんじでとってもかわいいのだが、やはりユマがでかすぎてなんか怖い。
「おっちゃん、蕎麦打ってんの?」
「ああ、夏はあんまりよくねえんだが、食うのは明日の昼でもいいだろ?」
「おっちゃんの蕎麦はいつでもおいしいよ」
「やっぱ冬の方がいいんだよなぁ」
縁側でビニール袋に入れて踏んでこねながらおっちゃんが首を傾げていた。これもこだわりってやつなんだろう。
台所からお茶をもらってきて、ぼうっとユマとメイの様子を眺めた。スマホも見るが、うちのニワトリを見ている方が楽しい。
かわいくて、頼りになって、本当に大好きだ。
そうしているうちに軽トラが一台入ってきた。
最初に来たのは相川さんだった。
「こんにちは、佐野さん早いですね」
「食材を持ってきたんです」
「食材、ですか?」
相川さんは目をぱちくりさせた。決してマヌケにならないのがイケメンである。くそうと思ってしまうのはしょうがないのだ。
「干豆腐と豆腐皮を持ってきました」
「ああ、そうなんですね。じゃあちょっと顔出してきます」
相川さんはおっちゃんに挨拶をすると家の玄関へ向かった。相川さんも料理をするから気になったのだろう。
「しっかしなぁ、昇平とか相川君は一人暮らしだからせざるをえないんだろうが、男が率先して料理をするなんてなぁ……」
おっちゃんが蕎麦を踏みながら笑う。そういうおっちゃんが今作ってるのはなんなんだよ。
「俺は料理はしょうがないからしてるだけだよ。相川さんは好きみたいだけど」
「昇平はあんまいろいろやらねえよな」
おっちゃんが苦笑しながら言う。
「うん、しないかな」
あれもこれもしてみたいとも思わないのだから仕方ない。そんなものはやりたい人に任せればいいのだ。N町には男の料理教室なるものが開催されていると聞いたが、そこまでして料理がしたいわけではない。どうせ食べるならまずいものは食べたくないとは思っているからそこそこ作るが、新しいレシピを開拓したいとかまでは思わなかった。
「そういえば山唐さんのレストランには行ったのか?」
「まだだよ。相川さんも連れて来てほしいって言われてるから相川さんと調整して行く」
「そーかそーか。あと風呂作るって話はどうなったんだ?」
俺は苦虫を噛みつぶしたような顔になったと思う。
「なんて顔してんだ」
おっちゃんに笑われた。
「……風呂は金かなりかかるだろ……」
「乾燥させたいいヒノキを持ってる家があってなぁ。ここで町の方へ引っ越すから格安でも買い取ってくれる人がいねえかって聞かれてるんだよなー」
「えええええ」
「ヒノキ風呂ですか? いいですね」
相川さんがお茶を持って居間に来た。
「佐野さん、いいお話じゃないですか。作りましょうよ」
「い、今の時期は作業にも暑いじゃないですか!」
「山の上はここよりは涼しいでしょう。今日は陸奥さんもいらっしゃいますし、そこらへんの話も詰めましょうか」
「だから予算というものがですね!」
「仮想通貨で増えた分で十分賄えますし、お釣りもきますよ? それともなにか他に使うご予定が?」
「……ないですけど……」
使う予定がないことはバレているのだ。確かに広い風呂があったらユマが喜ぶよな。わかってはいる。わかってはいるんだ。
でもみんなに迷惑をかけるのはとも思ってしまうのだ。
おっちゃんと相川さんは、何に俺が葛藤しているかは伝わらないらしい。
「わかりましたよ……風呂、作ってください」
こちらがこだわっているのもバカバカしい。そう観念して返事をしたら、おっちゃんと相川さんがにんまりした。
ちょっと早まったかも、と思った。
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600万PVありがとうございます!
……600万PV記念SSは月曜日。。。いや、火曜日まで待ってください。〆切がああああああ(滝汗
続々と書籍お迎え報告をいただいています。ありがとうございます!
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