539.いつまでもポンコツらしい
夜のうちに相川さんから連絡があった。
リンさんとテンさんの件について話はついたらしい。
「リンとテンを連れていくことになりました」
「大丈夫なんですか?」
思わず聞いてしまった。って俺が心配したところでどうにもならないんだけど。
「いろいろ調査をされているようなので、その協力として連れて行くだけですから問題はないかと」
「それならいいんですけど」
「それで、いつ行きましょうか」
「うーん」
日程をとっとと決めてもいいのだが、気にかかることがあった。
「昨日も言いましたけど、まだシカが裏山に何頭かいるみたいなんですよね」
「ああ……そうですね。狩れたら狩った方がいいですね。って僕たちには無理なんですけど」
相川さんが苦笑した。
「……すっごく増えて困っているのに、狩猟期間以外狩れないっていうの困りますよね……」
「そこらへんはお役所仕事ですからね。山唐さんの許可も得ていますから、ニワトリさんたちが狩る分には問題ないでしょう。なんでしたら付き添いますよ」
「ええ……いや、それは悪いので……」
「時期が時期ですからその場で何頭いるかはわかった方がいいと思います。狩れたらできるだけ早く冷やした方がいいですしね」
「う……じゃ、じゃあお願いできますか……」
「ポチさんとタマさんは何頭いると言っていましたか?」
「三頭いるって言ってましたね」
「ならなおのこと僕が付いていった方がいいと思います。スマホの電波が入ればそれで佐野さんに連絡できますし、それで佐野さんも秋本さんたちに連絡できるでしょう?」
「は、はい」
すごい。相変わらず相川さんが乗り気だ。
「あと、仮想通貨がかなり嬉しいことになっていますから、それも明日お伝えしますね」
相川さんはさっそく明日来てくれるらしい。
「あ、あの……明日の明日で捕まえられるものではないと思うんですが……」
「わかっています。明日は様子見で伺います。この時期は草刈りもあまりできませんから、ポチさんとタマさんに同行させてください。何かあればポチさんかタマさんが連絡してくれるでしょうし」
「あー……はい」
さっそく山の神様にお願いをしなければならなくなったようだ。でも別に便宜を図ってくれとかそういうことじゃないからいいのかな。そんなこと言ってる時点で甘えかもしれないけど。
電話を切って、俺ははーっとため息をついた。
「ポチ、タマ~」
ポチとタマがナーニ? と言うようにこちらを向いた。
「明日相川さんが、シカ狩り手伝ってくれるってさ。明日は様子見だけど行くか?」
「イクー!」
「イクー!」
「サノー、メイー」
「ピヨピヨ」
ポチとタマはともかくユマとメイまで返事してくれるのがかわいい。ユマもメイもいい子だなーと羽をそっと撫でた。
「わかった。じゃあ明日は相川さんが来てから裏山へ案内してくれ。くれぐれも、あんまり急いで行くんじゃないぞ? 狩った時に相川さんが確認できなかったら困るだろ?」
「ワカッター」
「ワカッター」
こういう時はタマも素直だ。獲物を狩る方が大事だよな。
つーわけで明日の予定も決まった。一応天気予報では明日は曇だった。あんまり日が出てても暑いから、裏山を回るにはちょうどいいだろう。つっても天気予報は平地を基準で出されるから、結局山の上は参考程度にしかならないんだけど。
……だからどうして俺は肝心なことをいつも忘れてしまうのか。
朝である。明るくなってきているから朝のはずだ。
また足の上にのしっとタマが乗っかってきた。
「……タマ、この起こし方はやめろっつってんだろーがっ!」
タマはバッと俺の上からどくと、クァーッと鳴きながら部屋を出てドドドドドと廊下を駆けて逃げて行った。
「だからー! 戸を閉めろっつってんだろーがっ!」
泣けるぐらいいつものやりとりである。開けるのはたやすくとも閉めるのがたいへんだというのもわかっている。だが問題はそこではないのだ。
「あー、もう……」
なんで今日は相川さんが来るって言っておいたのに、タマが上に乗って起こすだろうってことを考えないんだよ。俺のバカー。
自分がポンコツすぎて泣けてくる。しばらく布団から身体を起こした状態で出ないでいたら、トトトッと音がした。
「サノー?」
ひょこっとユマが顔を覗かせた。
「ユマ」
「サノー、オキルー?」
「ああ、起きるよ。ありがとうな」
ユマはトトトトッと戻っていった。
ああもうユマかわいい。大丈夫、俺はちゃんと起きる。
時計を見たらまだ六時にもなっていなかった。タマ、許すまじと思った。こんなに早く相川さんが来るわけないだろーが。
って、うちのニワトリたちって時計読めたっけか? でも明るくなってきたら起きちゃうんだよな。今更な話だけど、玄関の引き戸にロールスクリーンとか取り付けた方がいいんだろうか。でも紐とかで巻き上げるタイプだと危険だよな、とかいろいろ考えながら朝の支度をする。
「相川さんが何時に来るかもわからないのにあんまり早く起こすなよ~」
ぼやきながらニワトリたちの朝食を用意し、みそ汁を作ることにした。今日の具材はなんにするかな。
ごはんを炊いて、神棚にお酒と塩と供に捧げる。今日もいい日でありますように。
やっぱりうちのニワトリたちは最高にかわいいのだった。
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レビューコメントいただきました! ありがとうございます! これからもよろしくですー!(長いので寝不足にならないようお読みくださいませー
サポーター連絡:月初めの限定SS上げましたー。サポーター限定近況ノートをご覧くださいませー。
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