538.ニワトリたちがいることがとにかく嬉しい

 山唐さんのところのレストランに向かうのはかまわないのだが、やはり桂木姉妹も誘った方がいいのだろうか。

 その前におっちゃんに報告が必要だろうと思い、おっちゃんちに電話した。


「おう、昇平か。どうした?」

「山唐さんが帰られたので報告をした方がいいかなーって」


 メイを土間に下ろした。メイはピヨピヨいっている。おっちゃんは苦笑したみたいだった。


「昇平は律儀だな。で、なんかわかったのか?」

「ええまぁ……今度山唐さんのレストランに行くことになりました」

「そうかそうか。うめえもんいっぱい食ってこい」

「はい、そうします」


 それだけ言って電話を切った。世話にはなったが詳細を話すことはないだろう。伝えておいた方がいいことは言うけど、山唐さんから聞いた話で、誰かに言わなければいけないことがあるとも思えなかった。

 あ、でも。相川さんには伝えた方がいいだろう。相談に乗ってもらったし、相川さんの山にも神様はいるみたいだから。

 なんとなく暗くなってきた。

 もう少ししたらポチとタマが帰ってくるだろうか。ポチとタマはトラネコ(山唐さん夫妻)が帰った後遊びにいってしまったのだ。相変わらず落ち着きのないニワトリたちである。できれば暗くなる前に帰ってきてほしい。

 飽きもせず玄関のガラス戸の前にいるメイを掬い上げ、「ユマ、ちょっと戸を開けるからメイを頼む」とメイを託した。


「ワカッター」


 ピイピイピイとメイが抗議しているが知ったことか。

 戸を開けて表へ出る。もちろんその際に戸は閉めた。(メイが挟まらないかどうか確認しながら)

 家の周りも見回す。まだポチとタマの気配もなかった。雨は変わらず降り続いている。

 四阿へ移動して、スマホを見た。


「あれ?」


 山唐さんからLINEが入っていた。

 レストランにおいでの際は、相川氏とそのをお連れ下さい。

 と書いてあった。


「大蛇、たち?」


 どこまで山唐さんは知っているんだろう。背筋が寒くなった。

 考えてみよう。相川さんは今から約四年前の夏祭りの屋台で蛇を二匹買った。それを知っているのは屋台のおじさんだけだ。

 となると、山唐さんは屋台のおじさんの関係者なのか? もしくは屋台のおじさんの知り合い?

 相川さんのところのリンさんやテンさんに関することは俺には判断できないので、予定通り相川さんに連絡することにした。

 電話がいいかな。

 LINEで電話してみた。


「はい、佐野さん。今日はどうでしたか?」

「どうにかなりました。相談に乗っていただきありがとうございました。それとは別なんですが、山唐さんに友達を連れてレストランに来てほしいと言われまして」

「それで誘ってくださるんですか? それは嬉しいですね」


 相川さんの声が弾んでいる。


「そうなんですけど、相川さんと大蛇たちをお連れ下さいって言われたんです」

「……、ですか」


 相川さんの声が低くなった。ちょっと怖い。


「あのっ、俺は何も言ってませんよっ!」


 うちのことならともかく人のことは何も言ってないはずだ。


「……わかっています。佐野さんは口が堅いってことはよく知っていますから……でも、山唐さんは山の神様の関係で佐野さんの山にいらしたのですものね……」

「はい。あの、思ったんですけど」

「なんでしょう?」

「もしかしたら山唐さんて、屋台のおじさんの関係者なんじゃないですか? 四年ぐらい前かもしれませんが、相川さんは屋台でリンさんとテンさんを買ったんですよね?」

「ああ……そう、ですね。ちょっと聞いてみます」

「はい、すみません」

「佐野さんが僕に謝ることなんて何もないじゃないですか?」

「いえ、なんか……」

「佐野さんのことですから、山唐さんに即答はしていないでしょう?」

「ええ、返事はしていません……」

「それで十分です。佐野さんの気づかいにはいつも救われていますから、それ以上気になさらないでください」


 かえって相川さんに気を遣わせてしまった。


「どういうことなのかわかりましたらこちらから連絡します」


 相川さんはそう言って電話を切った。背を冷汗がだらだら伝っていて気持ちが悪い。ひょこっとポチとタマの姿が見えてほっとした。ポチとタマは俺の姿を見つけたらしくドドドドドと走ってきた。さすがに引かれたら嫌なので四阿の後ろの柱を盾にしてみた。

 さすがに突っ込んではこなかったけど、減速をギリギリまでしないのは心臓に悪い。


「ポチ、タマ、おかえり」

「タダイマー」

「タダイマー?」


 タマがなんでここにいるの? と言いたげに首をコキャッと傾げた。そういうことに気づくのはタマだよなと嬉しくなる。


「お前らの帰りが遅いから心配してたんだよ。ほら、足とか洗おうか」


 四阿の灯りを点けて、二羽のごみを取ったり足を洗ったりした。

 ニワトリたちがいて本当によかったとしみじみ思う。

 そうして家に入れようとしたら、戸の前にメイがいた。


「こーら、危ないだろ? もう暗いから外はなしだよ」


 メイを両手で掬い上げたらピイピイピイと抗議された。かわいくてしかたない。


「ユマ、メイの面倒みてくれてありがとうなー」

「アリガトー?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る