522.今更と言えば今更なのだけど
まずシカが何頭かを聞いたら、なんと二頭も狩ったらしい。
シカってけっこうなスピードで走ると思うのだがいったいどうなっているのだろうか。
「……ちょっと待ってろ。連絡する順番を考えるから」
現場を見ていない俺がシカを二頭狩ったらしいと言うわけにもいかない。この場合はやはり事情がわかっている相川さんに連絡するべきだろう。
LINEで電話をした。
「佐野さん、どうかされましたか?」
「相川さん、うちのがシカを二頭狩ったみたいなんです!」
「……それはすごいですね」
相川さんもさすがに驚いたようだった。
「それで、どう連絡したものかと思いまして……」
「そうですね。この天気ですから状況を見るのも早い方がいいでしょう。湯本さんに連絡してください。僕もすぐに向かいます」
「ありがとうございます!」
相川さんが来てくれるなら心強い。つーかなんでこう俺って人に頼りっぱなしなんだろうな。つくづく自分が嫌になるが、気を取り直しておっちゃんに電話をかけた。
「おう、昇平か。どうしたんだ?」
「おっちゃん、なんかまたうちのニワトリが狩ったみたいなんだよ。相川さんも来てくれるみたいなんだけどどうしたらいい?」
「現物は見てねえのか?」
「うん、でも尾が汚れてて毛みたいなのが付いてるんだ。で服を引っ張られるしで……」
「そうか。じゃあなんか狩ったんだろうな。すぐ状況を見に行くわ」
「よろしく」
さすがに何を狩ったかわからないのに秋本さんに連絡をするわけにはいかないのだろう。しかも狩ったかどうかの保証もないのだ。俺はポチやタマから聞き取りをしているからそれが本当だということはわかるが、みなうちのニワトリがしゃべれることは知らないのである。
……いや、知ってるかもしれないけど気がついてないフリをしてくれているんだよな。俺が
つーか、いくらなんでもうちのニワトリはこんなにしゃべるんです! とか公言しないっての。うちのニワトリたちは見世物じゃない。俺の大事な家族だ。
「そのままだと寒いだろ? ちょっと拭こうな」
ポチとタマは四阿の下にいる。羽は濡れて、風が吹いたら風邪を引きそうだ。バスタオルを急いで取ってきてできるだけ水滴を取った。
「イクー」
「マター」
ポチとタマがまた出かけるから拭かなくていいようなことを言うが、だめだと捕まえて拭いた。
「動いてる時はいいけど、今は止まってるだろ。冷えるからよくない。心配してるんだからな」
そう言って小松菜もついでにあげた。このまままた走っていかれたらかなわない。少しでも食べれば身体が暖まるはずだ。
「相川さんとおっちゃんに連絡したから来てくれるはずだ。その時に案内してもらわないと困るし」
「ワカッター」
「ワカッター」
シカを運ぶ要員が来るということがわかったらいい返事をされた。相変わらず現金だけどそんなところもかわいい。ホント、俺ってニワトリばかだよな。
「ちょっと待ってろ」
うちに入って、ユマにもこれから相川さんとおっちゃんが来てくれることを伝えた。
「シカー?」
ユマが首をコキャッと傾げた。
「うん、ポチとタマが二頭狩ったっていうからさ。もしかしたら俺も付いていかなきゃいけないかもしれないから、メイを頼むな」
「ワカッター」
メイはのん気にピイピイと鳴いている。かわいい。
でもシカってどれぐらいの大きさなんだろう。一頭なら二人で担げるかもしれないが、二頭だと三人でも運ぶのは厳しい気がする。
「小さめのが二頭とかならなんとか?」
だが獲れたのは裏山のはずだ。この雨の中運んでくるのはたいへんだろう。秋本さんたちでも呼ばないと人手が足りない。どうしたものかと思った。一応縄とか必要そうなものを用意することにした。縛って運ぶ為の木の枝なんかは現地で調達できるはずだし。でもさすがに縄をその場で自作するのは面倒なはずだ。(草の繊維を取り出してーとか木の皮を剥いでーとかいちいちやってられるか!)
でかいビニール袋とー、とかやっていたら車が入ってくるような音がした。おっちゃんが来たらしい。それであ、と思った。
慌てていて麓の柵の鍵を開けてくるのを忘れていた。家から出ると、軽トラが二台入ってくるところだった。どうやら麓で会ったらしい。慌ててスマホを確認すると相川さんからLINEが入っていた。すみませんすみません。
「すみません、来ていただいてしまって」
「いや、かまわねえよ。どうせ雨でやることねえしな」
おっちゃんはそう言ってガハハと笑った。
「こんにちは、湯本さんと麓で行き合ったので来られました」
「すみません、鍵も開けにいかなくて……」
「しょうがないですよ。最近はなかなかなかったじゃありませんか」
「で、ニワトリ共、何があったんだ?」
ポチとタマがコココッと声を上げた。足がすでにタシタシしている。取りに行くよ! と言っているみたいだった。
「ああ、ポチさんちょっと失礼しますね」
相川さんがポチの尾を確認した。
「この毛は……多分シカですね。ポチさん、タマさん、一緒に向かうんですか?」
ココッ! と返事をされた。それじゃわかんねーよ。しゃべれとは言わないけど。
「ということは、一頭じゃないんですかね?」
「あ? 一頭じゃねえのか?」
相川さんがポチとタマに指を出して確認をした。指を二本出したところでポチとタマがコッ! と返事をした。
「シカを二頭か~。だったら秋本に連絡した方がいいか。ちょっと電話するわ」
おっちゃんが軽く秋本さんに電話をする。
「あの……本当にそうかはわからないんだけど……」
「昇平んとこのニワトリじゃ今更だろ?」
おっちゃんはそう言ってニカッと笑う。いやまぁそうなんだけど、こんなアバウトな情報で秋本さんを呼ぶのはどうかと俺としても考えてしまうのだ。いや、俺はうちのニワトリたちを信用してるけどな。
「ポチ、タマ、秋本さんたちが来るまで待とう。もし本当に二頭だったら三人では運べないからさ」
ポチとタマにはえー? と言われそうな顔をされたが、また小松菜をあげてどうにか宥めたのだった。
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