515.厄介事は忘れた頃にやってくる

 ごちそうをいただいて、ユマとメイを回収して戻った。

 さっそく親から届いた荷物を片付けて、母親からの手紙と結婚式の招待状に向き直る。ユマとメイは帰宅後すぐに表に出た。


「なんかあったら声かけろよ~」

「ワカッター」

「ピィピィ」


 メイまで返事するの可愛すぎだろ。

 念の為家のガラス戸は少し開けてある。そろそろ玄関用の網戸を買うなんて話をしてなかっただろうか。相川さんさえよければ一緒にホームセンターへ行ってもいいのではないかと思った。

 招待状は確かにうちの実家に届いていた。名前を見れば、大学の時の友人だった。コイツとも以前は連絡を取っていたが、彼女とのことは知っていただろうか。彼女のことをもう思い出したくもないせいか、記憶が曖昧だった。

 どうだったっけ?

 どちらにせよ欠席だ。

「連絡よこせよ」とスマホの番号が書かれた紙が入っていた。

 俺はもう誰とも連絡を取るつもりはないんだよ。

 前のスマホも、連絡先も何もかも全消去してケータイ屋に返してしまった。だから学生の時の友人の連絡先も、就職してから知り合った人の連絡先ももうわからない。まっさらなものだ。

 なんとなく番号が書かれた紙にソイツの名前だけメモって、箪笥の奥にしまった。欠席に丸をつける。

 大学の時のことがうっすらとだが思い出された。連絡は取りたいとは全く思わないけど、幸せにはなってほしいと思った。

 一万円包んだらお返しがきそうだよな。でも五千円じゃバカにされたと思うかもしれないし……こういう時のご祝儀ってどうしたらいいんだろう。考えてもしかたないので明日郵便局へ行って送ってくることにした。

 とりあえず招待状についてはこれで済んだ。

 問題は母の手紙に書かれてたことである。絶対本命はこっちだよなと思いながら、マンションと駐車場の管理をしてくれている伯父の顔を思い浮かべた。また売ってくれという話なんだろうか。

 母さんに電話をした。


「母さん、ありがとう。荷物届いたよ」

「あら、届いたの? よかったわ~。ちゃんと返事を出すのよ」

「ああ。それはいいんだけどさ、俺のマンションと駐車場の件って何?」

「……それね……今度は兄さんが駐車場を売ってほしいっていうのよ」

「駐車場を?」

「アンタにじいちゃんが贈与した駐車場ね。辺鄙なところにあったから固定資産税を払ってたらそんなに利益なんか出なかったじゃない?」

「うん」

「だけどねぇ、あの辺が今年の頭から開発されてるみたいで、駐車場周りにけっこうな規模の住宅地ができつつあるのよ」

「へえ」


 そんなことになっているのかと感心した。


「ただね、今建ててる住宅って一軒一軒けっこう土地が狭いのよ。車も軽だったら二台辛うじて入れられるぐらいで……だから駐車場の申し込みがけっこうあるようなこと言ってたのよね」

「えええ、そうなんだ?」


 びっくりだ。そんな話俺は聞いてないぞ。


「あの駐車場って、今まではそんなに利用者がいなかったから一台分のスペースを少し広くとってたじゃない? その間隔を狭めていいかって言い出したりして、正直兄さんには手を焼いてるのよね。悪いんだけど、一度こっちへ来られないかしら」

「ああ、うん……売る気もないしな。伯父さんがそんなにうるさいんだったら、どっかの管理会社とかに連絡とって頼もうかな」


 そっちの方が管理費とかは高いかもしれないが、少なくとも売れとは言われないはずだ。大体マンションも駐車場も伯父がどうしても管理したいと言い出して頼んだんじゃなかったっけか?


「そうね。こっちでも管理会社とか探しておくわ。身内だからって思ったけど……昇平、ごめんなさいね」

「母さんが謝ることじゃないよ」


 やっぱ身内ってのが一番なあなあでいけないかもしれないな。

 電話を切ってため息をついた。

 具体的な日にちは言わなかったが、伯父がそんなことを言っているというなら向かうのは早い方がいいのだろう。


「……行きたくない」


 誰の顔も見たくない。母さんはいいけど、兄さんと姉さんの顔も見たくなかった。からかわれなくても、腫れものに触るような扱いをされるのもごめんだ。もしかしたら叱咤激励されるかもしれない。余計なお世話だった。

 とりあえずは近々網戸を買いにいこう。

 気を取り直して相川さんにLINEを入れ、家の周りの草むしりを始めた。近くでユマとメイが歩いているのが見える。その姿を見ているだけで和んだ。

 電動草刈り機を出してきた。こういう時はストレス発散だ。刈って刈って刈りまくるに限る。


「おーい、草刈りするから近づくなよー」

「ワカッター」

「ピヨピヨ」


 メイは本当にわかったのか? ユマほど足は速くないだろうが、こっちに来られると困るぞ?

 ユマが気を利かせてくれたのか、ひよこのお尻をつついて離れていくのが見えた。ホント、うちのニワトリたちって賢いよなー。ありがたいなと思った。

 派手な音を立てて電動草刈り機が唸り始めた。これ、草を刈ってくれるのはいいけど集めるのがたいへんなんだよな。

 そんなことを思いながら、家の側の雑草を刈りまくったのだった。


ーーーーー

「ワケあって引っ越した~やんちゃオウムと村暮らし」完結しました~。

今日から番外編書いていきます。よろしくー。

https://kakuyomu.jp/works/16817330647950678232

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