494.祭りかなにかと勘違いされてないか?

 おっちゃんは相川さんにも連絡をしてしまったらしい。

 確かに防護服は借りてたけど、ずいぶんがさばってるなと思ったんだ。三人分借りたのかよ。


「相川君も来るってよ」


 おっちゃんは鼻歌混じりである。防護服を借りたから今日はさすがにおっちゃんも刺されたりはしないだろう。


「ありがたいはありがたいんだけど……危険だよね?」

「ああ、駆除してやるから泊めろよ。夕方以降に作業しないと危険だからな~」

「布団とか干してないよ」

「雑魚寝でいいだろ」


 なんでそんなに楽しそうなのか意味がわからない。相川さんもにこにこしながらやってきた。だからどうしてアンタたちはそんなにフットワークが軽いんだ。


「駆除は夕方以降にするが大丈夫か?」

「はい。佐野さん、泊めてくださいね」

「はい。でも布団が」

「雑魚寝でいいですよね?」

「ええまぁ。でも明日は桂木さんのところへ行くことになっているんです。酒は飲まないでくださいね」

「わかりました」

「ちっ」


 おっちゃん、ちっ、じゃないから。飲酒運転は本気で危ないから。

 まだ時間があるので家に案内した。ユマがおっちゃんと相川さんを見てコキャッと首を傾げた。なんでいるの? と思ったのだろう。


「おう、ユマちゃん。上の方でスズメバチの巣を見つけたから取ってくることになったんだ。今夜はおっちゃんも世話になるけどいいだろ?」


 そうユマに話しかけるおっちゃんの目尻が下がっている。まぁしょうがないよな。ユマはかわいいし。(ニワトリバカ全開


「僕はその手伝いできました。今夜は僕もお世話になりますのでよろしくお願いしますね」


 ユマは反対側にコキャッと首を傾げた。


「ああ、リンは来てないんですよ。泊まりなので」


 ココッとユマが返事をする。わかったと言ったようだった。


「全く……本当に昇平んとこのニワトリは頭がよくていけねえや。カタコトでもなんでも、俺の前だったらしゃべってもいいからな?」

「……は?」

「……え?」


 思わず相川さんと共に声が出た。おっちゃんはそんな俺たちを見てニカッと笑った。

 やヴぁい、やヴぁいですよ。しゃべれるのバレてますよ。どーゆーことなんですか。やっぱアレか? 前にポチとタマが油断して返事をした時か? 冷汗がだらだら流れた。


「まぁ……佐野さんちのニワトリさんたちだったらしゃべってもおかしくはないですよね……?」

「相川君とこの大蛇がしゃべってもおかしくねえけどなー」


 おっちゃんはガハハと笑ってお茶を飲んだ。笑えない、笑えないよ。


「蛇ってそんな声が出る声帯ってないような気がしますけど」


 相川さんがさらりと答える。俺はへたなことを言うわけにもいかず、沈黙を守った。

 タマは家の外でうろうろしていた。


「あ、そうだ。タマはスズメバチの巣の場所がわかってるみたいなんですよ」

「おお、じゃあ先に見に行ってみるか」

「そうですね。何が必要かもそれでわかると思いますし」


 ってことでタマに先導を頼むことにして墓のある場所へ向かった。


「タマ、スズメバチの巣がある場所を詳しく教えてくれないか?」


 タマはココッと返事をすると、トットットッと歩いていった。やはり栗林の中の方である。刺されたら困るので首にもタオルを巻き、養蜂用の帽子も被った。手には防護用の手袋を嵌めている。これは去年指を切った時に買い足したものだ。これならきっとスズメバチの針も通らないに違いない。

 栗の木の中ほどに、まだそれほど大きくはないが巣を見つけた。ちょうど一匹出てきてビビったが、タマが器用に捕まえて食べてしまった。


「一応キャタツがあるといいな」

「そうですね」


 二人も帽子は被っているが全然対策しているようには見えない。おっちゃんには大げさだなとか笑われるし。でも俺は絶対刺されたくないんだよっ。

 必要そうなものを確認して、一旦家に戻った。それだけでどっと疲れた。

 そうだ、先に夕飯の準備をしておこう。シシ肉をフードプロセッサーで荒くミンチにして、塩胡椒やカレー粉、クミンなどを混ぜる。これで臭み対策はOKだ。それをシイタケの笠にはまるぐらいの大きさに丸めた。調理する際は先にレンジで中まで火を通してからシイタケの笠にはめて焼くだけである。本当は玉ねぎとかいろんな野菜を混ぜた方がいいんだろうが、そんな面倒くさいことはしない。

 みそ汁はあるし、あとはレタスとサラダチキンのスライスでサラダにして、とか少し考えた。いわゆる現実逃避である。

 で、夕方。ポチが帰ってきてからスズメバチの巣の駆除に向かうと伝えたら、ポチがクァーッ! と鳴いた。どうやらポチもついてくるらしい。


「まぁ、いいけど……スズメバチ、食えないかもしれないぞ?」


 そう伝えたら、ちょっとショックを受けたような顔をしていた。


「よーし! 行くか!」


 おっちゃんはとても楽しそうである。防護服を来てストレッチとかやめてほしい。

 気を取り直していざ、スズメバチの巣の除去へ。

 ……絶対別の場所にも巣ができてんだろーなと考えてげんなりした。早いうちに駆除できるといいんだが、せめて俺の行動範囲には巣を作らないでくれよと思ったのだった。


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