490.目と目が合えば?(なんか違う

「サノー、アイカワー、イツー?」


 夕方に帰ってきたタマに聞かれた。そんなに気になるのかよ。タマは本当にリンさんとテンさんが苦手らしい。


「明日の昼飯の後だよ。お天道様が西に傾き始めてからだ」

「オテントサマー?」

「ア〇ントサマー?」

「テントウムシー?」


 アテン〇じゃ大人用オムツになっちまうし、テントウムシが西に傾いても時間はわからないと思う。


「どーゆー聞き間違いなんだ。お日様だよ」

「ワカッター」


 わざと言ってただろタマ。絶対TVのCMがいけないと思うんだ。なんだかんだいって夜はTVつけてるからそれで覚えるんだろうな。

 ちゃんとこのぐらいの時間だと伝えたせいか、朝はタマに起こされないで済んだ。午前中だとどんなに来る時間が遅くても早く起こされそうな気はする。もう少し優しくしてほしいと思った。

 ユマはリンさんが来るということでちょっとそわそわしているように見えた。かわいい。(ニワトリバカ全開)

 いつも通り朝飯を用意して、ポチとタマはツッタカターと遊びに出かけた。その背中に、「夕方には帰ってこいよー」と声をかけた。クァーッ! と返事があったから大丈夫だろう。あのクァーッ! はうるさーいって言ってるのかもしれないけどな。なんか音のニュアンスがそんなかんじだった。切ない。

 確かにうちのニワトリたちの方が俺よりはるかに強いかもしれないが、それでも心配はするんだよ。飼主特権で心配ぐらいさせろ。

 で、お昼ご飯を早めに食べ終えた後で「これから向かいます」という連絡が入った。


「待ってます」


 麓の柵の鍵を開けに行き、軽トラを方向転換させてそこで待った。ほどなくして相川さんが着いたので中に入ってもらい柵の鍵を閉める。鍵自体は南京錠だから俺が閉める必要はないんだがなんとなくだ。


「わがままを言ってすみません」

「いえいえ、ユマもリンさんのこと待ってますから」


 そのまま家に戻った。


「サノ、アリガト」

「いえいえ。ユマの様子を見に来てくれてありがとうございます。ユマは家の中にいます」


 そういえばリンさんがうちの中に入るのは初めてかもしれない。今日は薄手の長袖のシャツを着ていた。


「ユマさん、こんにちは」


 相川さんが先に入ってユマに声をかけた。


「アイカワー」

「ユマさん、リンがこちらの山で小動物やザリガニを食べてもよろしいですか?」

「ダイジョブー」

「ありがとうございます」


 小動物ってどのへんまでを言うんだろうとちょっと遠い目をした。ザリガニはいくら食べていってもらえてもいいと思う。むしろ助かる。

 相川さんの後ろからリンさんがずるずると入ってきて、ユマの近くで止まった。ユマとリンさんは見つめ合う。そのまま二人は黙っていたが、なにか通じ合っているようにも思えた。


「佐野さん、先日はお渡しできなかったんですけど、これいりませんか?」

「え?」


 相川さんからはまた沢山のシイタケと共に、何やら紙袋が渡された。


「えっと、すみません。確認しても?」

「はい。いただきものなんですけど、いいものなのでできれば人間で食べたいなと」

「おお……」


 なんか高そうなハムをいただいた。あれ? これ前にも似たようなことなかったっけか?


「こんないいもの、いいんですか?」

「また沢山いただいてしまったんです。遠慮なく食べてください」

「お言葉に甘えていただきます。前にもいただいたことありましたよね」

「ああ」


 相川さんも思い出したようだった。


「陸奥さんの田畑の手伝いに行くことがあるんですよ。一年に一回ぐらいなんですけどね。そうするとお礼だなんて言ってお歳暮の残りをいただくんです」

「そうなんですか」


 代わりにシイタケをこれでもかと置いてきたら、かえって怒られてしまったらしい。


「え? なんで……」

「礼にならねえじゃねえか、なんて言って怒るんですよ。困りますよね」


 そう答える相川さんは笑顔だ。

 まぁ確かに、シイタケも買えばけっこうするもんだしな。

 お茶を淹れて、タケノコの煮物と昨日おばさんから分けてもらったしゃくし菜漬けお茶請けに出した。タケノコはだしとおかかで炒り煮にしたものだ。


「これ、野沢菜ですか?」

「いえ、しゃくし菜って言ってました。昨日おばさんが来た時に分けてくれたんですよ。野沢菜とはまた違っておいしいですよね~」

「しゃくし菜って秩父でしたっけ。取り寄せてみようかな」


 相川さんとそんな世間話をしている間、ユマとリンさんはじっとお互いを見ていた。何をしているのかさっぱりわからなかったが、なんだか二人とも楽しそうに見えたからそれでいいのだろう。俺達にはわからない、通じ合う感覚があるのだろうと思った。


「ん?」


 スマホが鳴った気がして確認すると、桂木さんからLINEが入っていた。

 祠が届いたので近いうちに設置に行くのを手伝ってほしいとのことである。


「いつでもいいけど、日にちが決まったら早めに連絡くれ」


 と返した。

 祠のことを相川さんに話すと、


「なんだかんだいって忙しいですね」


 と言われた。確かになんかしっかやることがある。祠といえば、参道の整備もまた再開しないとな。雑草との戦いを思い浮かべて、俺はげんなりしたのだった。

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