476.GW最終日だった

 昼ご飯はシシ肉の唐揚げだった。しっかり味を付けて揚げてくれたらしく、肉の臭みは全然気にならなかった。

 油の処理についても固める系の物を持ってきてくれていた。山倉さんの奥さんさまさまである。


「佐野さんはあまり揚げ物はしないって聞いたから、こういうものもないのではないかと思ったの。油入れは持ってる?」

「あー……そういうのは持ってないです」


 揚げた油でまだ使えそうなのを入れるやつだよな。揚げ物をしないから買ってないのだ。


「じゃあ冷めたら持って帰るわね」

「何から何まですみません」


 なんと奥さん、油も持参してきたようである。できる人は違うよなと思った。キャベツの千切りがシャキシャキでおいしい。レモンも添えてあり、後はほうれん草のお浸しと、漬物が出てきた。みそ汁は俺が大鍋で作ったものである。ごはんは炊いてあった。


「こんな程度でごめんなさいね」

「いえいえ! とてもおいしいです!」


 ニンニクの風味がすごくおいしい。みんなで食べれば怖くないというヤツだ。食べてない人からすれば臭いらしいけど、自分が食べるのは最高だと思う。(俺自身はあまりニンニクの匂いは気にならない)

 圭司さん、将悟君と競うようにして食べた。ちなみにユマは匂いがお気に召さなかったのか、外へ出てしまった。そんなわけでユマのごはんは表に用意した。ごめん。

 昼食後は山倉さん夫妻は帰るそうだ。麓の柵の鍵を閉めてきてもらっているから開けないとな。


「佐野さん、ご面倒かけます」

「いえいえ。ごはん、とてもおいしかったです」

「でしたら今度食べにいらして?」

「母さん、佐野さんに粉かけるなよ」

「あらあら」

「あはは」


 社交辞令だってことぐらい、わかってますから。

 圭司さんと将悟君は山の作業が終ったら直接N町の自宅へ帰るらしい。先に上に上がって作業をすると言っていた。


「ユマ、先に上がって手入れする部分を圭司さんたちに教えてもらっていいか?」


 ユマがココッと返事をする。圭司さんが慌てて手を振った。


「いえ、大丈夫ですよ。もうわかるので」

「うーん……ちょっとそれが微妙なので、すみませんがユマに従ってください」

「?」


 こういうのって説明が難しいんだよな。


「圭司、佐野君の言う通りにした方がいい」


 山倉さんが助け舟を出してくれた。


「わかった。じゃあ、ユマさん、よろしく頼む」


 ユマは先に山の上へと駆けて行った。俺たちは荷物があるから車で向かうけど、ユマは身一つだからフットワークが軽い。


「佐野君、お邪魔しました」


 山倉さんに頭を下げられた。


「いえ、いつでもいらしてください」


 その方がご先祖様も喜ぶと思う。

 山倉さん夫妻の車を柵の外まで見送り、いつのまにか捨てられていたごみなどを拾ってキレイにしてから戻った。こういう踊り場的な空間があると勝手に入ってくる人がいて困るんだよな。ごみの処理ぐらい自分でしろ。

 で、墓のところまで一気に向かい、作業の続きを始めた。三人いると進みが早いので助かる。一人だと手入れができてるのかできてないのかわからなくなる時があるもんな。目に見えて成果が出ないとやっぱりやる気が失せる。いや、やる気なくてもやるけどな。


「佐野さん、ありがとうございました」


 圭司さんに礼を言われた。なんだろう。


「?」

「両親を麓まで見送っていただいて」

「ああ、いえ……別に……」


 麓の柵の鍵は閉めないとこの時期は危険だし、そんな礼を言われるようなことはしていない。ユマは地面をつついたり、草をつついたりしていた。

 将悟君は草を刈ったり枝を払ったりしながら時折ユマの様子を見ている。その目がキラキラしていた。生き物が好きなんだろうなと思った。

 適度に休憩を入れつつ草や木の枝を払った成果は、作業二日で幅2m、距離は20mぐらいだった。これをたったこれだけ、と考えるか、こんなに、と考えるかはその人次第だろう。上がるのにも苦労した場所を、ざっととはいえ20mも整備したのはすごいと俺は思う。俺だけだったらとても二日ではできない成果だった。


「圭司さん、将悟君、本当にありがとう。助かりました」

「いやぁ……もっとできるかと思ったんですが、意外と時間かかりますね」

「そうですね」


 三時ぐらいで撤収してうちでお茶をしてから見送った。


「シシ肉もおいしくいただいてしまってありがとうございます。また、月一ぐらいでお邪魔できたらと思うのですが」

「無理はしないでいいですよ。もう年単位でやりますから」


 急がなくても神様は逃げないし。時々俺が山頂まで上がってお参りしてくればいいだけだ。さっそく明日は上ってこようと思う。


「GWが山の手伝いで終わってしまってごめんね」


 将悟君は友達と遊びたかったんじゃないかなと思ったのだけど。


「いえ、とても楽しかったです」


 将悟君は無邪気に笑った。聞けばGW前半に友達とは遊んでいたらしい。


「それより身体が痛くてたいへんです」

「筋肉痛か。俺も最初の頃はよくなったよ」


 そんな話をして、また今度と言って手を振った。

 誰かが来ると疲れるけど、楽しいのもまた確かだ。麓を見回ってから家に帰ったのだった。


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400万PVありがとうございます~。今日明日中に400万PV記念SSを上げますのよろしくお願いします!!

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