457.西の山へごはんを食べに行ってみる
ユマはトットットッとリンさんの近くまで行った。
二人とも無言だけど、機嫌良さそうに見えた。なんか不思議だなと思う。
ユマもリンさんも言葉はあまり交わさないんだけどわかりあってるような気がする。
「あ、これお土産、というか試供品でもらってきたやつです」
相川さんにサラダチキンが入った袋を渡した。
「見てもいいですか?」
「どうぞどうぞ」
袋の中身を見て相川さんはにこにこした。
「どれもおいしそうですね。試すのが楽しみです。感想、でしたっけ?」
「はい」
「佐野さんにお知らせした方がいいですか?」
「相川さんなら、直接連絡してもいいかもしれませんけど……そういえば桂木さんがスモークチキンが気に入ったって言ってまして。直接取りに行くなら一パック200円でいいって松山のおばさんが言ってたので、数は集約した方がいいかもしれませんね」
「そうなんですか。それは期待が持てそうです」
家にどうぞ、と招かれた。
「ユマさんの食事、どうしましょうか。野菜でいいですか?」
「いただけるならなんでも……ありがとうございます」
相川さんはボウルを持ってきて、畑の野菜をボウルいっぱいに摘むと渡してくれた。どれもとてもキレイな野菜だ。
「うちは無農薬農薬だけなんですが、幸い虫がつかなくて助かってます」
「ありがとうございます」
うちもそろそろ作って撒かないとなと思った。ニワトリたちが怒るから先に断ってからだけど。
「ユマ~、相川さんからいっぱい野菜いただいたぞー」
「アリガトー」
ユマが礼を言う。
「どういたしまして」
ユマはリンさんと表にいることにしたみたいだった。仲がよくて何よりである。
「本当に、リンさんと仲がいいですね」
「そうですね。女の子同士いろいろあるんでしょうね」
そう言って笑いながら、相川さんはスタイリッシュな土間に通してくれた。ここにダイニングテーブルがあるから、俺はここで待つ。
「ちょっと待っててくださいね」
すぐにお茶と漬物が出てきた。
「つまんでてください。用意しますから」
「はーい」
今日はなんの料理が出てくるのかとても楽しみだ。
漬物はカブの糠漬けだった。うまい。いくらでも食べられると思ったが、これから相川さんのごちそうが出てくるのだ。カブだけで腹を満たすわけにはいかない。(さすがにそこまでの量はない)
「シイタケといえばシンプルに”焼き”がおいしいですよね」
そう言って出された前菜は、シイタケの傘の内側にチーズが乗ったもの、バターを乗っけたもの、バターで炒めた石突部分が乗ったものだった。酒持ってこいと言いたくなるようなメニューである。しかも一個一個がそれなりにでかい。
「育ちすぎたものなので大味かもしれないのですが、今年からできるということを失念していまして……」
相川さんが苦笑して言う。
「いただきます」
「どうぞ召し上がれ」
手を合わせていただく。じゅわわっとシイタケの旨味が口の中に広がった。たまらん。チーズも一緒でたまらん。
「う……」
「う?」
「うまいです……」
涙がこぼれそうなほどうまかった。バターが乗ったのなんかもう筆舌に尽くしがたかった。相川さんサイコー、である。
「佐野さんがシイタケ好きでよかったです」
その後、シイタケとタケノコの旨煮(焼二冬)や、山菜のお浸し、白菜の煮つけ(シイタケIN)、鶏肉とシイタケの煮物などシイタケづくしだった。天ぷらも出てきた。火傷しかけた。最後はきのこごはんだった。うん、最高だな!
「シイタケの可能性を感じる料理でした……」
「佐野さん、面白いこと言いますね」
相川さんが噴いた。
「後で見ていただきますけど、調子に乗って原木を沢山設置してしまったんです。もしよかったら湯本さんちにも持ってっていただけますか?」
「はい。届けるだけなら今日行っちゃいますよ」
「よかったです」
相川さんはほっとした顔をした。別に相川さんが持っていってもいいと思うんだけど、俺が来たからというのもあるんだろう。相川さんちの畑はうちのより遥かに広いし、他にもいろいろやっているみたいだから忙しいのだと思う。
シイタケと鶏肉の入ったお吸い物を飲んで、一息ついた。正直どれもおいしかった。
「ホント、シイタケっておいしいですよね~」
「ですね。干してもおいしいですし、もちろん普通に火を入れるだけでも。でもちょっと調子に乗りすぎまして……」
相川さんが遠い目をした。
「原木を用意したって、ここに来てからすぐぐらいですか?」
「そうなんです。最初はすぐできるのかななんて思ったんですけど、調べてみたら4年ぐらいかかるって書いてあって。だったらとことんやってやろうといっぱい設置しちゃったんですよね」
「……じゃあ、今すごいことになってます?」
「ええまぁかなり」
ちょっと想像がつかないが、相川さんがこう言うってことは相当なんだろう。腹が落ち着いたら見に行くのだが、どんなことになっているのか少しだけ怖いような気がしてきた。
いくらなんでも……想像を超えることはないだろうとは思った。
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