407.おっちゃんちにニワトリを送り届ける
翌朝、上には乗られなかったが、タマに腕をつついて起こされた。これはこれでどうなんだ? だからポチに鳴かせろって言っただろーがー。
「タマ、声かけてくれるだけでいいと思うんだが……」
タマなりの譲歩だったのかもしれないが腕が痛いっす。上に乗られるよりはましか? 一応布のある部分をつついてくれたみたいだし。でも早々に穴が空きそうだった。
それにしてもまだ辺りが暗い。こんなに早く起きてどーすんだよ。遠足前の小学生かタマは。
フツーに目覚ましかけてるのに起こされてもなぁ。
タマが起きたせいかポチもユマも起きだしてうろうろし始めた。いくらうちの土間がそれなりに広いっていったってでかいニワトリ三羽が動くには狭いっつーの。
「全く……飯作るか」
今日はポチとタマを送ったら家に帰ってくるつもりなのでみそ汁から先に作った。みそ汁を作っている間にタマとユマが卵を産んでくれた。
無造作に転がっているからくれるのだろう。
「いつもありがとなー」
礼を言って大事に保管する。全ておいしく俺がいただくのだ。こんな大きな卵、正直言うと誰にもあげたくない。味も濃厚でおいしいし。誰かんちに泊った時は別だけど。
朝食を終えてもまだ少し早い時間だったので、出かけるまではとニワトリたちを表に出した。
「遊びには行くなよー。少ししたら出かけるから」
そこらへんで運動でもなんでもしてろってやつだ。うちの中を軽く片付けたり、ニュースを見たりとできることをしてから、そろそろかなと出かけることにした。ユマもついてきてくれるみたいなので助手席に乗ってもらった。
いざ、出発。
おっちゃんちに着いたらもう軽トラが二台停まっていた。
軽トラを下りて周りを確認する。ちょうど家からおっちゃんが出てきた。
「おー、昇平来てくれたのか。本当は俺が頼まなきゃいけなかったんだが……連絡もしないで悪かったな」
「いえいえ。今日ポチとタマ、連れてきてよかったんですよね?」
「おう、頼むわ」
そういえば何故か俺もおっちゃんに確認の電話とか入れなかったな。今日はお隣の人は出てこられないらしい。連日の山の手入れで腰をおかしくしてしまったのだそうだ。腰は大事だ。
「それは……たいへんですね」
「すみませーん」
話していたら女性の声がした。お隣の娘? さんだった。確か本山さんだったかな。娘さんなんだとは思うけど。
「おう、もっちゃんとこの。どうしたんだ?」
駐車場の向こうから歩いてきたらしい。隣と言ってもそれなりに距離があるのに。
「父が、来られないので私が見届けに来ました。よかったら使ってください」
「そんなわけにいかねえよ。夕方になったらこっちから報告に行くから帰んな。気にするこたぁねえ」
「でも……」
自分の親の土地のことなのに、と娘さんは考えているようだった。本当に娘さんだった。じゃあ宴会の時に来た人は旦那さんなのか? なんかお兄さんっぽかったけど。いろいろ複雑なのかもしれないが、詮索はやめよう。
「おー、佐野君。ポチとタマちゃんも来てくれたのかー。嬉しいなぁ。ユマちゃんは行かないのかー?」
陸奥さんたちが畑の方から現れた。
「あれ? もっちゃんとこの。どうしたんだい?」
「あ、陸奥さん。おはようございます」
娘さんは慌てたように頭を下げた。
「おはよう」
「あの、今日は父が来られないので……」
「ああ、聞いてるよ。ありゃあどう考えても運動不足だろ。面倒看てやんな」
「でも……」
「困った時はお互いさまだろ? それにしっかり金ももらってんだ。気にするこたあねえよ」
おっちゃんと同じことを言われ、娘さんははっとしたように顔を上げた。
「ありがとうございます。夕方にこちらに参りますのでその時に教えていただけると嬉しいです」
「なんかあったら電話するってもっちゃんに言っておいてくれ」
「はい。本当にありがとうございます」
娘さんはぺこぺこと頭を下げながら帰っていった。
「あの娘も苦労性だよなぁ……」
「あんちゃんも離婚して帰ってきてんだろ? 子ども連れて帰ってきたはいいが、面倒は母親と妹にまかせっきりらしいじゃねえか。かろうじて畑の世話はしてるみてえだがよ」
おっちゃんと陸奥さんがぶつぶつ話していたが、俺は聞かなかったフリをした。ホント、どっからこういう話って流れるんだろうな。こういうところ、田舎って少しこわいと思う。
「本人たちがよけりゃいいがな」
本人たちがそれでよければいいはずだ。本当のところは知らないけど。
戸山さんと相川さんも来ていた。戸山さんは陸奥さんの軽トラに乗ってきたらしい。
ポチとタマは庭の方にいて、マダー? と言いたそうな顔をしている。ユマは俺の後ろにいた。
「よーし、そろそろ行くか。ポチ、タマちゃん、よろしくな~」
陸奥さんが相好を崩した。本当に気に入ってくれているみたいで嬉しい。ポチがコココッと返事をした。
「昇平はどうするんだ?」
「一度山に戻ります。夕方に迎えに来ますよ」
「わかった。なんかあったら連絡する」
そうしてポチとタマを含むみんなを見送り、俺とユマも山に一度戻ったのだった。
今日は墓参りと、できたら山の上まで登るのだ。
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