401.わちゃわちゃと知り合ってみる

 ここが山でよかったと思う。そうでなければでっかいニワトリたちとでっかい猫が走り回るなんてことできなかっただろうから。

 つか、予防接種の後ってあんなに暴れていいもん? でもなー、相手はうちのニワトリだしなー。おとなしくさせて夜中に騒がれるよりはいいだろう。

 木本医師はこちらの養鶏場の鶏たちに予防接種に来てくれたのだそうだ。そのついでにうちのニワトリたちにも打ってくれたようである。なのでお代は頭割りでいいと言われた。松山さんには深く頭を下げた。個別に受けたら相当高くついたに違いない。本当に感謝、感謝である。


「こんなことならうちのタツキも連れてくればよかった~」


 桂木さんが残念そうに言った。今日は山には寄ってこなかったらしい。ドラゴンさんは冬眠から覚めているとは言ってもまだ動きが鈍いのだそうだ。


「明日でよければ往診しようか? 桂木さんのところはコモドドラゴンだったかな」

「そうかもしれませんけどよくわかりません」

「相川君のところはどうだい?」

「……そろそろ冬眠から覚めるぐらいなので今回は大丈夫です」

「そっかそっか。いや~、本当にこの辺りの村はいいね。みんなでかくてわくわくが止まらないよ~!」


 木本医師は本当に嬉しそうにニワトリたちとトラ君がじゃれているのを眺めた。なんつーか心がすごく若いと思う。


「木本先生、うちの隣の山におっきい犬を二匹飼ってる家があるんですけど診てもらうことって可能ですか?」


 山唐さんの奥さんが木本医師に尋ねた。


「うん、飼主さんから連絡もらえればかまわないよ~。でもおっきいってどれぐらいかな?」

「うちのトラ君と同じぐらいの大きさなんですけど……」

「それもう犬じゃなくない!? それオオカミじゃないのっ!?」

「でもワンって鳴きますよ?」

「この辺りで飼われてる生き物って意味がわからないなぁ。楽しいなぁ~」


 木本医師が楽しそうだからいいんだと思う。オオカミか。ちょっと見てみたいようなそうでないような。

 山唐さんの奥さんはおっとりしたかんじの可愛らしい女性だった。俺と同じぐらいかもしれない。


「こんにちは、初めまして! 桂木リエって言います。おねーさんはずっとこちらに住んでるんですかっ?」


 怖い物知らずの桂木妹が奥さんに声をかけた。


「桂木さん? 初めまして。私は……去年の六月末かな? 七月頭かな? だいたいそれぐらいにこちらに引っ越してきたの。山唐花琳(さんとうかりん)と言います。よろしくね。桂木さんは?」

「うちはおねーちゃんがあっちの山で三年ぐらい住んでます。私は去年の冬ぐらいから居候してます!」


 桂木妹が最初に来たのは秋だったけど、確かにこちらに住み始めたのは冬だったかもしれない。その後もN町にいたりしたけど存在感が強いからずっとこっちにいるような気になっていた。


「そうなのね。あちらがお姉さん?」

「はい!」


 桂木さんがこめかみに指を当てた。


「初めまして、リエの姉の桂木実弥子(みやこ)と言います。すみません、妹が……」

「ううん。私こっちに知り合いとかもあまりいないから……できれば仲良くしてもらえると嬉しいわ」

「はい。是非!」


 女子組はすぐに仲良くなったようだ。


「いいねえ、女性が多いと華があって。で、どっちが佐野君の彼女なのかな?」


 木本医師にさらりと聞かれて詰まった。


「……どちらも違いますよ。いい友達です」


 だからなんで男女がいるとすぐそういう邪推をされるんだろうか。


「ふうん? 相川君は彼女持ちなんだよね。今日は彼女は?」

「山にいます。人見知りなので」

「そっかそっか。泊りとかできないのか~」

「そうなんですよ~」


 リンさんがよその家で泊まりとかぞっとしない話だ。怪談になってしまいそうである。

 そんな世間話的なことをしていると家の中からがたいの大きいいかつい男性が出てきた。


「そろそろごはんですよー」

「ああ、お客さんを使いっ走りにするなと言ってるのに……」


 にこにこしていた松山のおじさんが呟きながらみんなを手招いた。あのいかつい男性が山唐さんだろうか。確かレストランを経営してるんだっけか。


「どんな料理が出てくるか楽しみですね」


 相川さんが言う。相川さんも料理は好きみたいだから気になるのだろう。俺も頷いた。食べるの専門だから、相川さんが山唐さんから料理を教わって食べさせてくれると嬉しい。え? 図々しいって? ほっとけ。


「今日のごはん何~?」


 木本医師はぶっちゃけて聞いている。

 居間に通される。今日は人でぎちぎちだった。俺の右隣に桂木妹と左隣に相川さんが腰掛けた。桂木妹、桂木さんの順で腰掛ける。座卓の向かい側は向かって右から山唐さんの奥さん、二つ席が空いて、松山さん、で、お誕生席に木本医師が腰掛けている。


「座る位置とか全く考えなくていいからね」


 そう言って松山さんが端っこに座ってからみんななんとなく腰掛けたかんじだった。それでもなんか暗黙の了解というかすんなり腰掛けられるものだよな。すでに漬物は出されている。どんな料理が出てくるのか、期待は否が応でも高まっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る