383.ニワトリたちを迎えに行ったら

「畑って何を植えるんだ?」


 何を植えたらいいのかよくわからなくて桂木さんに聞いてみた。先日は相川さんにも聞いた。


「うちはー……ジャガイモとニンジンと……カブとか……あとは青菜ですかね」

「そっか」

「まだ決めてないんですか?」

「いや……小松菜は植えようとは思ってるんだけど」

「小松菜いいですよね。かなり長い期間収穫できますし」


 うんうん、と桂木さんが同意してくれた。


「はーい! リエはこの、ラディッシュってのを植えるのがいいと思います! 赤っぽくてオシャレ!」


 桂木妹はスマホで調べてくれていたらしい。今の時期の野菜を探してくれたようだ。


「ありがとう。考えてみるよ」

「リエは辛いの苦手でしょ? ラディッシュは物によっては辛味があるわよ?」

「えー、そうなんだ~、残念」


 物によってはそれほど辛味はないのだが、辛いのに当たると舌が痺れそうに感じることもある。辛いのが苦手だったらあまりオススメはできないかもしれない。俺は苦手ではないので種を探してみようかなとは思った。生えるかどうかはわからないけど。

 そんな話をしながらふと思い出して聞いてみた。


「そういえばナル山の祠とかって見つかったのか?」


 桂木さんは難しい顔をした。


「うちの山の以前の持ち主からそういう話は聞いてないと山中のおじさんには言われているんです。ただ……」

「ただ?」

「うちの山って私が全部手入れしているわけではないので、もしかしたら頼んでいるおじさんたちが知っているかもしれないかなーって……」

「ああ、それは聞いてみた方がいいかもしれないな。ナル山の歴史みたいなのについても知ってるかもしれないし」

「それもそうですね。そうしてみます」


 桂木さんの声が弾んだ。ナル山の由来ぐらいなら聞いたことがあるがそれも眉唾だった。だからもしかしたら大した話は聞けないかもしれないが村のおじさんたちはかなりの話好きである。聞けばいろいろ教えてくれることは間違いなかった。

 桂木姉妹とドラゴンさんは三時過ぎに帰って行った。先に山の家へドラゴンさんを送っていくのだろう。まだもう少し麓で世話になるようだった。ドラゴンさんは一人にしても勝手に餌を取ってこられるから心配することはない。山の中なら水も好きに飲める。そう考えるとドラゴンさんはペットというより同居人という感じだ。まぁ、うちのニワトリたちも似たようなものだけど。

 暗くなる前にと、桂木さんたちを見送ってからユマとおっちゃんちへ向かった。

 おっちゃんちの駐車場に軽トラを停める。まだ相川さんたちの軽トラは停まっていた。夕方も近いが戻ってきてないのかなと思いながら軽トラから下りた。ユマも下ろす。


「ユマ、俺から離れるなよ」


 畑へ走って行かれても大丈夫だとは思うが念の為である。ユマはコッと軽く鳴いてくれた。

 庭に面した居間の方へ向かうと、おばさんが縁側でお茶を飲んでいた。


「あら、昇ちゃん。いらっしゃい。まだ戻ってきていないのよ」

「こんにちは、おばさん。……そうなんですか」


 どうもおっちゃんも着いていったようだ。それは下手したら暗くなるまでコースじゃないのかなとも思った。


「いつぐらいに戻ってくるとか言ってました?」

「……そんなの当てにならないわよ。お茶淹れてくるわね~」

「はーい」


 確かに当てにならないだろうなと思った。いつ戻ってくるかわからないので、ユマには遊んできてもいいと伝えた。


「畑までは行ってもいいわよ。でも山は上らないでね」


 おばさんに言われてユマはコッと返事をした。そしてツッタカターと畑の方へ駆けて行った。


「……本当に、頭いいわよねぇ」

「ですね」


 おばさんに淹れてもらったお茶を飲みながら同意する。下手すると俺より頭いいんじゃないかと思う時もあるぐらいだ。

 西の空がオレンジ色に染まっていく。もちろん日の入りまではもう少し時間はあるが、今日は山に帰れるだろうかと少し不安になった。


「昇ちゃん、なんならうちに泊まって行けばいいわよ。ニワトリたちはここにいるんだし」

「それもそうですね」


 着替えがないけど一晩ぐらいならどうにかなるだろう。一応念の為下着は持ち歩いているし。(汗をかきすぎた時用である)山に誰かがいるわけじゃない。ポチとかタマが留守番していたらヤキモキしてしまうだろうが、ポチもタマもこっちの山に来ているのだ。俺は少し気が楽になって、まんじゅうをつまんだ。西の空がオレンジからもっと濃い色に染まっていく。でも赤ではないんだよな。おばさんは夕飯の支度をすると言って家の中に戻った。日が落ちてくると更にどんどん寒くなってくる。

 今日はもう泊まりかなと諦めた頃ユマが駆けてきた。


「ユマ?」


 ユマは俺を見ると立ち止まり、振り返るようなそぶりを見せた。ユマの背後を見やる。暗くてよく見えなかったが、ポチとタマの姿が見えた。暗くなるから戻ってきたのだろう。


「おーい、佐野くーん! 手伝ってくれー!」

「はーい!」


 どうやら何か獲れたようだった。

 イノシシか? それともアナグマとかかな? 今日はどこまで行ったのだろう。ちょっとだけわくわくした。

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