381.送ってったり、迎えたり

 昼ご飯を食べるなら1時頃には来てくれと、桂木さんには連絡した。

 今朝もタマとユマが卵を産んでくれた。二羽にありがとうと感謝して、昼のラーメンで使わせてもらうことにした。常温の方がいいんだよな確か。違ったっけ?

 朝ごはんを食べさせてからおっちゃんちへ向かう。今日ポチとタマはおっちゃんとこの山へ出張だ。おかげで随分早い時間にタマに起こされてしまったわけだ。早く起きてもかまわないが早く起こさないでほしいと思う。最近けっこう重いし。

 見送りにはユマも行くらしく、当たり前のように助手席にもふっと座った。


「サノー、イッショー」

「うんうん、一緒だよな」


 なんだろうな。すっげえかわいい。羽を優しく撫でてやった。

 まだ寒いのだが、ところどころ緑が増えてきているように見える。もしかしたら俺の希望的観測なのかもしれないけど、春なんだなとまた思った。山の緑が増えていくのは気持ちが高揚すると共に面倒くささもある。また雑草と戦う日々が始まるのかと思うと、少しだけ嫌になった。

 そんなことを思いながらおっちゃんちに着いた。一度ニワトリたちを全員下ろした。ニワトリたちは駐車場から少し離れて思い思いに身体を動かしている。きっと車に乗ったことで凝り固まった身体を伸ばしているのだろう。

 相川さん、陸奥さんたちのものと思しき軽トラが先に停まっていた。

 みな畑の方にいるのだろうかとそちらへ行こうとしたら、家からおっちゃんが出てきた。


「おう、昇平。ニワトリたち、連れてきてくれたのか」

「うん、連れてきたよ」

「畑へ行くぞ」

「はーい」


 ニワトリたちを畑の方へ促す。基本はおっちゃんの言うことを聞くように言い、山では陸奥さんたちの言うことを聞くように言いつけた。

 畑では陸奥さん、戸山さん、相川さんの三人が待っていた。


「佐野君、すまねえな」

「佐野君、ありがとうね」

「佐野さん、ありがとうございます」


 三人に礼を言われてとんでもないと手を振った。礼を言うのならばポチとタマに言ってくれればいい。ポチとタマはキリッとして三人に向き直った。山を回るということになのか、それともイノシシを狩るということになのかはわからないが随分張り切っているように見えた。

 おっちゃんが頭を掻いた。


「隣も後で挨拶に来るっつー話だが、先に山に入ってもらった方がいいだろ。ポチ、タマ、陸奥さんの指示に従ってくれよ」


 おっちゃんの言にポチがコッ! と返事をした。ポチが返事をしたなら大丈夫だろうと思った。


「すみませんが俺は帰ります。夕方迎えに来ますのでよろしくお願いします」

「お? そうなのか?」


 おっちゃんに意外そうに言われた。


「また時間作って顔を出しますよ。ポチ、タマ、頼んだぞ」


 ココッ! と返事をもらい、俺はユマと山に戻った。


「ユマ、好きにしてていいからな~」


 桂木姉妹が来るまでと家事をする。寒いけど天気がいいから洗濯が捗るというものだ。言われた通りハンドクリームも塗っているので手の調子もそれほど悪くはない。でもこれ塗るのっていつまで続けるんだろうな。

 そういえば桂木姉妹が何で山に行くのか聞いていなかった。2時頃こちらに来ると言っていたのに1時頃に来るように言ってしまったけど大丈夫だろうか。ま、遅れそうならLINE入れてくれるだろ。そう考えるとこのスマホって道具はよくできていると思う。俺が生まれた頃はまだ携帯電話が普及し始めた頃だというのは本当だろうかと不思議に思う。それまで待ち合わせとかどうしてたんだろうな。

 駅では伝言板だっけ? XYZって書くとどうとか聞いたような。今ではその伝言板とやらの姿も見ない。

 畑にはいつ頃植え始めようかと外でぼうっとしていたら車の音がした。桂木姉妹が着いたようだった。


「佐野さん、こんにちは~」

「おにーさん、こんにちは! タッちゃんも来たけどいーい?」


 タッちゃん?

 俺は首を傾げた。


「すいません、タツキのことです。リエ、勝手にうちのタツキに変なあだ名つけないでよ!」

「えー? タッちゃんの方がかわいいでしょー? ね?」


 俺ははははと笑って返事はしなかった。下手なことを言うと怖いからである。女性のそういう話には入ってはいけないのだ。


「タツキさんも来たんだな。もう冬眠は終わったの?」

「いえ、まだ終わってはいないと思うんですけど動くようになってきたみたいなので。ここに来るかどうか聞いたら軽トラに乗ってくれたんです」


 桂木さんはとても嬉しそうに教えてくれた。軽トラの後ろにトタンをつけた状態でドラゴンさんは器用に下りてきた。

 ユマがそれを見てコキャッと首を傾げた。


「お久しぶりです、タツキさん。ユマ、タツキさんだよ。挨拶してくれ」


 ユマはトットットッとドラゴンさんに近づくと軽く鱗をつついた。ドラゴンさんは満足そうに薄い瞼を閉じた。


「わー、タッちゃん嬉しそう~」


 桂木妹が目を丸くしてユマとドラゴンさんを見ていた。これは嬉しそうなのか。俺にはよくわからないけど。


「今日はなんで山に?」

「畑を放置してたので。土を返して石灰撒いてきたんです。タツキは肉食だけど触ったら困るなと思って連れてきました」

「そっか。タツキさんも何か食べるかな」

「一応……鶏肉はあげたんですけど」

「シシ肉なら少し解凍してあるから出してみるよ。食べないなら食べなくてもいいし」

「ありがとうございます」


 お互い姿を見ればそれなりに過ごしてこれたことはわかる。桂木姉妹は少し丸くなったように見えたが、俺ももしかしたらそう見えるかもしれないので何も言わなかった。


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