380.畑の準備をしたり、いつも通り
うちの畑はそれこそ家庭菜園より少し広い程度なのでそれほど石灰はもらわなかった。石灰の種類は比較的使いやすい有機石灰である。牡蠣殻とかを原料として作られるあれだ。それで足りないようなら草木灰を使うよう言われた。草木灰なら自分のところで用意できるもんな。灰にした雑草の種類にもよるけど。
翌日には声がかからなかったので畑に石灰を軽く撒いた。少ない分には足せばいいが多いとたいへんらしいと聞いたので。
「畑には入るなよ~」
とニワトリたちに注意して作業をした。有機石灰だから撒いた後すぐぐらいに作付けしてもいいらしいのだがそんなに急いでいるわけでもない。でもこの有機石灰って多分おっちゃんちでは使ってないよな? やっぱうちとか相川さんちの為に買ったに違いない。また何を返すことができるだろうか。してもらったことを全部表にでもしなければいけないような気がする。そこまで考える必要はないのかもしれないが、感謝は忘れないようにしないとな。
ユマが畑の側でコキャッと首を傾げていた。何してるのー? と言いたそうである。顔を上げたら目の届く位置にいてくれるのが嬉しい。
ポチとタマはいつも通り遊びに行っている。まだまだ寒いけど今日も平和だ。
お昼ご飯を食べている時に桂木さんからLINEが入った。
「?」
行儀は悪いが片手で箸を持ったままスマホを操作する。
「明日家に行こうと思っています。帰りに寄ってもいいですか?」
帰りに寄るという距離でもないとは思うのだが、先に言ってもらえると助かるといえば助かる。
「妹さんも一緒だよね? 時間によるかな。いつぐらいに来る?」
「二時ぐらいでどうですか?」
「いいよ」
例えばニワトリたちをおっちゃんちに行かせることになっても、二時ぐらいなら俺は山にいられるだろう。
「昼飯は用意しなくていいのかな」
一応聞いてみる。いらないとは思うが念の為だ。
「ごちになりたいです!」
…………。
まぁいっか。
「ラーメンでいいか?」
「ありがとうございます!」
ちょうど昨日買物に行ったからインスタントラーメンを二袋(五個入り)買ってきたのだ。チャーシューはないけどシシ肉は冷凍してあるから解凍して焼けばいいだろう。卵は……とユマを眺める。卵に関しては時の運だ。桂木姉妹の運がよければタマかユマの卵が食べられるだろう。青菜もあるしラーメンが手軽だなと思った。
もう三月だからもっとN町に行く頻度も上がるはずである。明日やることを考えつつ、午後は木々の枝打ちをがんばった。
少しずつだが草が生えてきているのがわかった。
まだ寒いけど、春だなぁと思う。
夜、相川さんから連絡があった。やっぱりニワトリにも来てほしいとのことだった。
「行かせるのはかまいませんが、具体的にどこを回ることになるんですか?」
「おそらく明日は湯本さんの山の隣を回ることになるかと思います。そうは言っても隣の家に面した部分だけなので、そこよりも更に西から入ってきているとなるとお手上げなんですけどね……」
「隣の山の更に西って持ち主はどうなっているんですかね」
「それが……隣の家の方もわからないようなんですよ。隣の家のそのまた隣、というと現在は空き家になっているので持ち主を探すのも難航しそうです」
「役場には……いや、そこまですることではないですよね」
「ええ、そこは僕たちが考えることではないと思います」
相川さんにきっぱりと言われてそれもそうだなと思った。それはおっちゃんか、もしくは隣の家の人がやることだ。なんか頭の中がヒマらしくて余計なことまで考えてしまう。
「ニワトリたちに聞いてからLINE入れます」
断って電話を切った。
「明日、おっちゃんちの山とその隣の山を相川さんたちが上るらしい。イノシシ等を探すんだと。行くか?」
「イクー!」
「イクー!」
「サノー」
「ポチとタマは行ってくれるんだな。ユマは俺と留守番でいいか?」
「ルスー?」
ユマがコキャッと首を傾げた。留守番という言葉の意味がユマにはよくわからないらしい。
「明日の昼に桂木姉妹がここに来るんだ。だからポチとタマをおっちゃんちに送ったら、俺とユマは帰ってくる」
「ワカッター」
本当にわかってくれたかは怪しいけどかわいいからいいや。俺はユマの羽を優しく撫でた。
まだ寒いから俺も玄関兼居間で寝ているのだが、朝タマがのしっと乗っかってきて起こされた。
「ぐえっ!?」
見た目はそんなに変わらないのだがどんどん重くなっていると思う。そろそろ圧死しそうだ。
「タ~マ~、どけーっ!」
起きればすぐにタマはどくが、それ以前に乗っかって起こすのはやめてほしい。
つーか、さ。
「……あれ? どうしても俺のことを起こしたいんだったら鳴けばいいんじゃないか?」
ニワトリの鳴き声ってかなりうるさいし。家から出すとポチがよく雄叫び上げてるし。タマはもう土間に下りて知らんぷりしている。
「……タマ、今度起こす時はポチに頼んでくれ……」
聞いてもらえない気がするが一応言ってみた。タマはそっぽを向いてツン、と顎を持ち上げた。うん、聞く気ないな。
まだ世界が暗いと思ったが、二度寝する気力もないので起きることにした。
やれやれだ。
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