三月頃(一年経った)

378.そろそろ三月になりそうです

「なぁ、もしもさ」


 実際どうなるかはわからないけど、ニワトリたちには事前に聞いておくことにした。


「おっちゃんとこの山、回ってくれって言われたらどうする? 行くか?」

「イクー」

「イクー」

「サノー」


 ポチ、タマ、ユマである。なんでユマはこんなにかわいいのだろうか。


「ユマー!」


 さすがに抱きしめたら驚かせてしまうのでそっと触れた。この癒しがたまらない。

 ポチとタマの視線を感じてはっとした。いや、そうじゃなくてだな。


「ユマは俺と留守番するってことか? 俺もおっちゃんちの山に上るとしたらどうする?」

「サノー、イッショー」

「そっか。そうだよな」


 やっぱり側にいてくれるらしい。あんまりかわいくてにまにましてしまう。

 そうは言ってもすぐ呼ばれることはないだろうとその後ものんびり過ごした。

 そういえば今年は春祭りはないらしい。昨年はいきなりやろうという話が出て、屋台の手配などもとんとん拍子に決まって開催できたとのことである。そこでニワトリたちと会えたんだから、運命とやらを感じずにはいられない。

 お祭り自体は稲荷神社であったから以前お稲荷様の方向に手を合わせたら……。


「あれ? なんかあの時……」


 不思議な声が聞こえたような気がしたけどきっと気のせいだろう。

 もう一度稲荷神社の方向に手を合わせて「ありがとうございます」とお礼を言った。


「ダカラウチジャナイ~」


 風が吹いてきてそんな言葉が届いた。

 気のせいではなかったらしい。


「ごめんなさい」


 手を合わせて頭を下げた。お稲荷様ではなかったようだ。

 やっぱりこの辺りには神様が普通にいるらしい。だから山の上にも上がれなかったのだろう。


「いつも気にかけていただいて、ありがとうございます」


 山頂に向かって手を合わせた。

 相川さんのところの山には祠があったけど、桂木さんの山はどうなのだろうか。やはり春になったら一度調査が必要だろうなと思った。祠があるなら手入れをした方がいいだろうし。

 祠の手入れをしたからって何か起こるわけではないだろう。つか、神様はそこに在るだけなのだから何かが起こると思っている方が間違いだ。ただ懸命に、生きていけばいいだけだ。

 春になったらやりたいことがいっぱいある。もう間もなく三月だから春は春なんだけど、俺はせいぜい畑の世話をするぐらいしかやることがない。


「あ」


 桂木さんたちは山の畑はどうするんだろうか。おせっかいだろうとは思ったがLINEを入れてみた。


「そういえば畑の手入れってしてる?」


 スマホが手元にあったのか、すぐ返事があった。


「忘れてました! ありがとうございます!」


 声をかけてよかったなと思った。俺もそろそろ石灰を買ってこないとな。天気予報を確認する。これから一週間の予報を見たら雨か雪が降るのは後半らしい。三月も意外と雪が降るから油断は禁物だ。

 以前四月の頭にも雪が降ったことを思い出す。それもまた異常気象とかなんだろうか。

 久しぶりにN町に買物に行こうかな。相川さんにLINEを入れた。


「そうですね。また町へ行きましょうか」


 明日はおっちゃんちの山に上るそうで、明後日一緒に買物に行こうという話になった。ユマとドライブするだけでもいいんだけど、やっぱ誰かと少しは話がしたい。買物リストを作ることにした。

 ポチとタマは相変わらずツッタカターと山の中を回っている。それなりに広さがある山だし、裏山までうちの敷地内だから遊び甲斐があるんだろうか。そう考えるとユマは俺の側にいてつまらなくないのだろうかとやっぱり心配になった。


「よし、薪になりそうな枝を集めよう」


 ユマを誘って炭焼き小屋の近くで枯れ枝などを拾って過ごした。……気を付けていたつもりなんだけどまた腰が痛くなった。中腰の作業ってやっぱ腰にくるよな。こういうのってどうにかならないんだろうか。

 キリのいいところまで集めてから家に戻って昼食にし、午後は川を見に行った。見たかんじ流れが滞っているところはなさそうだった。今度全体的に見て回る必要はあるだろう。水を取っているところも確認する。ろ過装置は問題なく機能しているようだった。そうは言ってもさすがに生水は飲めないけど。


「そういえばどっかで湧き水が出てるようなこと聞いたような? でも裏山の方だっけか……」


 湧き水ならそのまま飲めるのにな~とか思ってしまう。(注:検査を経て合格しない水は勧められません)

 川の中を覗いてはみたけど、魚がいるのか、ザリガニがいるのかはわからなかった。ザリガニはまだ冬眠中だろう。リンさんが大分食べてくれたとは思うんだが今年はどうなんだろうか。


「他にも川ってあるんだよな……」


 今年は他の川の管理もしなければいけないと思う。裏山も回ってみたいし、その気になればやることは山ほどあるものだ。


「山の管理って本当にたいへんなんだなー……」


 木々の手入れも全然できてないし、こんな持ち主でいいんだろうか。ユマがトトトッと近寄ってきて、すりっと擦り寄ってくれた。ユマはどういうわけか俺の気持ちにけっこう敏感だ。


「ユマ、いつもありがとうな」


 羽を優しく撫でる。

 やっぱ俺、ニワトリがいてくれればいいや。

 思いを新たにする。そうなるとまた予防接種とか必要かもしれない。

 さっそく松山さんに電話をした。


「予防接種? あれからやってなかったのか? そりゃあだめだ。せめてニューカッスルだけでも3か月に一回ぐらいは打たないと」

「え」

「うちに木本さんが来る時に呼んでやるからその時に連れてこい」

「は、はい……」

「そしたらついでにしてもらうから」

「ええ!? いいんですか?」

「うちのニワトリたちのついでだぞ。そっちのニワトリたちにも元気でいてほしいからなー」

「ありがとうございます。助かります!」


 電話を切って呆然とした。

 そっか、人間と違ってもっと予防接種とかしなきゃいけなかったんだ。つか、人間だって追加とかあるじゃないか。俺の母子手帳ってどこにあるんだっけ。


「あー、俺のバカー!」


 叫ばずにはいられなかった。

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