376.隣山の姉妹に会った
相川さんはかなり薪を用意しているということなので、まずは炭焼きをするという話に落ち着いたようだった。
炭焼きを終えてからおっちゃんちの山を回ることにしたらしい。その際におっちゃんちの隣の土地も見に行くという話になった。
陸奥さんがおっちゃんに確認する。
「西側の山って、隣の土地なのか?」
「あー、それも確認してみなきゃわかんねーなー……」
隣接しているからその家の土地とは限らなかったりする。そこらへんけっこう面倒くさいのだ。
「聞いとくわ」
「隣の山まで入れると楽だよな」
捜索範囲は広がるが、疑わしいところを横目で見ているよりは直接探せる方がいいだろう。
お昼ご飯はとんかつだった。おっちゃんが少し困ったような顔をしていたが、おばさんなりに気を使ってくれた結果なのだろうと思う。
「若い人はいっぱい食べないとね~」
俺と相川さんの皿にはてんこ盛りにされた。
えーと、胃薬持ってきてたっけ……。
他のメンバーのお皿には少なめによそられていたからそういうことなんだろう。それにしても煮物がうまい。なんでこうおばさんが作る煮物っておいしいんだろうな? 小さい頃は辛い物が苦手で、おかげできんぴらごぼうがおいしいとは思えなかった。でも大人になった今はこのピリ辛がおいしくてしょうがない。
「うまく味がしみたからどうぞ」
「レンコンだ!」
レンコンの南蛮漬けが出てきた。レンコンを一度素揚げするんだっけか。どうも揚げ物をするのは苦手だ。油の処理を考えるとなかなかできない。
それにしてもうまい。レンコンは最高だ。みそ汁にはかぼちゃが入っていた。うん、うまい。つか、おっちゃんちのごはんは何を食べてもおいしい。パリパリとたくあんを食べ、とんかつを食べる。やっぱとんかつにはソースだよな。
みなごはんの前では静かになってただひたすらに食べた。思ったよりおなかがすいていたようだった。
……また大量に食べてしまった。
諦めて庭に面した居間で転がった。幸せなことである。
「……相川さん、最近ズボンがきついんですけど……」
「僕もです……でもダイエットはしたくないですよね」
「したくないですね」
つか、冬にダイエットなんかしたら病気になりそうだ。町で暮らす冬ならばともかくうちは山の上である。ひとたび風が吹こうものなら寒さがハンパない。
「なら身体を動かすのが一番ですね」
「ですねー」
薪になりそうな枝でも探すか。炭焼きは明後日から始めるらしい。俺は一日番をすればいいので四日後に来てほしいと言われた。温度などを見張る役である。念の為防寒具は余分に持って行くべきだろう。窯を作るところから始めるらしいのでそれなりに期間が必要なのだそうだ。
「炭焼き窯ってその都度作るんですか?」
「年に一回ぐらいなのでうちはみなさんに手伝っていただいて作ってますね」
「一から作った方がまとめて作れるしなー」
「ああ……欲しい量に合わせてですか」
「そういうことだ」
陸奥さんがうんうんと頷いた。そうしていたらピンポーンと呼び鈴が鳴った。桂木姉妹が来たのかもしれない。急いで起き上がり、髪などをざっと整えた。
「みやちゃん、リエちゃんいらっしゃい~」
「お世話になります」
「真知子さんお邪魔しますー」
予想通り桂木姉妹だったようだ。出迎えるもおかしな話なので居間でなんとなく座って待っていたら、トタトタと歩く音がして桂木姉妹の顔が覗いた。
「こんにちは~。みなさんお揃いですね」
桂木さんが嬉しそうに言う。その後ろからひょこっと桂木妹の顔が覗いた。
「こんにちは~、おじさんたちいたー。おにーさんと相川さんもこんにちはー」
笑顔を向けられて陸奥さんと戸山さんも笑顔になった。桂木姉妹は純粋にかわいい。
「嬢ちゃんたちは今日から泊まりか」
「はい」
「そうでーす!」
陸奥さんに聞かれて二人は笑顔で答えた。
「そうかそうか。転々としてたいへんだなぁ」
「毎日がお泊り会みたいで楽しいですよ~」
「おにーさんちにもお泊りしたいな~」
桂木妹よ、不穏なことを言うでない。
「……嫁入り前の娘がそういうこと言わない」
「おにーさん、カタすぎるよ~」
あははと桂木妹が笑う。
「もー、リエ。佐野さん困らせちゃだめでしょー」
「おねーちゃんも佐野さんちに行けたらいいのにって言ってたじゃん」
桂木さんの頬が少し赤くなる。
「それはー……話の流れじゃない。ポチさん、タマちゃん、ユマちゃんかわいいしー……」
うちのニワトリ目当てだったとしてもちらちら見んな。
「ニワトリたちは大人気だねえ」
戸山さんがにこにこしながら言う。
おばさんがお茶を持ってきてくれたのでお茶をいただいてから帰ることにした。
表へ出てニワトリたちを呼ぶ。桂木姉妹も見送りをすると言って表へ出てきた。
「おっちゃんちには何泊するんだ?」
「一応三泊四日の予定です。もっといてもいいとは言われてるけどさすがに悪いので」
「……妹さんの方は決着つきそうなのか?」
「……なかなか難しいですね。一年ぐらいは私も面倒はみるつもりですけど……」
「そっか」
妹を一年は面倒みるってすごいことだと思う。俺は桂木さんの頭を軽く撫でた。小さい頭だなと思った。
「なんかあったら言ってくれ。力仕事ぐらいしか手伝えないけど」
「……ありがとうございます」
桂木さんは俯いて顔を上げてくれなかった。
ニワトリたちが慌ただしく戻ってきたので軽トラに乗せて山に戻った。炭焼きについては相川さんがまた改めて連絡くれるそうだ。
みんなの憂いが早くなくなるといい。俺は山の上の方を見上げながら祈った。
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リワードいただいて浮かれてるので近況ノート書きました。ただの自慢です(ぉぃ
「6月のリワードいただきました!!」
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