370.卵とおじさんたちの本気について

 さて、大きい工作大好きーズが表で作業している間に俺は昼食の準備だ。

 タマとユマの卵はいくつか取っておいてあるから材料はある。松山さんのところから鶏肉も買ってきてある。玉ねぎも十分ある。

 と来たら親子丼だ。

 みそ汁の具はワカメと小松菜だ。漬物は雑貨屋から買ってきてある。ごはんもいっぱい炊いてある。

 がんもどきも煮てある。これは干し椎茸の戻し汁と醤油や砂糖で人参、戻した椎茸の細切りを加えて煮たものだ。その他に冷凍しておいたイノシシの味噌漬けを焼く。なんか野菜が足りないなと思うが男の飯はタンパク質が基本だ。(個人の考えです)

 ユマにはおっきいお友達たちには近づかないように言い、俺は台所で作業に勤しんだ。……そんなに人数がいなくて助かった。卵や鶏肉はそれなりにあるのだが煮物だのイノシシの味噌漬けだのはそんなに量がないのだ。シシ肉、また調達できないもんかな。って、それこそ時の運だろう。

 すっかりニワトリたちを頼っている自分がなんか嫌になった。

 本来野生動物はそんなに獲れるものじゃないはずだ。どうもニワトリたちがポコポコ捕まえてくるから勘違いしていた。もっと気を引き締めないとなと思った。

 家の外からガンガンドンドンバンバンとすごい音がしてくる。いったい何をやってるんだろう。そういえばあの人たち柱っぽいのまで持ってきてたよな。二万円までしか出さないって言ったはいいけど、材料費とか大丈夫なんだろうか。

 大人数の料理なんてしたことがないから、ああでもないこうでもないと苦労しながら準備をした。時間を見るともう昼になっている。ここいらで声をかけた方がいいだろう。親子丼を作る手順を考えながら表に声をかけた。


「ごはんですよ~!」

「おーう!」

「はーい!」


 全員の返事が重なって聞こえてきた。

 しかしどういうわけか、真っ先に駆けてきたのはユマだった。ユマのごはんも用意しておいてよかったと冷汗をかいた。


「ユマ、今日はまだ調理してるから外で食べてもらっていいか? シカ肉もつけるから」


 ココッ! とユマが返事をした。表に台を置き、その上にエサを入れたボウルを置く。ユマが行儀よく待っている前で一切れ二切れと大きめに切ったシカ肉をエサの上に乗せてやった。後から乗っけてやった方がわかりやすいからか喜ぶんだよな。


「おー、ユマちゃんよく食べるなぁ」


 陸奥さんが嬉しそうに声をかけてきた。そちらを見れば足場がしっかりできていて、太い柱が四本立っている。すぐにでもトタン屋根が乗りそうだった。

 だからその太い柱はどうやって調達してきたのか聞いていいでしょうか。


「その角材……どうしたんですか?」

「ああ、廃材だからただだぞ」

「……よかったです」


 それならいいけど普通に買ったらそれなりの値段がしそうだ。


「それよりごはんですよ。準備します」

「ああ、楽しみだなぁ」


 にこにこしながらみんな家に入った。家の扉は少しだけ開けておく。ユマが外で食べてるし。


「ごはんよそりますね」


 食器だけはけっこうあるから、どんぶりに相川さんがごはんをよそってくれた。とても助かる。(食器は元庄屋さんたちが置いていってくれたものが主だ)

 お茶はお盆にまとめて載せてある。こたつの上に漬物も置いてある。みんな適当に配って摘まんでいた。

 タマとユマの卵は一つ一つが大きいから一人一個ずつでも十分である。鶏肉も松山さんのところから買ってきた最高のものだ。よく作っているものだけど人に食べさせるとなると緊張する。一度で全員分は作れないから三回に分けて作った。三回目は自分のだ。

 作った物を相川さんが運んでくれて、どうにかなった。


「おお~! うまそうだな!」


 おっちゃんが親子丼を見て声を上げた。


「お待たせしました。ではいただきましょう」


 内心冷汗をかきながらみなを促し食べ始めた。足りなかったら困るなと思いながら。


「親子丼うめぇ~~~~!」


 おっちゃんがしみじみ言ってくれた。よかったよかった。


「はー……やっぱりいいですよね。タマさんとユマさんの卵、最高です……」


 目の前で相川さんがしみじみ言う。いや、そんな大げさに喜ぶようなものでは……とは思うが俺もいつも幸せを感じているからそれでいいのだ。


「ええ、うちの子たちの卵は最高です。松山さんのところの鶏肉もおいしいですよね~」


 みんなでにこにこしながら食べ終えた。相川さんはごはんもおかわりして食べてくれた。よかったよかった。


「よーし、これで午後もがんばれるね!」


 一番元気になったのは戸山さんだったようだ。

 タマとユマの卵パワーのせいかそれからみな夕方まで作業を続け、一日である程度形にしてしまったのだった。さすがに完成とまではいかなかったが(下の部分を一部コンクリで固めた為)、一応使えないことはないらしい。


「メンテナンスは僕がしますので、なにかあったら言ってくださいね」

「お、相川君ずるいぞ!」

「隣山の特権ですよ~」

「ええ~」


 大人たちの暴走が止まりません。誰か止めてください。

 夕方にはポチとタマが帰ってきて、ああでもないこうでもないと言い合っている大人たちをきょとんとした目で見つめていた。それからできたばかりの四阿を離れたところからこわごわと眺め、なかなか家に戻ってきてはくれなかった。

 まぁ確かに、帰ってきたらなんかでっかいのが家の横に建ってるんだもんな。驚くわな。

 ユマに頼んでポチとタマに説明してもらったが、それでも暗くなるまで家に入ってこなかった。せめて作り始めるところを見せてから遊びに行かせるのだったと思った。


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新連載始めましたー(アルファポリスからの転載です)


「離島で高校生活送ってます」

https://kakuyomu.jp/works/16817139557736626697


離島の高校に入った少年たちの青春物語です。基本ぐだぐだです(ぉぃ


「虎又さんとお嫁さん~イージーモードな山暮らし~」

https://kakuyomu.jp/works/16817139556261771572


山の上に新婚さんが引っ越しました。隣村の屋台で買ったトラネコと、不思議な畑と共に、レストランを経営して暮らしています。


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