361.構えているとそれほどでもなかったりする

 ポチとタマが同時に帰ってきた。


「ポチは本当に行かないのか?」


 改めて聞いたけど、「イカナーイ」という返答があった。たまには一羽で過ごしたいのかもしれない。きっとそういう時もあるよな。


「ポチ、寒いからあんまり外で遊ぶんじゃないぞ?」


 一応注意したらポチの身体が少し揺れた気がした。もしかして夜通し走り回る気じゃないよな? いくら月が出ているからってそれは無謀だろう。


「ポチ?」


 クァーッ! とポチが大きな鳴き声を上げた。途端にタマにつつかれている。

 喧嘩はせめて俺の見てないところでやってほしい。

 ユマがトットットッと二羽の近くに寄り、


「ダメー!」


 と大きな声で言った。二羽は弾かれたように飛びずさり、そっぽを向いた。二羽の様子があまりにも対照的だったので思わず笑ってしまった。ユマが振り向く。


「ダメー!」

「はい、すみません……」


 俺もユマに叱られてしまった。笑ってはいけませんね。はい、ユマにはかないません。

 でもどうしても頬が緩んでしまったせいかユマに軽くつつかれた。かわいい。(ニワトリバカ)

 表情ってわかるものなのか? 雰囲気かなと思いながら軽トラを発進させた。今日は特に手土産もない。持ってくるなと先に言われてしまった。相川さんは用事があるらしくもっと早く出たようだった。

 陸奥さんちに着いた時、もう西の空が赤く燃えていた。さすがにこの時間遊びに行っていいとは言えないなと思った。相川さんの軽トラは着いていた。

 軽トラを下りてタマとユマを下ろしたところで相川さんがこちらへ来るのが見えた。


「やっぱり佐野さんですね。こんにちは」

「こんにちは~」


 ニワトリたちを促して陸奥さんちの庭に連れて行った。

 陸奥さんは縁側に出てきていた。


「おー、佐野君。ありがとうな~」


 俺は苦笑した。ハクビシンを倒したのはうちのニワトリたちである。


「ニワトリが倒したって言えばいいんですか?」

「そういう身内の話じゃねえから言わなくていい。そうは言ってもタマちゃんとユマちゃんを見りゃあわかるわな」

「そうかもしれませんね」


 一応七時半以降に陸奥さんちに集合の予定らしい。簡単に酒とつまみだけ用意してハクビシンが出たから屋根裏の調査をさせろという話をするようだ。


「屋根裏の調査とか具体的にどうするんですか?」

「一番楽なのは害獣駆除業者を呼ぶことだな」


 金銭面が楽じゃなさそうだけど、素人が勝手にやるよりはいいのかもしれない。


「ま、そこらへんの相談だな。貸家だからな」


 貸家と聞いて今更ながらギクッとした。そういえば俺も地元にマンションの一室を持ってるんだよな。管理は伯父に頼んでるけど。やっぱり個人じゃなくて大手の会社に頼んだ方がいいんだろうか。どちらにせよ春になってからだなと後回しにすることにした。

 またおいしい夕飯をごちそうになり、陸奥さんのご近所さんたちが来るのを待った。


「こんばんは~」

「こんばんは~、緊急招集とかどうしたんですか~?」


 おじさんたちが続々と縁側から上がってきた。玄関は回らないらしい。

 もう辺りは暗いのでニワトリたちは陸奥さんちの土間にいる。

 全員集まったところでビールで乾杯をした。


「今回呼んだのはほかでもねえ。ハクビシンが出やがった」

「ええ~?」

「どっから? この家からかい?」

「そりゃあ困るなぁ」


 陸奥さんの話に、おじさんたちは困ったような顔をした。彼らはハクビシンの害についてある程度わかっているようだった。


「それがなぁ、林の脇にある使ってねえ小屋があっただろ。あそこの鍵が壊れてたんだかなんだかで住み着いてたらしい」

「何匹ぐらいいたんだい」

「7匹だ」

「そりゃあ本当に困ったな……」


 おじさんたちが腕を組んで難しい顔をした。


「で? その7匹はどうしたんだ?」

「ここにいる二人が処理してくれたんだよ」


 おじさんたちの視線が集中して居心地が悪い。


「そりゃあすげえ」

「どうやったんだ?」


 ニワトリが一番活躍したのでニワトリが小屋の周辺でハクビシンを見つけて獲ってきたこと。小屋の中に逃げ込むのがいたので扉を開けて小屋から追い出し、それで捕まえたことなどをかなりはしょって説明した。ニワトリの尾で倒したなんて言ったらおかしなことになっちゃうだろうしな。


「だがなぁ、家の屋根裏なんぞに潜まれた日にゃあそう簡単に捕まえられねえだろ?」

「そうだよなぁ」

「屋根裏で音がしてる家あるか?」

「ネズミかと思ってたよ」

「ハクビシンの可能性もあんのか。参ったなぁ」


 特に問題もなさそうだったので相川さんとそっと席を立った。蓋を開けたら俺たちはいなくてもよかったんじゃないかというぐらい拍子抜けだったが、そんなこともあるだろう。玄関脇の居間に移動したら、陸奥さんの奥さんに「アイス食べる?」と小声で聞かれた。

 アイスなんて久しぶりだ。相川さんと顔を見合わせ、喜んでいただいた。


「こっそりだから、うちの人たちには内緒ね?」


 陸奥さんはどうやら仲間外れにされたらしかった。まぁ知らなければそれでいいだろう。

 暖かいところで食べるアイスはおいしいなと思った。



ーーーーー

レビューいただきました♪ ありがとうございます!


とっくに80万字超えてましたー。これからもよろしくですー(ぉぃ

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