346.害獣には違いない
冷静になってよく見たら、もう一頭はそれほど大きくなかった。子どもに毛が生えたぐらいなのか、それともそういう個体だったのかどうかは不明だ。興奮していたせいか大きい個体を先に、と陸奥さんが思ってしまったらしい。大きいつづらかよ、と呆れた。
よく見ていなかった俺も悪いです、ハイ。
一応持ってきてから雪を被せておいたから多少は冷えていると思うのだがどうだろう。秋本さんと結城さんは雪で汚れなどを落としてから軽トラに積んだ。
「早くて明後日だけど大丈夫かい?」
「ああ、明後日で頼む」
「もう一日置いた方がいいとは思うけどなー。二頭だからいつも通りで」
「よろしく頼むわ」
秋本さんと陸奥さんがそんなふうにやりとりをした。話がついたようで秋本さんたちは帰っていった。ニワトリたちは満足そうにそこらへんを悠然と歩いている。
あ、そうだ。と思い出してニワトリたちに集まるように言った。
「尾、洗わせろ」
ココッ! とニワトリたちが返事してくれたのでそこらへんの雪で尾をざっとキレイにした。さすがにシカの毛がついた尾のまま軽トラに乗せたくない。陸奥さんも嬉しそうにタマの尾をキレイにしてくれた。
「いや~、さすがだよな~。シカとは助かったな!」
息子さんの一良さんたちが苦笑している。
「本当にすごいですね。天敵がいないからシカは増える一方なんです。シカが増えれば野菜も木の芽も食べられてしまいますし、かといってそう簡単に捕まえることもできなくて……」
「シカは猟期が決まってるからな」
陸奥さんが忌々しそうに言う。イノシシは害獣扱いだから罠でならば年中とっても許されるが、シカは猟期以外で捕ってはいけないのだ。農家や林業に携わる家からするとどっちも害獣なんだけどな。やっぱり見た目の問題なんだろうか。
シカを獲ったので明日は休みで、明後日の夕方にこちらに来ればいいそうだ。ニワトリたちにそう伝えたらコッ! と返事をした。食べられればいいらしい。
「今度は何を作ろうかしらねぇ……病気とかしてなければいいんだけど」
陸奥さんの奥さんもウキウキだ。未だ病気の個体は見ていないが、病気だったら廃棄になってしまうから祈るような気持ちである。少し話してから今日のところは帰ることにした。
帰宅したらもう日が陰ってきたので、ニワトリたちには今日はもう終わりと告げた。
「エー」
「エー」
ポチとタマが不満そうな声を出した。お前らをキレイにする人の気持ちも少しは考えてほしい。ユマは異論はないようだった。ユマはいい子だよな~。
「今日は狩りしただろ? 洗うぞー」
ニワトリたちをざっと洗ってから家に入れた。スマホを確認したら相川さんからLINEが入っていた。あー、連絡するの忘れてた。
まだ夕飯を作る時間ではないだろうと電話をかけた。
「もしもし、佐野さん。今度はシカを二頭ですって?」
相川さんの声が嬉しそうだ。
「ええ。全くどうやって狩ったんだか……」
「ニワトリさんたちの瞬発力はすごいですからね~」
そういえば一緒に狩りに行ってるから動きは知っているんだった。
「明後日陸奥さんちに来るように言われましたけど、もしかしたら桂木さんたちも合流するかもしれません」
相川さんに言われて何事かと思った。寝耳に水である。
「あれ? 妹さんて免許取れたんでしたっけ?」
「うまくいけば、というところらしいですよ。合格すれば佐野さんにも連絡がいくんじゃないでしょうか」
いつのまに桂木姉妹と連絡を取っていたのか。連絡先は知っているわけだから桂木さんから連絡がいけば返事ぐらいはするか。そこまで考えて、そういえばLINEで余計なことを書いてしまったことを思い出した。もしかしたら桂木さんは怒っているのかもしれない。
……はっきり言って面倒くさい。
「そうですか」
「桂木さんにはちょっと用事があって連絡したんです。その時に言っていたことなので、こちらに戻ってきているのかもしれませんね」
「無事合格していたらいいですよね」
電話越しに笑い合った。
電話を切って夕飯の支度をする。
またシカか、と思った。
ニワトリたちの餌が増えるのはいいが調理しづらいんだよな。あ、でも、と思い出した。
シカ肉カレーうまかったな。
「そっか、カレーにすればいいんだ……」
それなら少しは俺の分ももらってこれるだろう。一週間カレーでもいいし。
気分が上がってきた。
スマホが鳴った。桂木さんからのLINEだった。ちょっとどきどきしながら見てみたら、
「リエがバカすぎて困ってます!」
と入っていた。
What Happened?(何があった?)
なんで英語。
一人ツッコミしながら返信する。
「どうしたんだ?」
「受からないんです! シカ肉祭り行きたい!!」
シカ肉祭りて。
「……一夜漬けで、どうにかがんばらせてくれ」
どうも学科の最終試験でてこずっているようだ。とりあえず、桂木妹が受かりますようにと山頂の方に向かって手を合わせておく。困った時の神頼みとはよくいったものだ。もちろん本人の努力が不可欠なんだけどな。
あれもこれも全部うまくいけばいいなと思った。
ーーーーー
サポーター連絡:1日の定期便SS、近況ノートに上げました。お時間のある時にでもどうぞ~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます