327.肉はなんでもおいしい

 外で駄弁っているのもアレなので、居間に通してもらった。居間からは駐車場が見えないので暗くなる前にニワトリたちを誘導する必要はあるが、それまで外で立っているというのもおかしな話だった。

 お茶とお茶請けの漬物をぽりぽり食べながら、みんな何の気もなしにため息をついた。で、みなで顔を見合わせて苦笑した。


「いやあ~なかなか狩りがうまくいきませんでな~。失礼しました」


 陸奥さんが頭を掻いた。


「そうなんですか。今年度はかなり狩ったようなことを聞きましたが」


 松山さんが合わせる。


「いやあ~ほとんど佐野君ちのニワトリに手伝ってもらってしまって。おかげで今年の冬は冷凍庫からシシ肉がなくならないぐらいですよ」

「それはすごいですね」

「こんにちは~。挨拶もしないですいませんね」


 おばさんがお盆を持ってやってきた。一段落ついたらしい。バンバンジーと、サラダが出てきた。


「お世話になります」


 みんなでおばさんに頭を下げた。調理してくれる人には敬意を表さないといけない。


「イノシシも使うけどうちは鶏屋だから鶏肉が多いけどいいかしら?」

「もちろんです!!」


 みんな即答した。


「佐野君、ニワトリの分は準備できたわよ」

「わかりました。ありがとうございます」


 相川さんに手伝ってもらって庭にビニールシートを張り、おばさんからボウルをいくつも受け取った。ありがたいことである。イノシシは健康体だったらしく内臓もしっかりあった。


「ここのところは百発百中ですね」


 相川さんが嬉しそうに言う。


「?」

「たまに病気になっている個体を捕まえてしまうこともあるんです。そうするとやっぱり落ち込みますね」

「そうなんですか」

「病気になっていたイノシシの個体を見つけたら保健所にも連絡する必要が出てきますし、けっこう面倒なんですよ」

「えええ」


 そんなことまでしないといけないのか。


「たまに一頭程度であれば報告はしないんですが、さすがに二頭三頭と続いた場合は絶対に連絡しないとまずいですね」

「ああ……」


 それはなんとなくわかる気がする。


「豚にも移る可能性が高いからですよね」

「ええ。養豚場の近くに病気のイノシシがいたせいで、なんてことになったら目も当てられませんからね。まぁ養豚場の豚はワクチンなどを接種しているとは思うのでそうそう伝染病にはかからないと思いますが0ではありませんし」

「ですね~」


 畜産農家もたいへんだ。

 とりあえずボウルを並べてぼうっと待っていたらニワトリたちが戻ってきた。

 ココッ! と俺と相川さんの姿を見つけて声をかけてきた。


「ポチ、タマ、ユマ、おかえり~。ごはんの用意、できてるぞー」


 コココッ! と鳴き、なんとも嬉しそうである。食べ方がなかなかにダイナミックなので被害を受けないようにとっとと庭から居間に上がった。


「? あんなに遠くでいいのかい?」


 松山さんがニワトリたちを眺めて不思議そうに言った。


「食べ方がけっこうワイルドなので、下手すると血とか飛んできちゃうんですよ」

「そうかあ、すごいねえ」

「お待たせ~、どんどん食べてね~」


 イノシシと鶏肉の唐揚げが出てきた。イノシシは小さめに切られている。これだと食べやすくてどんどん入っていきそうだった。大根と鶏肉の煮物や、野菜炒め、きんぴらレンコンに小松菜の煮びたしなどが出てきた。


「シシ鍋でいいんでしょう?」

「はい、ありがとうございます!」


 イノシシは鍋がいいなと改めて思った。みそ仕立てのシシ鍋がとてもうまい。ビールも開けたがみんな食べ物に集中してしまった。


「いやあ、佐野君ありがとうね。こんなにたくさんシシ肉を食べたのは久しぶりだよ」

「身体が温まっていいわよね~」


 松山のおじさんとおばさんに喜んでもらえてよかった。


「……それはよかったです」


 もちろん決して俺が何かしたわけではない。狩ってきたのはニワトリたちだ。ニワトリたちはイノシシの内臓も、肉も、更に野菜もすごい勢いで食べている。足りなくなれば言いにくるだろう。


「うちの山を回ってもらうってことはできるのかね?」


 松山さんが陸奥さんに聞いている。


「依頼してくれれば来るが。その時は佐野君ちのニワトリにも同行を頼みたいな。もちろんニワトリたちには日当を払うぞ」


 陸奥さんが言い、戸山さんと相川さんがうんうんと頷いた。


「えええ?」


 どんだけうちのニワトリは買われてるのだろうか。どちらにせよニワトリたちに聞く必要はありそうだ。


「やっぱり佐野君ちのニワトリは特別なんだな。うちの鶏たちじゃああはいかないものなぁ」

「あんなニワトリばっかだったら困るよなぁ」

「返り討ちに遭いそうだよねぇ」


 松山さんもいい塩梅に酒が入ってご機嫌だ。陸奥さんと戸山さんも顔が赤い。一度ニワトリがおかわり希望でクァーッ! と鳴いたので、シシ肉をおばさんにもらった以外は楽しく過ごした。

 陸奥さんと戸山さんについては陸奥さんの息子さんが来て回収していった。


「また鶏を買いに来ることがあるかもしれません。どうぞよろしくお願いします」


 息子さんはぺこぺこしながら帰っていった。俺は相川さんに手伝ってもらってビニールシートを片付け、松山さんちに泊めてもらった。今日もおばさんの料理はとてもおいしかった。


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本日は一日外出の為、虎又さんも含めて予約更新入れていきます。よろしくですー


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「虎又さんとお嫁さん~イージーモードな山暮らし~」29話まで修正更新しています。

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