314.ニワトリは即戦力らしい

 ほどなくして陸奥さんたちが戻ってきた。先頭にいるポチのとさかが心なしか力を失っているように見える。

 毎回獲物が獲れるわけではないと知っていても、獲れないとテンション下がるわな。


「お疲れ様です、おかえりなさーい!」


 声をかけると陸奥さんたちが手を上げた。うちに入ってお茶を淹れる。


「いやー、さすがに遠いな」

「遠いね~」

「枯草が困りましたね~」


 いろいろ片づけをし、コタツに入ってお茶をすすりながら陸奥さんと戸山さんがぼやく。魔法瓶など洗う必要があるものを受け取って洗う。うちの裏山から行くと桂木さんの土地はほぼ平地だ。桂木さんではなかなか草など刈ったりできないので冬は枯草で足が取られるようだった。


「んー、ってことは草刈りしに行った方がいいですかね」

「……一応待ち伏せが基本ですからそれほどは気にならないかと。ただ、シカには逃げられるかもしれませんね」

「あー、そうですよねぇ……」


 逃げ足早いしな。

 外を眺めると、ポチとタマが不満そうに枯草をつついていた。こんなに寒いのにどこかを開けておくことに慣れてしまったなと思う。陸奥さんたちはコタツに入っているから家の扉が開いていても文句は言われない。

 寒いは寒いけど昼間だから底冷えがするかんじではないし、まぁ許容範囲だ。


「……明日はどーすっかな」

「回る場所を考えた方がいいかもね~」

「……北側から回ってみます?」

「それもいいかもしれねえな。おーい、ポチ、タマちゃん! 作戦会議だ!」


 表に向かって陸奥さんが声をかけるとポチとタマが駆け込んできた。スライディングしてきたような形だ。危ないっての。つかニワトリ交えて作戦会議ってなんだよ。お前らもキリッとしてココッ! とか言ってんなよ。

 いてもしょうがないのでユマと家の周りを適当に見て回ることにした。

 ほどなくして明日の方針が決まったらしい。ポチとタマが意気揚々と出てきた。そして相川さんも出てきた。


「佐野さん、すみません」

「いえ?」


 別に謝られるようなことはないと思う。


「明日は何狙いになったんですか?」

「一応はシカですね。その後イノシシを狙えたらいいかなと思ってます」

「だいたいいる場所は把握してるんですか?」

「シカはけっこう見かけますよ。こっちが見かけるってことは相手にも認知されてるので逃げられちゃいますけどね」

「あー、そういうことですか」

「ポチさんとタマさんがイライラするのもわかります」

「確かに」


 見える場所にいるのに捕れないとかいらつくわな。うまくいくといいんだが。


「個体数がけっこう多いんで、間引いた方がいいとは思うんですよね。村の方まで出て来るかどうかはわかりませんが、このままだと増えていく一方なので」

「そんなに多いんですか」

「ええ」


 手付かずの平地で増えてしまったのか。なかなかに問題ではある。


「おそらくタツキさんも食べてはいると思うんですけどね。それでも冬は食べないみたいですから」

「ですね」


 捕まえて食べるのが一番だ。そんなことを話して、その日はみな帰って行った。明日も似たような時間にきてくれるらしい。みそ汁は好評だったようなので、明日も用意することにした。

 夜は換気を忘れずにスンドゥブチゲを食べた。それ用に作ったという柔らかい豆腐が口の中でくにゅっと溶ける。熱い、辛い、うまい。ニワトリたちの卵を加えたから味は絶品だ。うまいうまいと言いながらはふはふして食べた。キャベツの千切りに昼間買ってきた松山さんちの蒸し鶏を切って加え、ごま油と塩であえて食べた。うまい。直接買いにいこうかなと思った。


「はー……うまい。あれもこれもうまい」


 ニワトリたちにはいつもの餌に豚肉をつけた。オカラも多めに入れた。たんぱく質いっぱい取らないと疲れるだろうし。


「シカ、獲れるといいな?」


 ポチとタマが首を上げた。


「シカ、トルー!」

「シカ、タベルー!」

「タベターイ!」

「うんうん、がんばれよー」


 応援しかできないけど、やる気があるのはいいことだと思った。

 蒸し鶏が思ったよりおいしかったので松山さんに電話した。


「もしもし、明けましておめでとうございます。佐野です」

「もしもし? 佐野君か。おめでとう。餌が足りなくなったのかい?」

「いえ、餌はまだ大丈夫だと思うんですけど、雑貨屋で蒸し鶏を買いまして」

「ああ! 買ってくれたのか。ありがとう! で、どうだった?」

「おいしかったです。日持ちがするならまとめて買わせていただきたいんですけど……」

「おお~、嬉しいねえ!」


 今日の明日というわけにはいかないので数を言ってくれれば用意すると言ってもらえた。鶏肉の冷凍ブロックもほしいはほしいんだけど今日の蒸し鶏も切ればすぐに使えるので便利でいいなと思った。


「食べてくれたの~? ありがとうね!」


 おばさんが電話をかわったので感想を言ったらまたごはんを食べにおいでと誘われた。


「最初に蒸し鶏を知らせてくれたのは相川さんなんですよ。相川さんと一緒に今度お邪魔してもいいですか?」

「もちろんよ~! 必ずきてね!」


 と言われたので今度相川さんとお邪魔することにした。

 さて、手土産はどうしよう。



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