310.家から裏山経由して東の土地ってかなり無理があるのでは?
さて、翌朝は祝日から明けて火曜日である。いい天気だった。
場所的に降ったら雪になるとは聞いているんだけど雨雲どこいった。いや、降ってほしいわけではないけど。
今朝は早くから陸奥さんたちがやってきた。裏山の足跡を確認して東の土地に続いているようなら見に行くのだろう。ドラゴンさんに許可は取ったし、桂木さんも捕まえた動物は好きにしてくれていいと言っていたので陸奥さんたちは意気込んでいた。
「よし! 今週の週末までは佐野君の山から東の土地まで回るぞ!」
「けっこう遠征するねー」
「わかりました」
俺がついてってもいいんだけど俺と一緒じゃ進みが遅くなるから相変わらずの留守番である。猟銃も持ってないし。今回はポチとタマが足をタシタシしてマダー? と言いたそうだった。
ちなみに今朝はタマが起こしに来るまえに目覚ましで起きた。着替えている際にターン! と襖が開いたのにはびっくりした。
「タマ?」
タマは起きている俺を見てチッと舌打ちして去って行った。えええ、ニワトリの舌打ちってえええ。つかタマさん態度悪すぎじゃないですかね? いいかげん泣くぞ。
襖を閉めて行ってくれなかったから廊下から更に冷気が入ってきて寒い。タマはもしかしたら俺を殺す気なのかもしれなかった。つらい。そんなことをつらつら思い出している間にみな準備が整ったようだった。
陸奥さん、戸山さん、相川さんがポチ、タマと共に出かけた後、家事をまったりした。昨日買い出しに行ってきたので食料はしっかりある。いや、食料自体は元々それほど困ってないんだよな。バリエーションが増えたというか……。ああそうか、嗜好品が充実したのか。「人はパンのみにて生くるものに非ず」という聖書の言葉が浮かんだがそれは意味が違うなと思った。なんかもういろいろ連想される言葉が間違っている。もう少し勉強し直した方がいいかもしれなかった。
洗濯して、掃除して、うちの周りをユマと共に見回り、畑で小松菜を採ってユマに何枚かあげた。
「またおいしく生えますように」
畑に向かって手を合わせる俺、怪しすぎる。
本日のみそ汁の具材は小松菜とじゃがいもだ。大きめの鍋に作ってある。野沢菜の漬物も買ってきてあるし、うちのニワトリたちのではないが味付け卵も用意した。俺、完璧である。
確か芸人さんで、「俺って天才かも?」って決め台詞を言う人がいなかっただろうか。気分はあれである。
畑の向こう、元家屋があった辺りを見て回り、軽トラが停まっている辺りも見に行った。さすがに道路に出る気はなかった。
「うん、異常なしだな」
「イジョーナシ?」
「おかしいところがないって意味だよ」
「イジョーナシ!」
「うんうん」
ツン、と首を上げて言い直すところがかわいい。本当にユマには癒されるよな。
家に戻って気になった場所をいじったりしているうちに昼になった。玄関の外に出ると、ちょうどみな戻ってくるところだった。午前中は成果なしだったようだ。
「いやー、キツイな」
「厳しいね~。明日からはあっちでお昼も食べるようかな」
「困りましたね」
東の土地まで一度下りてからこちらへ戻ってきたらしい。すごい体力である。俺もこちらに来てから大分鍛えられたと思うがそれほどではない。
ニワトリたちにエサを準備し、こたつでぐんにゃりしている陸奥さんたちにみそ汁をよそったりとお昼の準備をする。
「ああ~おみそ汁おいしいなぁ……日本の心だよねぇ~」
戸山さんがほっとしたように言った。言っていることはわかるんだけど規模がでかいなと思った。
味付け卵がうちのニワトリたちのではないとわかって肩を少し落としたのは見てとれたが、そんなにそんなに提供できるものでもない。だって一日二個だし。産まない日もあるし。一日二個なら俺のたんぱく源で終りだと思う。
「明日からどうしようか……」
「みそ汁ぐらいなら魔法瓶に入れて持ってってもらうことはできると思いますけど」
でもそれだったらインスタントみそ汁を持ってった方がいいのかな、とも思った。なんか自分で言って恥ずかしくなった。
「じゃあそれでお願いできますか?」
だが相川さんにしれっと言われた。
「いいですけど……」
「佐野君のみそ汁うまいしな」
「おかわりもらっていい?」
「あ、はい。どうぞ」
戸山さんのお椀にお代わりをよそった。明日は魔法瓶を用意することが決まってしまった。普段から使っている方を使うことにしようと思った。
みな午後も元気に出かけて行った。
「なぁ、ユマ。俺ももう少し鍛えた方がいいかな……」
「キタエルー?」
ユマがコキャッと首を傾げた。説明が難しい。
「ちょっとごめんな」
そう言って腰を落とし、ユマをだっこしてみた。うん、前よりしっかり重くなってる。
「サノー?」
きょとんとしたつぶらな瞳がかわいい。体重はもう少し増えてもいいけど縦には伸びないでほしいかな。
「ユマはかわいいな」
「カワイイー?」
ユマが羽を動かそうとしたので慌てて下ろした。
「うん、かわいい」
「カワイイー!」
バッサバッサとユマが羽を上下に動かす。いつものやりとりだけど幸せだなと思った。
それと、ユマの質問には全く答えていないなとも。
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