303.やっぱり狩猟がしたいらしい
寝る頃になって、あのイノシシがこの山の主だったらどうしようと思ってしまった。
でもなぁ……もう絞めてしまったわけで。おいしく食べればいいんじゃないかな。こっそり山の上に向かって感謝を捧げた。
「山の神様、いつも山の幸をありがとうございます」
と。
とてもありがたいと思っている。
明日は川中さんと畑野さんも来るらしい。みんなでまた裏山を見に行ってくれるそうだ。でも夕方になったらおっちゃんちに集合することになっている。土曜日サイコー! と川中さんが叫んでいたとかなんとか聞いた。確かに次の日仕事では飲むわけにもいかないだろう。
秋本さんからは特に病変があるなどの報告はなかった。イノシシは健康体だったらしい。よかったよかった。
…………。
翌朝、また俺の上にタマがのしっと乗っかった。
「ぐえっ!?」
……いや、わかってはいたけどさ。早く起きたってしょうがなくないか? かなり重いんだが。
「タマ……重い……どけ……」
「サノ、オキルー」
「わかった、どけ……」
睨みつけてやるとタマはすんなりどいた。俺は上半身をどうにか起こして嘆息した。
「……タマ、起こす度に乗るなって言ってんだろ。そのうち俺死ぬぞ」
「ダメー」
「乗るなっつってんの」
「ンー?」
コキャッとかわいく首を傾げてもだめだ。俺の死因はニワトリによる圧死なのではないだろうかと真面目に考えてしまった。
つーかなんだそのあざとさは。
布団を畳み始めるとタマは満足したらしくトットットッと戻っていった。タマがいなくなったら途端に寒くなった。慌ててハロゲンヒーターをつける。やっぱ生き物が側にいるだけで違うようだった。
そういえば夏の清掃の際、子供たちが多くて暑かったな。子どもたちは体温が高いから余計に暑かったのかもしれない。そう考えると小学校の教室とか夏はとても暑いのではないだろうかと思った。
とりとめもないことを考えている間に着替えを終え、洗面所に寄ってから居間に向かう。
「ポチ、タマ、ユマ、おはよう」
「オハヨー」
「オハヨー」
「オハヨー」
こうして聞くと九官鳥みたいだな。ニワトリって人の言葉しゃべったっけ? いつもなんだか疑問である。
今朝も卵を産んでくれたようだ。土間から回収し、キレイに拭いて冷蔵庫にしまう。
「タマ、ユマ、いつもありがとうなー」
今日はこれでタマのことも許してやろう。
みんな一応昼はこちらで食べるのでみそ汁は作る。ニワトリたちはいつも通り、朝飯を食べたら表へ出た。
「今日は裏山を巡るみたいだから、待ってろよー」
「ワカッター」
「ワカッター」
「ワカッター」
え? ユマも行くのか? それはなんか寂しくてやだなぁ。
「全員で行くのか?」
改めて聞いたら、ユマがトットットッと近づいてきた。
「イカナーイ」
思わず笑顔になってしまった。だってしょうがないだろう。こんなにかわいいんだから。
俺がよっぽどデレデレしているように見えたのか、タマが戻ってきて何度も俺をつついて行った。
「痛いっ! タマッ、痛いって!」
痛くて当然よと言われているみたいだった。タマさんが本当にひどいっす。
そんなことをやっている間に相川さんの軽トラが入ってきた。その後続々と軽トラが到着する。さすがに軽トラが五台も停まると圧巻だ。
こんにちは~と挨拶を交わす。川中さんと畑野さんはとても機嫌が良さそうだった。
「やーっと土曜日も休めるようになったよー。やっぱ二日休まないと疲れが取れないよね」
「世話になる」
相変わらず二人の温度差が激しい。
今日はあまり時間がないのでその場で準備をして裏山に行くようだ。
「いったん昼には戻る予定ですが……遅くとも三時までには戻りますので」
「はい。大丈夫です、よろしくお願いします」
相川さんに言われて頷き、またポチとタマを一緒に連れて行ってもらうことになった。昼に戻ってこれなかったとしても餌は自分たちでどうにかするだろう。というわけでいつも通り送り出した。
俺はその間にまた泊まりの準備である。しっかしこんなにこんなに甘えて、おっちゃんちは大丈夫なんだろうか。さすがに今回イノシシの解体費用は出そうとしたのだが、秋本さんには余った肉をもらえたらそれでいいよと言われてしまった。もう一頭獲れたらそちらはしっかりお金を取ってくれるそうだ。一頭目から取ってほしいんだけどな。今更言ってもしかたないのでもう一頭獲れることを祈ろう。つか、裏山でイノシシが獲れなかったらうちのニワトリたちが暴れそうだ。
畑の作物はあと二三日というところだろう。葉物がいつでも食べられるっていいよな。
昼を過ぎた頃浮かない顔で陸奥さんたちが戻ってきた。
「おかえりなさい」
「ただいま……」
うちに入ってもらいみそ汁を人数分よそう。無駄にならなくてよかった。みんななんともいえない顔をしている。
「どうかしたんですか?」
落ち着いてから聞いてみると、陸奥さんが顔を上げた。
「ああ、いや……もしかしたら裏山のイノシシは東の山からたまたま入ってきたものなのかもしれなくてな」
東の山というと桂木さんの土地だろうか。
「そうかもしれないってことですよね?」
「更に裏なら国有地だからそんなに気にするこたあねえんだが、誰かの土地のってなるとなんかあった時困るからな」
イノシシの足跡が東の山に続いていたってことなんだろうか。
相川さんと顔を見合わせた。
「ってことは桂木さんの土地ですかね」
ナル山の裏の土地はどちらかといえば平らだ。そちらからうちの土地に入ってこなければいいのだが。
「まぁそれだけじゃねえんだ」
「?」
「シカがいたんだよ。逃げられたがな」
「シカ……」
というとやっぱり東の土地と行き来してるってことなのかな。
「イノシシもそうですけど、今シカって増えすぎてるんですよね」
この質問って何度目だろう。怒られなきゃいいんだけど。
「ああ、今や立派な害獣だ。東の土地はあの嬢ちゃんたちのところだったか」
「はい」
「じゃあ裏の土地に入っていいか聞いといてくんねえか?」
「わかりました」
みんなが食事中にLINEを送ったら、
「いいですよー。なんか狩るんですか? いいなああ」
と返ってきた。
「全然そっち動けないの?」
「公道出たら怖くなっちゃったみたいでなかなか進まないんですよー」
確かに今や雪道だもんな。さもありなんと思った。桂木妹は可哀想なことになっているらしい。
「免許、無事取れたらお祝いしようって言っておいてくれ」
「喜ぶと思います。ありがとうございます!」
スタンプを送ってやりとりを終えた。
「東の裏の土地、入って狩ってもいいそうです」
「そりゃあ助かるな。狩猟できる場所が広がるのはいいことだ」
みんな嬉しそうに笑んだから本当に狩猟が好きなんだなと思った。
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スピンオフの「虎又さんとお嫁さん~イージーモードな山暮らし~」ですが、更新は十二時頃、一日一回で固定します。
修正更新でも朝上げるのがきつかったので(汗
あちらもよろしくお願いします~
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