298.帰宅してからもたいへんだ
……家の中がとても寒い。
何日も空けるとこうなるんだよな。底冷えがするというか……。急いでオイルヒーターをつけ、ニワトリたちには遊びに行ってこいと追い出した。
「イルー」
ユマはこちらにいてくれるらしい。優しいなぁと思う。
「ユマ、でも家の中寒いからな?」
洗濯は必要ない。おっちゃんちでおばさんが毎日洗濯してくれていた。ただ、乾いていないものはあるので家の中に干すことにした。洗濯してもらえるってありがたいよな。ホント、一人暮らししてから親のありがたみがわかる。あのまま順調に結婚していたらずっとわからないままだったかもしれない。だからって婚約を解消されたことがよかったなんて欠片も思ってはいないけど。
ユマは家の周りを散策するようだ。ああそうだ、畑も見に行かないとと慌てて畑を見に行った。……収穫にはもう何日か待った方がいいかな。
「餅、どうすっかなー……」
それほど量をもらってきたわけではないが年末についた餅である。冷凍保存はできると聞いたけど明日から食べることにして、水餅にすることにした。タッパーに入れて水が被るほど入れて冷蔵庫で保管というやつである。毎日水を換える必要はあるがこれで大体一週間ぐらいは持つ。さすがに一週間あれば食べ切るだろう。いただいた野菜は新聞紙にくるんで倉庫だ。今日明日の分の餌も倉庫から取ってきた。これでとりあえず明日一日ごろごろできる。明日一日ぐらいはのんびりしたい。って、毎日のんびりしてたじゃないかって? フォアグラにされるのもつらいんだって。俺は誰に言い訳をしているのか。おかしいなぁと首を傾げた。
風呂場を洗ったりとあれもこれもやってからやっと一息ついた。表に出て両腕をぐぐーっと伸ばす。ストレッチパワーって……子供の番組だったっけ。確か教育番組だよな。あの黄色いおじさん元気だろうか。
夕方それほど暗くなる前にニワトリたちが戻ってきた。ところどころ汚れているので、でかいタライにお湯を張ってできるだけ汚れを取った。ユマが私も私も、というようにうろうろする。
「……ユマは後で一緒に風呂に入ろうなー」
「オフロー」
昨日一昨日はおっちゃんちにいたからユマと風呂に入れなかった。さすがにおっちゃんちでユマもお風呂に~なんて言えやしないし。羽をバサバサさせて喜ぶユマにほっこりした。本当にうちのニワトリたちはかわいいよな。じーっとポチとタマを見る。タライに湯を張って洗ったりしてはいるが寒くないんだろうか。
「サノー?」
ポチにコキャッと首を傾げられてしまった。
「いや……ただ洗っただけでいいのかなって。風呂、入りたくならないのか?」
ひよこの時はタライにお湯張って三羽共入れてやってたんだけどな。なにせちょっと目を離すと泥だらけになっていたから。
「オフロー?」
「うん」
「ヤダー」
「ヤダー」
「ハイルー」
「そっか……」
ポチとタマはお風呂は嫌なようだ。でも汚れればしっかり洗わせてくれるんだから面白いよな。
夜は冷凍ごはんを雑炊にして食べた。しばらくは雑炊でいいと思う。胃が疲れ切っているのを感じた。
ニワトリたちは変わらずがつがつ食べている。そんなにメニューが変わっているわけでもないのでそれは当たり前なんだが、ある意味いいなぁと思ってしまった。思っただけだけど。
ユマとまったり風呂に入り、よーくユマを乾かして寝る前にスマホをチェックしたら桂木さんからLINEが入っていた。
「?」
「こちらN町です。雪がけっこう積もってるんですけど、そちらは大丈夫ですか?」
というメッセージと共に雪が積もっている写真が添付されていた。
「うわあ……あっちに降ったのか」
そういうこともあるのだ。こっちは昨日の夕方から雨に変わったけどそっちは雨降らなかった? と返して寝た。ただ食っちゃ寝してただけのはずなんだが、やっぱり他人の家では気疲れしたらしかった。
翌日からは何日かまったりして過ごした。
桂木さんからは、「雨に変わったんですか? いいなー」と返信があった。まだ桂木妹も免許取得まではしばらくかかるみたいだ。教習を受けるとその都度金はかかるのだが、ゆっくり取った方がいいのではないかと思った。
せっかく雨が降って雪が溶けたので、翌日の午後は上の墓を見に行った。
「挨拶が遅くなって申し訳ありません」
雨だけでなく風もけっこう吹いたのか、墓の周りはけっこうたいへんなことになっていた。木ぎれや草、葉っぱなどを全て片付けて線香と餅をそなえて手を合わせる。ここ数日のことを報告した。って、俺の近況を報告されても困るだろうな。
墓もやっぱりちょっと世話しないとたいへんなことになるようだった。ここにはユマと一緒に来た。ユマはいつも通り地面をつついている。こんな寒い時期にも虫っていたりするんだろうか。
「神様のところへはちょっとなぁ……」
さすがにこの時期、全く整備されていない山を登る気にはなれない。山頂に向かって手を合わせる。
「春になりましたらまた参ります」
ぴゅーーーっと風が吹いて、一瞬その風にくるりと巻かれたような気がした。
「?」
気のせい、なのか? まぁここでは何が起きても不思議はないんだけどな。
その日は首を傾げつつ家に戻った。
新年明けてしばらくして、山はやっぱり平和だった。
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