297.今年もできる範囲でがんばりたい(食べ過ぎでやっぱり胃が重い)

 五日の朝も梅茶漬けをいただいた。今朝は雨は止んでいた。

 昨夜も四人で一瓶ではあったがビールを飲んでしまったので、帰るのは昼を過ぎてからにした。昼食の準備までさせてしまうことになるがしょうがない。おばさんにすみません、と頭を下げた。


「あら、全然かまわないわよ~。なんだったら今夜も泊ってく?」

「いえ……お気持ちは嬉しいですが今日は帰ります」

「そーお? 何もなくてもいつでもいらっしゃい。昇ちゃんも相川君も家族同然なんだから」

「ありがとうございます」


 寒い季節って人恋しくなるのかもしれないな。社交辞令でもなんでもそう言ってもらえるのは嬉しかった。

 昼食はまた餅だった。焼いた餅に大根おろしと納豆を大量にかけ、醤油をたらしていただいた。なんでこんなにうまいんだろう。ちなみに大根おろしは男連中でがんばった。これでもかとすりおろしたおかげでみな腕がぐだぐだである。


「はーい、大根もちもあるわよ~」


 そのもちはなんか違うと思う。そちらもみんなでもりもり食べた。うまい、うますぎる。この家にいつまでもいるのは危険だ。せっかくつけた筋肉が全て贅肉に変わってしまいそうである。贅肉とはよく言ったものだよな。漢字みただけでうわあって思うし。


「ううう……また食べ過ぎてしまった……」

「勝てない……おいしいものには、勝てません……」


 居間で相川さんと屍になる。


「まさかあそこで大根もちが出てくるとは……」

「油断しましたね……」


 さっぱりと魚でも食べる為なのかとばかり思っていたら、大根もちになるなんて誰が予想できただろう。またおっちゃんが怒っていたがおばさんは見事に聞き流していた。うん、でもおいしかった。大根もちなんて中華料理屋でしか食べられない物かと思っていたから嬉しかったのは確かである。

 しばらく食休みをして縁側からつっかけを履いて庭へ。そのまま畑の方を眺めた。

 ユマが俺の姿を見つけたらしくトットットッと近づいてきた。そしてコキャッと首を傾げた。


「ユマ、ポチとタマに声かけてきてくれるか。そろそろ帰るから」


 ユマがコッ! と返事をして、トットットッと畑の方へ戻っていった。前から見ればでっかいニワトリなんだけど後ろから見るとでかいトカゲの尻尾……あれで勢いつけて叩かれたら骨とか折れそうだなと思う。その尾が左右に揺れている。なんかキレイだなと思った。あの尾の手入れもしっかりしないとな。


「佐野さん、嬉しそうですね」

「ああ……ええ、俺ニワトリバカみたいで」

「ペットっていうより家族ですもんね」


 相川さんが楽しそうに笑う。相川さんにとってもそうなんだろうな。


「テンさん、冬眠してるんですよね?」

「ええ」

「寂しくないですか?」

「そうですね……寂しくないと言ったら嘘になりますけど……」


 もちろん相川さんちにいるのはテンさんだけではないから、それほどではないかもしれない。


「ただ、うちはそれほどべったりしているわけではないですし、ごはんも毎回用意しているわけではないですからどうかな」

「自分で食べてくれる方が多いんでしたっけ」

「あの体格ですからね。こちらで全て用意していたら破産しそうですよ」

「うーん、確かに……」


 ペットを飼うには経済力が必要だとしみじみ思う。だってうちのニワトリだってかなり食べるし。うちのがでかいからじゃないかって? そうじゃなくても病院に連れて行ったりとか、病気にならないように気をつけたりとかいろいろ金がかかることは間違いない。人間の子どもを育てるほどはかからないかもしれないけど、それでもかかる金額は考えておかなければいけないのだ。


「そろそろ帰りますねー」


 おっちゃんとおばさんに声をかける。


「あらあ、本当にもう帰っちゃうの?」


 おばさんは残念そうだ。


「お前が作りすぎるからだろう!」


 おっちゃんがいつになく怒っている。でも食べる食べないはその人の問題だし。


「そんなわけないじゃないですか」


 まぁここにずっといたらウエストがきつくなりそうではあるけど。そこは意志が弱い俺が悪い。


「とってもおいしかったです。お世話になりましたし、ごちそうさまでした。いつもありがとうございます」

「真知子さん、大根もちのレシピを教えていただいてもいいですか?」

「あらあら、昇ちゃん。そんなに気にすることないわよ~。相川君おいしかった? 嬉しいわ~」


 おばさんがご機嫌でよかったよかった。帰りにまた野菜をいただいてしまった。でっかい白菜はニワトリたちも食べるからとても助かる。餅も持たされた。どうしようと思った。

 ニワトリたちを軽トラに乗せ、「また来ます」と声をかけて山へ帰る。山の道が白かったら困るでしょうと相川さんがうちの山の麓までついてきてくれた。あれからこちらでも雨が降ったらしく道に雪はなかった。

 相川さんに頭を下げてそこで別れた。イノシシの件については陸奥さんに連絡してくれるらしい。本当に頭が上がらない。

 今年もいろいろな方に助けてもらいながら暮らすことになりそうだった。

 これが当たり前と思わないように、きちんとお返しをしたり、甘えすぎないようにしようと気持ちを新たにした。

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