240.裏山へ行くのは楽しみでしかない
ここのところイノシシラッシュ(言っててなんかおかしい)のおかげでニワトリたちがイノシシ肉をもりもり食べていて満足そうだ。なんかユマとお風呂に入る時、分厚くなってる? と思った。上には伸びてないみたいなんだけど、横に、というか筋肉がもりっとついてきたように思えるのだ。気のせいならいいんだけど。
「ユマ、ちょっといいか?」
断って湯舟の中で抱きしめてみた。……うん、なんか分厚い。羽を撫でて離れたら気持ちよさそうに目を細めていたから俺も嬉しくなった。ユマってホントかわいいよな。
なんか忘れてる気がするけどまぁいっか。
「あ」
風呂から上がり、ユマをよく拭いたところで思い出した。スズメバチの巣の件もそうだが、おっちゃんに連絡をしていなかった。明日からみな裏山を回るようだが、おっちゃんに連絡した方がいいんだろうか。でも俺が裏山に行くわけじゃないしな。考えていたらおっちゃんから電話がきた。
「もしもし、昇平か?」
「おっちゃん? どうかしました?」
「ああ、明日そっちに行くからな。陸奥さんから連絡あってよ、明日は裏山に行くんだろ?」
「ええ、そう聞いてます。おっちゃんもそれで?」
「おう、ニワトリたちが案内してくれるんだろ?」
「たぶん、そうなると思います」
ポチとタマが張り切っていたからな。確かに道案内がいれば便利だよな。明日なんだったら俺も着いていくか。陸奥さんたちに確認してからだな。
「つーわけだからよろしくな。あ、飯とかは用意しなくていいからな~」
「わかりました。明日よろしくお願いします」
電話を切ってからカレンダーを見た。そういえば明日は日曜日だから川中さんと畑野さんも来るんだっけか。イマイチ曜日感覚がなくて困る。会社がないと毎日が日曜日だもんな。実態はそこまで休めてるわけではないけど、俺はここに好きで住んでいるんだから毎日が日曜日に違いない。
「…………」
明日いきなり一緒に行きたいって言っても迷惑だよな。午前中からじゃなくてもいいんだけど、少しだけでも裏山に足を踏み入れてみたい。
「相川さん、明日の裏山入りって俺も着いてってもいいですか?」
思い切ってLINEを入れたら、
「え? 行きますよね? みなさんそのつもりですけど」
と当たり前のように返ってきた。
「はい、行きます!」
わーい、みんなで裏山だー!
両手を上げて喜んでいたらニワトリたちにきょとんとした目で見られてしまった。少し恥ずかしくなってそっと両手を下ろしたら、タマにすごく冷たい視線を向けられた。タマさんのツンが今日もつらいです。もっと優しくしてほしいなぁ。俺飼主だよなぁ。ツンの視線がツンドラ仕様だよ。寒いよ寒いよ……と思いながら寝た。切ない。
……今日からみんなで裏山を回るという話はニワトリたちにもしてあった。
だからって、
「……なぁ、タマ、ユマ、重いんだけどどいてくれないか?」
「オキロー」
「オキテー」
「お前らが乗ってたら起きられないだろ。どけー!」
ちなみに、廊下ではポチも乗ろうかどうしようかでうろうろしてたっぽい。だから起こすのに乗るなっつーの。いいかげんそのうち骨が折れるわ。タンスの上からとか勢いよく飛び降りたりされないだけましか? いや、もうでかすぎてタンスの上に飛び乗ることもできないよな。困ったものである。
ニワトリたちの朝ごはんは養鶏場から買ってきた餌と小松菜である。土間でタマとユマの卵を回収して二羽の羽を優しく撫でた。
「卵、いつもありがとな」
タマにはフイッと顔を背けられた。ツンがつらいって言ってるだろー。ユマは、
「アリガトー」
と言っていた。わかってないみたいだけどそれはそれでかわいい。
キャベツと油揚げの入ったみそ汁を大鍋で作る。白菜の浅漬けを用意し、イノシシ肉の醤油漬けを焼いて、目玉焼きを作って朝ごはんにした。漬物は確か他にたくあんもあったはずだ。梅干しもあるし、シャケフレークもある。海苔もある。ごはんのおかずには十分だろう。お菓子は、と見ると固焼きの煎餅もあるからいいかなと思ったが、飴も欲しいなと思ったりする。今度買ってこよう。
畑を確認したり、結局ここはどうするんだろうなぁと廃屋跡を見たりしてキレイに晴れた空を眺めた。
そういえば、イノシシを沈めた川ってどこだったんだろう。舗装された道沿いではないだろうからちょっと行って帰ってくるというのも難しい。相川さんが来たら聞いてみようと思った。
やがて、軽トラが続々と到着し始めた。畑野さんの軽トラに川中さんが乗ってきた。この二人、なんだかんだいって仲がいいんだよな。
「久しぶりだねー、こんにちは~」
「久しぶり」
川中さんが軽くて、畑野さんは年相応というかんじだ。
「来ていただいてありがとうございます。またよろしくお願いします」
陸奥さん、戸山さん、相川さん、おっちゃんは各自やってきたので駐車場代わりに使っている平らな場所が軽トラでいっぱいになった。やっぱみんな集まるとすごいなと思った。
ニワトリたちが待ってましたとばかりに俺の横に並ぶ。だからお前らどんだけ楽しみにしてたんだっつーの。
とりあえず苦笑した。
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