238.狩猟って狩るだけじゃないらしい

 翌日、桂木姉妹がN町のウィークリーマンションに移ることを話したら、なんでもっと早く言わないのかとみなに言われてしまった。


「佐野君、送っていかなきゃだめだろう」

「え? 手伝いとかも断られたので……」


 なんでそんな真面目に怒られるのかわからなかった。


「彼女じゃねえのか?」

「違いますよ!」


 なんで男女というと付き合っているとすぐ思われるのだろうか。解せぬ。


「なんだ、違うのか。マンションの場所は聞いてるか?」

「念の為住所は聞いてあります。近々どういうところか確認に行こうとは思ってますけど……」

「本当に彼女じゃねえのか?」

「だから違いますって」


 陸奥さんとぎゃいぎゃい言い合っていたら相川さんが苦笑した。


「佐野さんは面倒見がいいんですよ」

「……忙しくないですし。N町に買物に行きがてら確認できたらってだけですから」

「今時奇特だよなぁ」


 陸奥さんが言う。そうなんだろうか。俺は寝ざめの悪い思いをしたくないだけなんだが。

 気を取り直してイノシシ狩りに向かってもらった。なんか今日は昨日と違い随分と大荷物を抱えている。猟銃もそうだが相川さんのザックがパンパンだった。そんなに張り切って狩りをするのだろうか。

 今日もポチとタマが向かうらしい。イノシシ狩りについてユマはあまり興味がないようだった。ポチかタマが行かないなら代わりにいくかもしれない程度であるらしい。


「ユマは、狩りにはあまり興味はないのか?」


 つんつんと軽くつっつかれた。タマみたいな容赦ないかんじではなかったけど、違うと言われた気がした。

 ならどうしてなんだろう。


「村の雑貨屋に行くけど、ユマも行くか?」

「イクー」


 一緒に出かける相手がいるってなんか嬉しい。相川さんのところのリンさんは最近は山を下りないみたいだ。寂しくないのだろうかと思ってしまった。寂しがり屋は俺なんだけど。

 午前中に出かけたから雑貨屋には誰もいなかった。調味料など不足している分を買った。調味料は気が付くとなくなっていたりするから困る。砂糖はあんまり使わないから減らないんだけどな。醤油と酒の消費量が多い。母からLINEでレシピを送ってもらったりしているせいかみりんも使うようになってきた。今だに使う理由はよくわからないがコクが出るのかな? 料理はやっぱり難しい。

 とはいっても俺が用意するのはみそ汁ぐらいだ。漬物は出すものだと思っているから出してるし、まぁあとはおにぎりでもあれば十分だろう。

 買物だけして帰宅して畑を見たり、枯草を刈ったり、廃屋跡をどうしたものかと考えているうちに太陽が中天を回ったがみななかなか帰ってこない。


「……みんな遅いな……」


 ユマがおなかをすかせたらかわいそうなので、先におやつ代わりの白菜をあげた。


「残りはみんなが帰ってきてからなー。わかった?」

「ワカッター」


 いい子だ。

 スマホを確認したら、相川さんからLINEが入っていた。


「ビニールシートを出して広げておいてください」

「?」


 解体でもすんのかな。

 家から少し離れたところにビニールシートを広げて敷いた。少し風が出てきたので石を四隅に置いた。解体するとしたら水を汲んでおいた方がいいんじゃないだろうか。またスマホを見てみたが何もきていない。


「解体するんですか?」


 ズバリLINEを入れてみたが全然既読にならない。忙しいのか電波が届かないところにいるかどちらかだろう。とりあえずよくわからないのでお湯を沸かしておくことにした。イノシシの毛を毟るのに、お湯をかけると毟りやすくなるなんて聞いたことがある。本当にそうかどうかはわからないけど、どちらにせよみんなが戻ってきたらすぐにお茶を淹れてあげたいしな。

 そんなことをしていたらみなが戻ってきた。


「おかえりなさい!」


 あれ? イノシシは持ってないぞ?


「おおい、佐野君。イノシシ狩ってきたぞ~!」


 陸奥さんがご機嫌だけど肝心のイノシシはどこだろう。相川さんが持っているビニールには……。

 えええ……と思った。


「イノシシって……」

「先に内臓だけ持ってきました。病変も全くなくてキレイなものですよ!」


 ってことはどこかで解体してきたのかな。


「解体してきたんですか?」

「ええ、内臓を出しただけですけどね。残りは川に沈めてきました」


 さらりと言うなぁ。


「解体、できるんですね……」


 思わずあほなことを言ってしまった。

 みんなへんな顔をした。


「ああ、いつもあきもっちゃんに頼んじまってるからなぁ」

「あっちが本職だから頼んだ方が楽なんだよね。今回も頼んだよ~」

「川に沈めてきたので、秋本さんはゆっくりこられると思います。遅くなりましたがごはんにしましょう~」

「……すみません」


 なんかとても恥ずかしかった。そうだよな。狩猟って狩るだけじゃないよな。


「あははは、サボりすぎだね~」


 戸山さんがまいったというように頭を掻いた。みんなに改めて手を洗ってもらい、イノシシの腎臓をすぐに調理してもらった。残り? ニワトリたちのごはんになったよ。大喜びだったけど明るいところで見たくないなと思った、うん。



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