209.みんなイノシシが優先らしいです

「そうかー。やっぱお前んとこのニワトリは肉食なんだなぁ」


 電話の向こうでおっちゃんがガハハと笑う。笑ってもらえてよかったなと思った。


「……ごめん、おっちゃん」

「どーせ明日回ってもらったってまた見つかるとは限んねえんだ。そっちにイノシシがいるなら優先するのは当然だろ? ちょっと相談するから待ってろ」


 おっちゃんはそう言って一旦電話を切った。

 って。


「相談?」


 相談ってなんの相談なんだろう?

 疑問に思って首を傾げていたら、ニワトリたちもみんなしてこちらを見ながらコキャッと首を傾げていた。なんだよ、そのあざといの。可愛すぎだろお前ら。つい笑顔になってしまった。


「……ポチもタマもユマもかわいいなー……」


 みんなして今度は反対側にコキャッと首を傾げた。くっそかわいい。


「カワイイー?」


 ユマが反応してくれた。


「うん、かわいいよ」

「カワイイー」


 バッサバッサと羽を動かしてくれた。うんかわいい。ちょっと、いやかなりでかいけど。

 そんなことをしていたらおっちゃんから電話がかかってきた。


「もしもし?」

「おぅ、昇平。明日は俺たちも行くからな。処理費用はうち持ちで、調理はうちでしちまってもいいだろ?」

「……はい?」


 俺は耳を疑った。このおっちゃんはまた何を言っているのか。


「よし、じゃあ明日俺たちが行くってニワトリたちに言っとけ。んで案内してくれってな!」

「いやいやいやいや……何言ってるんですか」

「午前中に行くからちゃんと言っとけよ!」


 おっちゃんは言うだけ言うと電話を切ってしまった。

 ツーッ、ツーッ、ツーッという無常な機械音だけが後に響いた。


「えーーーー……」

「エー」

「エー」

「エー」


 ニワトリたちが唱和する。そうか、俺の真似だったのか。まぁ飼主に似るっていうもんな。脱力した。

 それにしてもだ。俺が聞き返した「はい?」を返事と受け取るとかどうなってんだ。初めからこっちの返事聞く気ないだろー。

 まぁでもしかたない。しかたないっていうか手伝いはとてもありがたい。だからこれは感謝してしかるべきだ。でも処理費用は絶対俺が払う。これだけは譲れない。


「明日、おっちゃんたちが手伝いに来てくれるってさ。だから明日はおっちゃんたちが来るまで待ってろよ」


 ポチとタマが目を見開いた。そして嘴を開く。


「マツー」

「マツー」

「マツー?」


 ユマはよくわかっていないみたいだった。バカな子ほどかわいいと言うしな……なんか意味が違う気もするが。そんなわけでとりあえずユマとお風呂に入ってから寝た。ハロゲンヒーターって部分的だけどすぐ熱くなるのがいいな。部屋全体は無理だけど。というわけで少しつけて布団に入ったらすぐ消すかんじである。

 朝目が覚めたら、何故かタマが俺にのしっと乗っかってきたところだった。


「? なんで?」


 世の中まだそんなに明るくないと思うんだが。タマの重さもそうだが?が頭の中で飛び交っている。


「タマー、重いー……時計見させろー」


 タマはすぐにどいてくれた。んで、時計を確認したらまだ六時前だった。


「うぉい。どんだけ楽しみだったんだよ……もうひと眠りさせろー……」


 布団にまた潜ったら、

 のしっ

 とまた乗られた。


「ターマー……寝不足はお肌の敵なんだぞー……」


 一応昨日は今日のことがあるのでけっこう早く寝たから睡眠時間は足りているが、それでも世界はまだ暗いし寒いのだ。


「オキロー。オキロー。オキロー」

「お前は壊れたおもちゃかなんかかっ! あーもうっ!」


 勝てるわけないんです。うちのニワトリたちは最強なんです。すみませんでした。

 というわけで起こされました。肌荒れが怖いです。(まだ言うか)


「あーもう……おっちゃんたちはそんなに早くこないってのー……」

「ミマワリー」

「ミマワリー」


 どうもポチとタマが先に見回りに行きたくて仕方ないらしい。結託して起こそうとするとかずるいなーって思う。ホントそういうところは知恵が回る。俺は苦笑した。


「あーもう、ちょっと待ってろ……」


 あーもう、あーもうばっかり言っててそろそろ牛になりそうだ。朝が早ければ早いほど寒いのだ。とはいえ居間は一晩中オイルヒーターがつけてあるので俺の寝る部屋よりはよっぽど暖かい。


「外は寒いだろーに」


 タマとユマの卵を回収して、ぶつぶつ言いながら朝食の準備をした。卵だ、卵があればがんばれる。


「確認したらすぐ帰ってこいよー。あんまり何度も確認してると逃げられるかもしれないからな」

「ワカッター」

「ワカッター」


 朝ごはんを食べた後、二羽はとてもいい返事をして家を出て行った。ガラス戸を開けた時、一瞬二羽の動きが止まったが、それでもツッタカターと駆けていってしまった。

 表に顔を出してみる。息が白い。畑の方も白い。霜が降りているようだった。

 そりゃあ寒いだろうなと思う。でもこの寒さの中元気に出かけていくのだから丈夫だなとも。ユマは俺の側についててくれる。


「ユマー、寒いなー」

「サムイー?」


 ユマがコキャッと首を傾げる。やっぱりちょっとうちのニワトリたちは感覚が鈍いのかもしれなかった。

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