207.猟師さんはカッコイイ

 川中さんは翌日の土曜日も出勤ということで、飲まないでそのまま帰っていった。すごい忍耐力だなと思った。


「も~、みんなして誘惑するから困るよ~」


 そんなことを言いながらちらちらとビールを見ているのがわかった。とりあえず見なかったことにした。


「日曜日は僕も参加しますんでよろしくお願いします」

「ああ、よろしくな」


 川中さんはおっちゃんに挨拶すると名残惜しそうに軽トラに乗った。きっと本当はもっと勧めてほしかったんだろうな。勧めないけど。


「川中は飲まなくて正解だな」

「そうだねぇ」


 陸奥さんと戸山さんがそんなことを言う。


「何かあるんですか?」

「うん。みんな飲んでるならいいんだけどね、飲んでない人がいると勧めにいっちゃうんだよ。台所の方にいる女性陣は……リエちゃんだっけ? まだ未成年だろう?」

「ああ、それは困りますね……」


 あっちまでは声をかけにいかないかもしれないが、リスクは少ない方がいいだろう。だから桂木姉妹がこちらにこなかったのかと合点がいった。


「未成年も何も昔は気にしなかったもんだがなぁ」


 陸奥さんが顔を赤くして笑う。


「だが……よそ様のお嬢さんになんかあったらまずいしな」


 紳士だ。陸奥さん超かっこいい。ずっとついて行きます。(どこへ)

 飲まない人がいたせいか今夜はほろ酔い程度で床につくことができた。これなら明日の朝は二日酔いなんて状態にはならないだろう。もちろん寝る前に外のビニールシートの片づけもしたし、ニワトリたちをざっと湯で拭いて土間に移動もさせた。(ビニールシートを洗うのは朝でいいと言われた)


「手際いいねぇ」


 戸山さんが感心したように言った。全てニワトリの為である。うん、ペットというより家族だよな。とても頼りになるけど、手もかかる家族だ。

 そんなわけで翌朝の目覚めは悪くなかった。

 ……うん、頭は痛くない。どこも痛いところはない。ちょっとだけ胃が重い気がするがそれはしょうがない。ただの食いすぎである。


「佐野さん、起きたんですね。おはようございます」


 相川さんが襖を開けて入ってきた。相変わらず爽やかである。昨夜酒を飲んだことを微塵も感じさせないイケメンっぷりである。羅列してみたが意味がわからない。


「……おはようございます」

「二日酔いは? してませんよね?」

「してないと、思います」

「ごはんの準備できてますよ」

「わかりました。ありがとうございます」


 布団を畳んでから顔を洗い、うがいをして居間へ顔を出した。


「おはようございます」

「おー、起きたか」


 戸山さん以外の男性陣が集まっていた。戸山さんは寝る時間がいつも長い人らしい。陸奥さんはあれだけ飲んでいたのに元気だなと思った。


「佐野君、卵いただいてるけどいいんだろ?」


 陸奥さんがおかずをつつきながら言う。


「ああ、うちののですか? かまいませんよ」


 今朝もタマとユマは卵を産んでくれたらしい。二羽で卵は二個なのだが、一個一個が大きい為しっかり卵炒めに使われていた。摘まんでみたが、卵炒めもいいなぁと思った。そういえば中華料理に卵とトマトの炒めってなかったっけ。二羽の卵を使って作ってみたらどうだろう。帰ったら作り方を検索してみよう。(過去に相川さんに作ってもらったけど忘れてます)

 食べ終えて座敷に移動したら桂木さんがいた。相川さんは居間の方にいる。戸山さんもやっと起き出してきた。


「おはよう、リエちゃんは?」

「リエは、ユマちゃんに遊んでいただいてます」


 どうやら追っかけっこをしているらしい。

「あはははは~」と楽しそうな声が何度も聞こえてくる。桂木姉妹はいろいろたいへんな目に遭いすぎている。少しでも嫌なことが忘れられるならいい。


「そっか。昨夜しっかり食べられた?」

「はい、おいしいところをがっつりいただきましたよ~。リエに奪われそうになってひやひやしましたけど」


 桂木妹も肉食系らしい。意味合いは違うが。


「リエちゃん、教習所行ってんの?」

「はい、ぼちぼちですね。今はまだなかなか予約が取れないみたいですけど」

「そうか……」


 雪が降る前にみんな免許を取りたいのかもしれないな。


「オートマ? マニュアル?」

「マニュアルを取るんだそうですよ。けっこう時間かかりそうですよね~」

「マニュアルはなぁ……」


 俺が取ったところは確か先にシミュレーターみたいなのを使った記憶がある。こっちの自動車学校でもそうなんだろうか。取るまでに何日ぐらいかかったっけかな? こっち来てからMT取っといてよかったと思ったけど。

 ただマニュアルじゃないと軽トラの運転はできないわなと思った。でも最近はATの軽トラもあるんだっけか? なんか扱いにくそうな……。まぁ自分のじゃないからいいか。

 そんなかんじで昼過ぎまでおっちゃんちでお世話になり、ニワトリたちを招集して山へ帰った。ポチとタマがぎりぎりまで山の方を見ていたのが少しひやひやした。今回は狩りはさせないからな。


「ポチ、タマ、だめだぞ」


 しぶしぶではあるが荷台に乗ったのでほっとした。

 シシ鍋、とてもおいしゅうございました。冬の間、何回呼んでもらえるかなぁ。



ーーーーー

「ああ、うちののですか?」は間違ってません。「うちの、(ニワトリ)のですか?」です。

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