142.虫嫌いじゃ生きていけない
「へー、湯本さんも山の土地、持っているんですね」
「だいたいこの辺りの家は少しずつでも持ってるんじゃないかな」
桂木さんに連絡をすると、彼女は感心したように言った。
そういえば相川さんの知り合いの川中さんは一人で住んでるんだよな。普段はN町でサラリーマンやってるって聞いたけど、帰宅して寂しいとか感じないんだろうか。うちはニワトリがいるからいいけど。
「明日ですね。柿、楽しみです! そういえばけっこう栗が採れたんですよー。おばさん、いりますかね?」
「聞いてみればいいんじゃないかな」
栗を食べてないなと思ったらさっそく栗の話題だ。栗ごはんとかおいしいよな。
「聞いてみます! また明日~」
桂木さんが上機嫌で電話を切った。以前からテンションは高かったけど、最近とみに元気な気がする。元気が一番だなと思う。
相川さんに連絡をすると、「行きます」という返答だった。みんな集まる口実を探してるよなって思う。いくら動物が一緒にいたって時折寂しくなるものだ。
「明日おっちゃんちに行くけど、一緒に行く人ー。桂木さんと相川さんも行くって」
「イクー」
「アソブー」
「イクー」
タマさんが留守番っと。そういえば相川さんにリンさんが行くのかどうか聞くの忘れてた。でも、いても半日だからいいかとも思った。タマは見ているとポチより動き回っている気がする。性格も体力も個々で違うし、ニワトリがこんなにかわいいなんて買うまでは知らなかった。やっぱり飼ってみるもんだなと思う。ただ、運動不足だと夜中に起きて騒いだりするから町で飼うのは難しいかもしれない。うちのは更にでかいから山でないと無理だろう。
山のもので持って行けるものはうちにはない。山菜はそれなりに生えているみたいだが俺にはその知識がないし、山野草のポケットブックなどを見てもわからないのだからしょうがない。きのこは危険だしーと内心少し落ち込みながら山の上の墓の手入れをしに行った。
いつもなら雑草を刈って、墓の周りを掃除したりして線香を供えて手を合わせて~で終りなのだが、ふと目線がいつもと違う方へ向いた。
あれって、栗の木じゃないか?
村の方向にある木々にイガイガがなっているのがわかった。けっこうな高さなので落とそうと思ったら棒かなにかがないとだめだろう。
「どーすっかな」
まだそんなに落ちているものはなく、陽が当たる場所にけっこうついている。木々の手入れをしてもっと太陽の光が当たるようにすれば来年はもっと採れるかもしれない。数は採れなくても実は大きくなるかもしれないなと思った。今日採ってもいいとは思うが、明日みんなにお伺いをたててからでもいいだろう。試しに落ちているイガを足で踏んで開けてみると、果たして粒は小さかった。
「落ちてるのは虫入ってるのが多いんだっけ……」
卵を産み付けられてすぐぐらいなら水につけて茹でればどうにかなる。
ついてきたユマを見る。栗ってニワトリにはどうなんだろうか? とりあえず栗は穴が開いてないものを選んでいくつか採った。市販の栗などとは違い、山栗は全体的に小さい。手入れをしていないからしょうがないのだ。
朝晩かなり冷えてきたせいか、虫の姿が減ってきたように思う。それでも蚊や虻の姿は見るから油断は禁物だ。ニワトリたちのおかげでうちの周りは特に虫がいない。すごい動体視力だなと思うのだが、飛んでいる虫をぱくりぱくりと食べてしまうのだ。一応害がない虫は食べないように言っているせいか、蜘蛛はいるしトンボやオニヤンマは悠々飛んでいる。巣を作るクモは少し厄介だが、家の中にいるハエトリクモは巣を作らないからほぼ同居状態である。たまに近くにいたりするとびっくりする。こっちが「わあ!」と声を上げると向こうもびっくりするのかぴょーんと跳んだりするから、ごめんと思ったりもする。けっこうかわいい。
山は食べられるものがいっぱいあるから、「この虫は食べないでくれ」と言っておくとみんな「ワカッター」と言って他のものをひょいひょい食べる。ホント、山って虫天国だなって思った。虫嫌いはとても住めないよなとも。
栗は水に一晩漬けて、明日処理をすることにした。比重が軽いとか、虫食いがひどい栗は水に浮くらしい。他にも黒ずんでいたり、白い粉がついていたりするものは虫食いの可能性があるという。実際栗を食べる虫に害はないというし、おいしいという人もいるらしいが俺はちょっと……。
ちなみに、ユマが穴の開いた栗をつついていたので試しに切ってみたらあまり見たくない光景を見ることになった。うわあーと思ったら出てきた虫をユマがぱくぱく食べていた。栗食べた虫ってニワトリは食べていいんだろうか。ちょっと悩んだ。(安全性は保証できないので安易に与えないでください)
って、桂木さんが採ったって栗も山栗だよな。虫大丈夫かな。
ちょっとだけ心配になった。
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