十月頃

141.10月に入りまして

 10月になった。指はちょっとひきつれたかんじが残るもののだいたい治ったと言ってもいいだろう。

 タマとユマは時折産まない日もあるが、それ以外は毎日のように卵を産んでくれる。とてもおいしくて嬉しい。最初のうちは有精卵じゃないかとかいろいろ気にしたが最近は気にしないことにしている。大事だと、これから自分の子孫が生まれるのだと思えば抱え込むだろう。産んでほっとくということはそういうことなのだと思うことにした。ポチをちらりと見る。なあにー? とでも言うようにコキャッと首を傾げられた。うん、ポチが気にしてないならいいんだ。

 おっちゃんの、スズメバチに刺された痕ももう目立たないらしい。翌日会った時、絆創膏もつけていなかった。アナフィラキシーショックについては、エピペン(アナフィラキシー補助治療剤)などを使って症状を一時的に緩和してから医者に見せるぐらいしか手はないようだ。ただそのエピペンというのがどこで手に入るのかとか、そんなに簡単に手に入れられるものなのかどうかは知らない。興味がある人は自分で調べてみてほしい。(誰に言ってんだ)

 みんなもう秋植えは終え、朝晩はかなり冷えるので畑にビニールシートを被せたりとそれなりに工夫はしている。おっちゃんちの畑にはビニールハウスもある。農家は野菜などは自分たちで作っているからそれらについては特に困らないが、肉や魚類は買わなければならない。そういえば乳牛を飼ってる家もあるって聞いたことがある。それほど人は住んでいないけど村の範囲はけっこう広いから知らない場所は全然わからない。村の地図とかいってもかなりアバウトだしなぁ。

 鳥居を作るって話もあったので、俺は養鶏場の松山さんに連絡をした。


「こんにちは。佐野君、指はどうだい? ちゃんとくっついてるかい?」


 いくらなんでもぶった切れてないんで。


「こんにちは。無事くっついてます。不法投棄対策で鳥居を作るって話がありましたけど、あれどうしますか?」

「ああそうだなぁ。一基ぐらい作ってもいいかもね。それでうちの山っていうより不法投棄が多そうなところに設置してみて反応を見るかんじで……。試しに作ってみてよ」

「わかりました」


 四連休も過ぎたし熱が冷めた感はある。でも不法投棄って本当に迷惑だからどうにかしたいって思いはある。というわけで相川さんにも連絡をとってみた。


「そうですね。鳥居を作るなんて話ありましたね。木材はいくらでもありますから、あとはペンキの調達ぐらいですか。注連縄と紙垂(しで)もあるとそれっぽく見えますよね」


 注連縄はわかるけど紙垂ってなんだろう。


「紙垂ってなんですか?」

「ああ、注連縄によくひらひらした紙がついてるじゃないですか。なんか四角っぽいというか……あれです」

「あー、確かに」


 確か雷っぽいあのがちゃがちゃしたかんじ? を思い浮かべた。あれがあるとなるほどそれっぽい。でもそんなもの勝手につけていいんだろうか。でもあるとないではえらい違いだろう。見た目って大事だ。


「あの紙って……」

「和紙を使っていたような気がします。注連縄は藁をもらえればできるかな」


 なかなかに本格的だ。材料が揃ったら作ってみようという話になった。工作ってわくわくするよな。

 鳥居の件はともかくとして、最近はイノシシなどによる獣被害が増えているらしいとも聞いた。不法投棄だの鳥獣被害だの、田舎というか山暮らしも楽ではない。10月になっても雑草は元気よく繁茂しているし、木々もまだ紅葉はしない。朝晩はかなり冷えてきたけどそれぐらいでは植物の生命力は衰えないようだ。雑草はいいかげん衰えろよって思う。

 イノシシの被害と聞いておっちゃんに連絡してみた。


「ああ、まぁな。寒くなってきたからな。うちもたまにやられるよ。裏の山辺りに住み着いてんのは知ってるんだがなかなかな」

「裏の山の所有者って……」

「隣の隣なんだよな。お前んとこみたいに山に住んでるわけじゃねえから手入れもあんまり行き届いてねえんだ。一部はうちの土地だからそこはそれなりに手入れしてんだが、それ以外の部分まではなぁ……」

「そういうのが困りますよね」


 うちは両隣とも交流はそれなりにあるから何かあればお互い様でどうにかってこともできるが、交流がないうちってなると苦情を入れるのも気を遣う。(イノシシに対してではない)ましてやここは代々人の流動が少ない村で、家族構成もほぼほぼ知っているとなると下手なことは言えないだろう。


「そういえば山の一部の土地って知りませんけど、なにかやってるんですか?」

「ああ、以前はな。さすがに最近は手入れも難しいから雑草とか、木の手入れを多少してるぐらいだ」


 あんな元気そうなおっちゃんでもたいへんなのだなとしみじみ思った。


「ああでも柿なら植わってるぞ。採りに来るか?」

「甘柿、ですか?」

「渋柿もあるぞ~」

「渋柿だと干さなきゃいけませんよね」

「ああ、作ってみるか。まだちょっと早いけどな」

「甘柿は採れます?」

「食ってもいい頃だ」


 柿って、9月中旬頃から出てくるんだっけか。10月だからそれなりに甘くなってんのかな。


「じゃあ明日行ってもいいですか?」

「おお、いいぞ。こいこい。隣山の連中を誘ってきてもいいぞ」

「わかりました。声をかけてみますね」


 そういえばまだ栗も食べてないなとふと思った。きのこはかなり食べたんだけど。やっぱ食欲の秋というのは間違いなさそうである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る