114.ニワトリも遠慮するらしい
ニワトリたちも俺が怪我をしたということはわかっていて、山に戻っても遊びに行くことを少ししぶっていたようだった。ここで遊びに行ってもいいというのは簡単だが、山の中で暴れて帰ってきた後俺が洗ってやることができない。だからといって相川さんに頼むわけにもいかないし、と思っていたら相川さんが気づいてくれたようだった。
「ん? どうかしましたか? 今日から僕がお世話しますから遠慮なくおっしゃってください」
するとポチが一歩前に出てきた。
「アソブー」
「どうぞ」
「アラウー」
相川さんは少し考えるような顔をした。
「あの……パトロールしてきたいけど、帰ってくるといつも汚れていたりするんですよ。それを毎回全部洗ってから家に入れてるので……」
補足すると相川さんは合点がいったようだった。
「そうなんですね。わかりました。帰ってきたら僕が洗いますから行っていいですよ」
「ワカッター」
「アイカワイイヒトー」
ポチとタマが現金なぐらいすごい勢いで駆けて行った。アイツらなりに気を遣ってくれてたんだなと思ったらちょっとジーンとした。うん、やっぱりうちのニワトリたちは天使である。(親バカっぷりが激しい)
「すみません、ありがとうございます。運動を満足にさせないと夜中に起きて騒ぎ出したりするので……」
「ああ、以前言ってましたね。確かに運動不足は大敵ですよね、子供だってなかなか寝ませんし……」
相川さんは何かを思い出したのか遠い目をした。
「今夜はこのまま泊まりますが、明日は一度うちの様子を見に帰りますね。すぐに戻ってきますから」
「いえいえ、相川さんの無理のない範囲でお願いします。明日にはもっとよくなっているでしょうし」
「いえ、一週間はきっちり面倒みますので遠慮しないでください」
にっこりされた。目が笑ってない。怖い。相川さんが俺を信用していないのはよくわかった。やることが雑でごめんなさい。
「ユマさんも遊んできていいですよ?」
「イルー」
側にいてくれるらしい。ユマさんやっぱり天使。
相川さんがふふっと笑った。
「みんな、なんだかんだいって自分に合った生き物を飼ってますよね。動物たちもいろいろ考えてくれている……」
「そうですね」
「野菜収穫しますね」
「ああ! すみません!」
何もできないけど籠はここ、とか鎌はこことか相川さんに普段使っている道具の場所を教え、伸びすぎになった野菜を採ってもらった。そろそろきゅうりもならなくなってきた。抜き取りの時期かもしれない。ってもう九月も中旬にさしかかっている。抜き取らないとな。
小松菜もまた一旦抜いて畝をならして種まきしないと……。
「相川さん、秋の作付けってどうしてます?」
「え? まぁ適当ですね。葉物が中心かな。カブとか、スティックセニョールも植えますよ」
「スティックセニョールってなんですか?」
「スティック状に育つブロッコリーですよ」
「それおいしそうですね」
「料理に使いやすくていいですよ」
本当にいろいろ植えているのだなと感心する。俺より三年長く暮らしているのだから当然か。ちゃんと周りにあった家も解体して、畑もけっこう広く作ってるし。
「畑の世話、しなくていいんですか?」
「まだまだ暑いので二、三日はほっておいても大丈夫です。それに、リンが水やりをしてくれるんですよ」
相川さんが嬉しそうに言った。
「……リンさん、野菜食べませんよね」
「肉食ですね。でも水やりは好きみたいです」
「そっか。いいなぁ……」
上半身綺麗な女性が水やりをしている図を想像してほんわかした。下半身蛇だけど。それも大蛇だけど。かなりシュールだな。
「あげませんよ」
「ニワトリだけで手いっぱいですよ!」
なんでみんなそういうことを言うのか。そんなに俺は物欲しそうに見えるんだろうか。
相川さんとリンさんがお互いを大事に思っていることがわかって安心した。恋愛感情はなくても相棒なんだろうなと思う。俺とニワトリたちもそんなかんじだ。いや、なんかうちのニワトリたちは俺を飼主だとは認識していないような気がする。
「あ、いけない!」
野菜を運んだところで相川さんが何か思い出したらしい。
「鹿肉もらってきたんだった!」
「ああ!」
「急いで置いてきます! 戻ってきたらポチさんたちを洗いますので!」
往復で一時間近くもかかるのにご苦労なことである。
「あ、あの……暗くなって車が動かせないようなら来られなくても大丈夫ですから」
「何言ってるんですか! また来ますからね!」
おーこらーれたー。
バイタリティあるなぁと思う。
「ユマさん、ちょっと出かけてきますが戻ってきます。佐野さんが無理しないように見ていてくださいね」
「ワカッター」
コキャッと首を傾げる姿がめちゃくちゃかわいい。でかいけど。
相川さんは宣言通りすぐに行って戻ってきた。すごいなぁと思った。
太陽が西の空に沈んでからポチとユマが帰ってきた。いつもよりは汚れていなかったが、慣れない相川さんは難儀していたように思う。本当にごめんなさい。ありがとうございます。
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