83.第二回ニワトリとごみ拾いウォークはてんてこまい
あんまり数が多いから保険の窓口に行って手続きをした。本気ですごい数になった。大丈夫なんだろうか。
心配になって相川さんにLINEした。
「参加者が、俺たちを入れて50人になりました。大丈夫ですかね」
「50人? 今電話できる?」
返事をする前に電話がかかってきた。
「もしもし?」
「もしもし、佐野さん? すごい数ですね」
「ええ……車を置ける場所がないかなーって思っちゃうんですけど」
「それは山の周りに停めてもらえばいいと思いますよ。朝も早い時間だし、基本あの道はあまり車も通らないから。駐在さんには連絡してあるんでしょう?」
「ええ、ごみ拾いイベントをやるってことは伝えてあります」
「じゃあ参加者の数も伝えて、交通整理をしてもらえるようならしてもらいましょう」
「伝えてきます」
やっぱり相川さんは頼りになる。
「ところで、50人分のパンと牛乳はどうなってますか?」
「あ、そうか……忘れてました。今町にいるのでどうにか買っていきます」
もう本当に俺のバカバカバカ。
「無理しないでくださいね。でしたら駐在さんには僕が会ってきます。明日も楽しみましょう」
あー、もう本当に頭が上がらない。そんなこんなで大量にパンと牛乳を買い込んでおっちゃんちに預け、ニワトリたちを回収して帰った。
翌朝、思った通りすごい数の人がうちの山の麓に集まった。なんかもう眩暈がした。大人には先行してもらい等間隔に立っていてくれるよう伝えた。
「おはようございます、佐野さん。すごい数ですねー」
桂木さんが目を丸くして近づいてきた。相川さんがさりげなくすすすと離れていく。苦手なんだなぁ。
「おはよう。そうだね。ナル山方面に子どもを11人と、ポチとタマ。僕たち2人と付き添いの大人が4人。全部で17人と二羽で行くよ」
「わかりました~。ごみ拾いがんばります!」
そこまで気合入れることもないだろうけど、この4日の間に車が通らなかったってことはなかっただろうから、ある程度注意して見回る必要はある。
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
「しゅっぱーつ!」
子どもたちがくり返してくれた。ありがとう。
ニワトリたちにはファスナーをつけた上に桂木さん作のポンチョを被せてある。村にずっと住んでいる人以外は不思議そうにニワトリたちを見ていた。
太陽が出たか出ないかというとても早い時間にもかかわらず子どもたちは元気だった。やっぱりかなりの数、煙草の吸殻が落ちている。吸殻ぐらい自分たちで持って帰ってほしい。風などで飛んでくる分もあるのだろうが、ペットボトル等が落ちているとため息をつきたくなる。
ナル山を越えて少しいったところで軽く休憩して戻って行った。帰りは道に立っていた大人たちも一緒である。普段から村にいない人たちはニワトリたちに興味津々だ。ニワトリたちもあちこち見回していろいろつついたり、ごみが落ちているところを教えてくれたりもした。本当にすごいニワトリたちである。
どうにか自分の山の麓に戻ってきた時、俺は精神的にかなり疲れていた。村外の人たちの相手は本当に神経を使う。残ってくれた人たちがBBQの準備をしている。もうひと踏ん張りだ、と俺たちも合流した。
「佐野君お疲れ~」
今回は相川さんの猟師仲間である川中さんも参加していた。
「こんにちは。参加していただきありがとうございます」
肉や野菜をあらかた焼き、みなにいきわたったところで話しかけられた。
「いやー、ニワトリと一緒ってとこに魅力を感じたんだけど、独身者は肩身が狭いねぇ~」
「そんなことはないでしょう」
川中さんは俺に話しかけているのだが視線が全然別の方向に飛んでいた。そちらを見ると……。
うん、まぁ桂木さんは普通以上にかわいいよな。
桂木さんはおっちゃんちの嫁さんたちとわちゃわちゃ話しているようだった。
「……佐野君、あのお嬢さんいくつかな……」
「俺より若いです。紹介はしませんよ」
「……もしかして彼女?」
「……違いますけど、俺一応あの子の兄みたいなものなんで」
夏祭りの日にそう言われたのだ。だからその期待には応えなければいけないと思う。
「ええ~、そんな~」
「失礼ですけど、川中さんにあの子はもったいないです」
「本当に失礼だな!」
川中さんは苦笑した。
桂木さんには是非いい男をゲットしてもらいたい。見た目若くても五十のおっさんに桂木さんはもったいない。
今回は大量に食材を用意したせいか、肉が少しだけ余った。助かったと思った。
「今日は参加していただき、本当にありがとうございました。次の開催は16日です。申し込みの締め切りは15日の昼12時までです。参加希望の方はそれまでにご連絡ください」
盛大な拍手で今回もどうにか終わった。子どもたちはニワトリたちを囲んでなにやらわちゃわちゃしている。
「そろそろ帰る時間だよー」
片付けをして、大人たちが声をかけた。
「えー」
「もっと遊びたーい」
「ニワトリ、帰ろー」
子どもたちからブーイングが上がった。頼むからうちのニワトリは連れて帰らないでくれ。
俺とおっちゃん、相川さんと桂木さんが最後まで残り、参加者の方々の車を見送った。
「お疲れさまでした。僕は駐在さんに伝えてから帰りますのでよろしくお願いします」
相川さんが笑顔で言い、さっそうと帰って行った。逃げたな。
「じゃあ俺もごみ持ってくわ。これだけでいいんだよな」
「ありがとうございます、いつもすみません」
おっちゃんの軽トラにごみ袋を乗せて持っていってもらった。
そしてニワトリたちと、俺と桂木さんが残された。
「……相川さん帰っちゃいましたね」
「うん、そうだね。僕たちも撤収しよう」
こんな、人目の全くないところで二人になるのはあまりいただけない。まぁ山の行き来はしているが。
「……さっき」
「ん?」
「佐野さん、若作りのおじさんと話してましたよね」
「うん」
川中さんのことだろうか。多少離れていたと思うけど、もしかして会話が聞かれていたのだろうか。
「なんか、多分風向きだったと思うんですけど……話してるの聞こえちゃって……」
ということはおっちゃんとこのお嫁さんたちにも聞こえたのか。それはさすがに恥ずかしい。俺の背中を冷汗が流れるのを感じた。
「……ありがとうございました。佐野さんは、これからも私のお兄ちゃんでいてください」
「うん、まぁ……それはかまわないよ」
晴れやかな笑顔は素直にかわいいと思った。
だけど。
「さっそくですがお兄ちゃん、相川さんと仲良くなる秘訣を教えてください!」
「まだ諦めてなかったのかよ!」
「えー」
半分冗談で、半分本気のようなかんじだった。まぁ冗談なんだろうけど。
お互い笑いながら別れた。ニワトリたちは今日も自力で山を駆け上って行った。だからお前らはねえ、どうなってんだよいったい。
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