79.反省会っていうと酒が入るイメージだけど

 うちの麓の柵の内側はけっこう広く踊り場のようになっている。柵の外側に車を止めてもらい、BBQは内側でやってもらった。一応食べたごみはビニール袋の中に入れるよう言ったが落ちているものがあるかもしれない。相川さん、おっちゃんと三人で辺りを見回し、拾ったごみも含めたごみ袋は外から見えない位置に運んだ。帰りにおっちゃんが持って行ってくれることになっている。


「今日もありがとうございました。うちに移動しましょう」


 二人を促した。ニワトリたちに「うちへ帰るぞー」と声をかけたら三羽は軽トラに乗らずに走って行った。


「えええ……」


 確かに一緒に歩いただけだから運動不足かもしれないけどさぁ。山を下るならともかく走って登っていくとかどうなんだ?


「おー、ニワトリすげえなー」

「絶対かないませんね」


 おっちゃんと相川さんがのんきに言う。ポンチョとファスナー、先に回収しといてよかった。あのスピードで走られたら壊れそうだ。

 気を取り直して各自軽トラに乗ってうちに向かった。BBQ用の道具はうちで保管しておくことになっている。これらはおっちゃんちから借りた。本当にみなさんには頭が上がらない。


「酒はー……」

「飲んじゃだめですよ。出しませんよ」

「山道ですから、さすがに危険ですよ」


 おっちゃんが手をクイッと動かしたが断った。ガードレールがないところもあるのだ。飲酒して運転なんかしたら死んでしまう。相川さんもフォローしてくれた。


「イマイチ調子がでねえな。ま、しょーがねーか」


 サイダーとかコーラなら残りがある。参加者の親御さんたちが気を利かせて飲み物を持ってきてくれたのだ。


「お茶飲みます?」

「ファ〇タでいい」


 漬物と煎餅をお茶請けに反省会をすることになった。え? ニワトリ? ユマは側にいるけどポチとタマは早々に山の奥へ消えたよ。薄情な奴らめ。

 俺と相川さんはコーヒー。おっちゃんはファ〇タで乾杯した。


「しまらねえな」

「まだ初日ですし。そういえば息子さんたちはいついらっしゃるんですか?」

「10日から14日までいるとは言ってたな。孫がいるから参加したがるかもしれん。11日の昼までに言えばいいか」

「はい。11日の午後に保険の申し込みに行くので。生年月日と本名を教えてくださいね」

「今はコンビニとかでできるんだってな」

「ええ、便利ですよ」


 ごみ拾いウォークをやるにあたっていろいろ調べた。個人だとスポーツ・レジャー保険は500円ぐらいかかるが、団体だと一人300円で加入できるとか、会社によっては70歳以上は入れないとかいろいろあった。


「12日の参加者は今のところ何人ぐらいだ?」

「子どもだけで10人ですね。他の家族が帰省してくるかもしれないのでわかり次第連絡するなんて家もありました」

「やっぱ12日は増えそうだな」

「そうですね」

「12日は桂木さんも参加されると言ってましたので、俺は桂木さんのルートに行きます」

「わかった」

「……わかりました」


 相川さんが休むという選択肢はないようだ。


「食材、もっと用意しないとまずいですね」

「そうだな。余る分にはいいんだ。持ち帰ればいいんだからな」

「はい」


 野菜はおっちゃんちと桂木さんちから提供される分、そして他の農家さんたちからも声をかけてくれと言われている。問題は肉だ。


「豚肉の確保が急務ですね」

「鶏は養鶏場から買ってますもんね」

「昇平、お前んとこのニワトリはイノシシ狩らねえのか」

「この間よそで狩りましたよ。さすがにそんなに狩れないんじゃないですか?」


 肉が足りないから山で狩るってなんてワイルド。


「……うちのではうまく捕まえられませんしね……」


 相川さんが考えるような顔で言う。大蛇ってあれでしょ。獲物にぐるぐる巻きついて全身の骨を折るっていう……想像しただけでめっちゃ怖い。

 だからアンタたち俺を見るな。ユマも見るな。


「……野生動物は時の運ですよ……」

「だよなぁ……町へ行って買い込みするにしたって迷惑だな」

「町ならいいんじゃないですか。早めに買って冷凍しておく必要はありますけど……。明日にでも行って……ってああー!」

「佐野さん、どうしました?」

「明日は元庄屋さんたちが墓参りにくるんです」

「じゃあこっちでなんとかするか」

「そうしましょう」


 もー俺はどんだけおんぶにだっこなんだよー。


「10日なら行けます……」

「じゃあ明日はS町に行って、数が確保できなかったら昇平は明後日N町に行ってくれ」

「りょーかいです」


 そんなこと言って、絶対明日二人で確保するに違いない。おっちゃんはどこにでもいる村のおっちゃんという風体だけど、相川さんと同じくハイスペックなのだ。やっぱベテラン、ってことなんだろうなと思う。言い出しっぺなのに役立たずな自分がつらい。

 ちゃぶ台に額をコツン、と落とす。


「……佐野さんのアイデア、すごくよかったと思いますよ。まず参加者にパンと牛乳なんて僕には思いつきませんでした」

「あれは盲点だったな」


 おっちゃんがうんうんと頷く。


「……小学生の時、ラジオ体操ってあったじゃないですか」

「ああ、あるな」

「ありますね」

「朝早くから公園に集まってやるから、朝食食べないで来て貧血で倒れる子とかいたんですよ。すぐ横でバタッと倒れられたの、すっごく怖かったです……」

「そっか。そういう経験、大事だな」

「そうですね」


 朝食は大事。少なくとも何か口に入れないとと思う。それこそチョコレート一片でもいいから。

 今回の反省点を踏まえ、12日はもっとスムーズに行えたらいいなと思った。

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