第20話
顔を真っ赤にして唸り、必死に秘所を隠そうと内股になる女に向けて、冷徹に告げる。
「アルをどこへやったか言え。血を洗い流したくせに、血痕がないところを見るに、そう遠くへ運んでないだろう?」
「うぅ……。その冷静さがあって、どうして僕がアルだという結論に至らないんですかあ」
「アルは男だからに決まってるだろ。さあ吐け」
「アルは実は女だったんですよぉ!」
まだ隠し果せると思っているのか、どこまでもふてぶてしい奴だ。まあ奴にとっては否定する以外の選択肢もない状況。口を割ることはないだろう。
これ以上、まともに付き合っても時間の無駄か。強引に行こう。
「今から不審者が出た、と衛兵を呼ぶ」
「ダメですダメですダメです!! 死んじゃいます!! 色々と死んじゃいます!!!」
「なら早く答えろ。アルはどこだ?」
「ここです!」
「こんな貧相な身体で情けない下の毛の女がアルなわけがないだろ! アルを侮辱するな!!」
「うううっ!! 今、レインさんが物凄く侮辱してます!!」
「うるさい! 衛兵を呼ぶぞ! 今すぐ、アルの居場所を話せ!」
「だからぁ! 貧相な身体で情けない下の毛の女がアルなんですよぉ!」
くっ、この女、どこまで……ダメだ、また頭に血が上り、冷静さを欠いてしまった。
強引な手をとっても吐かなかった。なら、一度、隠し通せるということを奴に諦めさせるほかあるまい。
「そこまで言うのなら、お前がアルだという証明をしてみろ」
「は、はい! でも、ど、どうやって?」
「簡単だ。俺たちが初めに会った場所はどこだ?」
俺とアルが昔会っていたことを知らない女は「学園です」と答えるだろう。だが、残念ながら答えは宿だ。
「宿です! 僕の宿!」
……え? まじでアル?
い、いや、待て。俺とアルは入寮初日から仲が良かった。その事実から、以前に会っていた、そして会うのは宿である可能性が高い、という推理ができんこともない。
危ない、騙されるところだった。次の質問で確実に心を折ってやる。
「その時の俺の名は?」
「ラーイ!」
……まじでアルじゃん。
なら、俺のやってること、やばくないか?
再びアルを見る。さっきは貧相と言ったけれど、綻ぶ蕾のような魅力に溢れた女の子の裸体。それが椅子に拘束されているせいで、隠すことができずにあらわになっている。
今の状況を第三者が見ると、控えめに言って犯罪……い、いや、こいつはアルじゃない! フランは学園に来て最初は、俺のことをラーイと呼んでいた! そこから察したのだろう!
くっ、今度はひっかけてやる、頭の回る女め!
「もしや、アルなのか? 申し訳ない、宿屋でずっと本を読んでゆっくり過ごさせてくれた恩人に、俺はなんてことを……」
「違います! レインさんはフランと僕とネコルと一緒に忙しくしてました! 科学のためにずっと苦労していました!」
……ダメだ、これ以上は現実逃避不可能。目の前にいるのは本物のアルだ。
だとしたら、このままであれば俺は犯罪者。
すー、とひと呼吸。
そしてゆっくりとアルに近づいて、着ていた上着をふぁさっとかけてあげる。
「女の子が、そんな格好していちゃいけないよ」
うやむやにしよう、とそう言ったところ、酷く冷たい視線を向けられる。
「……自分の服着るので、拘束解いてください」
「あ、はい。本当に、すみませんでした」
ささっ、と、拘束を解いて、90度の姿勢。
「そんなのいいですから。あと謝るのは、ふぁさっとする前が良かったです」
「いや、申し訳ない。何と謝っていいか……」
「いいから、出てってください……」
はい! と返事をして、俺はぴゅーと部屋を出ていこうとするが、背中に声が届いてやめる。
「あ!? 待ってください! お話ししないといけないので、部屋の前で待っててもらえると嬉しいです!」
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