第17話
「これで今日の授業は終わりです」
先生がそう言って最後の授業が終わる。
午後二時過ぎ。先生の話を聞くクラスメイトは疲労困憊だった。
朝から高負荷のトレーニングに、精神力を持ってかれる魔法の授業。食事をとってすぐの座学では、メモを取る手を休める暇がないくらい詰め込まれた。レベルや訓練のおかげで体力がある俺ですら、少し疲れるくらいなので、同年齢の子達には辛いものがあるだろう。
「疲れたと思いますが、これがこの学園の基本になります。週明けからは、この後の時間を月末課題のためにあててもらいますので、今週のうちに慣れておくように」
そう言い残して、先生は教室を去った。
月末課題、か。
共通ルートの分岐点が、週明けにはつつがなく始まる様子。着実に物語の道筋を進んでいることを実感する。
できれば課題までに、修正力の確認ができればいいんだけど。
ゲームでの課題はグループ制。選出された4人の班長の、どれかの班に希望して所属し、月末に与えられた課題の成果を競い合うというものだ。
よって、課題の途中で抜けるのは迷惑がかかるので、それまでに修正力の確認をしておきたいというわけだ。
ま、それがなくとも、早けりゃ早いほどいいけど。
と、俺はアルに目を向ける。
「授業終わったし、探検行こうぜい! アル!」
アルはフランに、ぐい、とヘッドロックをかけられていた。
大きすぎない、けど確かに大きい胸が顔に当たるシーンをみて、ドキドキしたような気がするけど、今は全くそう思わない。なぜだろうか、永遠の疑問かもしれない。
「や、やめてよ、フラン。皆見てるって……」
「いいじゃん、仲の良さをアピールしてやろうぜい! いえい!」
「ピースサインしないで。僕の肩身が狭くなっちゃうよ」
「じゃあ尚更ここにはいられないね! 学園探索という冒険に行こう!」
「行かない。僕は勉強しないといけないから。フランも……」
「じゃね! アル! また飯行く時呼んで!」
「ええ……」
フランが教室を去ってアルが取り残されると、一部始終を見ていたクラスメイトの間でひそひそ話が始まる。
俺は頬杖ついて窓の外を見ながら、耳を澄ませた。
『アルって言う子、フラン王女と仲いいよね』
『何でも、幼なじみらしいよ』
『平民なのに?』
『おかしいよな。ま、でも、アルって子と仲良くなれば、フラン王女とお近づきになれるかも』
なんて会話が聞こえてくる。
ちなみにここで俺は『平民などと戯れるとは、下劣な女だ。あんな者より、俺に媚を売っておくがいい』と言い放ち、総スカンを食らう。
今思えば、愛されないが故の不器用な立ち回りだった、と可愛らしく思えるが、そう思ってくれる人どころか嫌う人ばかりなのはわかっているので、言うつもりはない。
が、気まずくなってアルは教室を去る、というシーンでもあるので、アルが教室から去らないならば、言わないといけないかもしれない。
そう思って内心ため息をつく。
物語通り進めるために悪役を演じては、物語の筋を辿って死の未来しか待ってない。
かと言って何もせず、ハーレムルートに入れなければ、ミレニアの未来はない。
それに、昨日のローレルの件を思い出し、俺の未来もないと震える。
何もせずとも、物語が進んでくれるといいんだけど、と願いながらアルを見る。
アルはあわあわしながら鞄を抱いて、教室から出て行った。
どうやら進んでくれたみたい。
ほっと息をつくけれど、そのうち手を入れなきゃいけない事態も出てくるだろう。
なんて思いながら、今度はシリルに目を向ける。
「ハハッ、じゃあね。子猫ちゃん達」
女子の『ああ〜シリル様〜』なんて黄色い悲鳴を背に、シリルも教室を出て行った。
俺も教科書や筆記用具を鞄に詰め込んで立ち上がる。
次は今週最後の重要イベント。シリルの出会いイベントだ。
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